第5話
そんなことがあったんだ…。
私はしばらく言葉を発せないでいた。
でも、何だか私と共通点があるなって思った。
私も余命宣告されて生まれてきた意味が分からないでいた。
これまで、このことは誰にも話さなかった。
…話そうとも思わなかった。
けれど彼には話しても良いような気がした。
そう決意して私は口を開いた。
「私も、生きている意味、というよりは生まれてきた意味がわからないの」
その言葉が彼にどう取られたのか分からない。けれどこの人なら私の話をしっかり受け止めてくれそうだった。
「私ね、余命宣告されてるの」
彼の目が大きく見開かれた。
あまりにも予想外の展開だったのだろう。
私は続ける。
「私はあなたにはない、『家族』がいて、『家族』の温かみも得られている。でも、なんでこんなに若くして死ぬのにこの世に生まれてきたのか分からない。つまり、生きる希望と輝く明日がない。でもあなたにはある」
つまり、私にあるもンのは彼になく、彼にあるものは私にない。
多分、どう声をかけていいか分からなかったのだろう、彼の半開きになった口から言葉が出てくることはなかった。
しばらくの沈黙の後、彼はやっと口を開いた。
「ごめん」
さっきと同じ言葉だったが、力強さが全く違った。
ごめんって?
私の疑問を読み取ったかのように彼は答えた。
「大林さんも辛い思いしていたのに自分だけ辛いみたいな態度取っちゃって…」
「いや、全然気にしないで」
っていうか逆に気遣われたくないし…。
「…あのさ、提案があるんだけど」
提案?どういうことだろう。
「お互いに相手がもっているものをもっていないからお互いにこれから色々話聞きあったり話しあったりしようよ。お互いにすっきりするかも」
…。
何も言えなかった。
今までは、誰にも言えなかった辛さ。
これまでもこれからもそうだと思っていた。
だけど彼になら話してみようかな…。
「うん」
短い返事だったが、他のどんな言葉よりも重く感じた。
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