第10話

 次の日、私達は学校を休んだ。

 次の土日まで待ってられなかった。

 だって彼の決意が薄らいでしまったら困るから。


 助かったのは、彼が家の場所を覚えていたことだった。

 少し遠かったけれど、バスが出ていたので良かった。


 その日は晴れていて雲一つなかった。

 親子の再開にはもってこいの天気だった。


 バスから降りて、すぐのところに小さな一軒家があった。

 表札には”岡本”と書いてたった。


 いよいよだ。


 彼はこの炎天下の中歩いてきたにも関わらず、ガタガタと震えていた。

 私は近づいていき、そっと微笑む。


 彼の震えている指が呼び鈴に触れる。


 ピーンポーン


 緊張が走る。


 彼の震えはもっと酷くなった。

 いざというときは私がご両親と話すしかないな。


 そんなことを考えているうちにドアが開いた。

 出てきた女の人は彼の母親だろうか。


 母親らしき人は彼を見て目を見開く。


 彼は口を開こうとするが、その前に女の人が彼に抱きついた。

「樹…、よね?そうだよね?」


 見ると女の人は泣いていた。


 何でだろう。自分が捨てたっていうのに。産まなきゃ良かったとか言ってたらしいのに。


 色々な疑問が頭の中で彷徨っていたが、親子の再開に口を挟むわけにはいかないから黙って見ていた。


 彼は母親から離れて、口を開いた。さっきの震えは消え去っていた。

「何で捨てたの」


 その問に母親の体はビクンと震えた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」


 それしか言わなかった。

 いや、言えなかったのだろう。


 しばらくして、少し落ち着いた女の人が「こんなところじゃあれだから」

 と2人を家に招き入れた。


「貴方は愛されていた。だから捨てたの」

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