第7話

 あの約束から永遠の幸せを手に入れたと思っていた。


 でもそんな時間は長くは続かなかった。


 私の病状が急変した。

 症状が抑えきれなくなった。

 薬の量が増えた。

 それでも症状は良くなるどころか悪化し続けた。


 余命が…縮んだ。


 このことばかりは彼…岡本くんにも言えなかった。

 怖かった…拒絶されるのが、もう話せなくなるのが。

 そして何より…自分という存在がもうすぐ消えてしまうことがすごく怖かった。


 向こうはちゃんと話してくれたのに、全部、話してくれたのに。

 …なのに、私は言えなかった。


 私は学校に行けなかった。

 あの人のことを見ると泣いてしまいそうだったから。


 学校の代わりに今日も病院に来ていた。

 最近は毎日通院しているから、自分の病室を用意してもらっている。

 それに…、もうすぐ入院することになっている。


 入院生活が始まるともう学校にいけなくなる。周りの人たちは口を揃えて「行きなさい」と言うが、それでも私は行けなかった。


 その日、私は病室の窓から夕日を見ていた。

 私は後何回、夕日を見ることができるのか。

 夕日がいつもより哀しげに輝いているように見える。


 学校のみんなは何をしているのだろう。

 ちょうど部活が終わったところだろうか。

 あの人も家に帰っている途中だろうか。


 彼に会いたかった。

 けれど同時に怖かった。


 そんなもやもやした気持ちでいると、病室のドアが勢いよく開いた。ドアの向こうに立っていたのは見慣れている人物だった。

 彼の服は乱れ、鞄もだらしなく背負われている。


 まるで『あの日』のように…。


 けれど、一つだけ『あの日』とは違うことがあった。

 彼はあの日の何百倍も、何千倍も力強い姿をしていた。体中から光が放たれるかのように。


 彼は何も言わなかった。

 それでも十分だった。


 彼は優しく私を抱きしめてくれた。


 どれくらい時間が立ったか分からない。

 彼は私から少し離れて。口を開いた。


「なんで学校来なくなっちゃったの」


 私は口を開こうとしたが、声が出なかった。

 そうして沈黙が続いた。


 彼は再び口を開いた。

「寂しかったよ」


 何で…。何で…?

「何で寂しかったの…?私なんかがいなくても他にもいっぱい喋ってくれる人いるじゃん」


 そうだったのだ。最近、彼はクラスにどんどん馴染んでいっていた。だから私なんかいなくても何も変わらないはずなのに。


「そんなことない!」


 これまでにないくらい強い口調だった。

 何でそんな事言いきれるんだろう。


「君は…、俺の初恋の人だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る