第8話

 初恋…?

「初恋って…、何で…」

 彼は赤くなった顔でこちらを見ていた。

 自信に満ち溢れた顔で。

「だって…、だって私は余命宣告されているんだよ?

 それなのに好きになんかなってなんの意味があるっていうの?」


 これが私の本音だった。

 これのせいで彼と結ばれなくなったとしても…。

 彼には幸せでいてほしかった。


「人が人を好きになることに意味なんかないんじゃないかな」

 え?どういうこと?

「俺が今君を好きになった。その事自体に意味があるんじゃないかな」


 私は何も言えなかった。

 彼は続ける。


「俺は、君の最期のときまで一緒にいたい」


 そんなふうに思ってくれてたんだ。それだけで嬉しかった。


 あの人は言ってくれた。だから私も言わなくちゃ…。

 私は決心した。


「私ね、余命が縮んだの」


 彼はとても驚いていた。でも途中から理解したようだった。

「そうなんだ」


 それだけだった。

 それ以上のことを言えないのだろう。


 ただ、もう一つ分かったことがあった。

 彼は本当に私のことを愛してくれている。

 気持ちは、私のことを愛してくれた気持ちは変わらなかったらしい。


 私は深く安堵した。


 彼は私に返事を求めなかった。

 もちろん、返事はOKだから。


 私は、この短い命で、彼に尽くそうと誓った。


 私の命は他の人より短かったかもしれない。でも、人生で大事なのは長さじゃない。

 そう分かった。


 少しだけ、自分が生まれてきた意味が分かってきたような気がする。だって、私を本気で必要としてくれる人がいる。

 それだけで嬉しかった。


 私の命に意味が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る