第2話 宝くじ

 私は宝くじをよく買う。もちろん大金を手にしたいからである。

 ジャンボ宝くじ、ミニロト、ロト6、ロト7、サッカーくじのBIG、メガBIG、100円BIG、BIG1000。大体、一週間で3000円分は宝くじに消えている。

 1等は当然ながら、2等、3等も当たったことはない。過去に当たった一番大きいもので5万円である。

 宝くじではないが、子供の頃、商店街の福引で1等の自転車が当たったことがある。それ以来、1等なるものは当たったことがない。

 ちなみにその自転車は子供の私には大きく、お祖父さんが私に乗らせようとサドルが刺さっているフレームを切って縮めたところ、サドルが固定できなくなり、全く乗れない代物になってしまったのである。1週間ほどの命であった。

 

 話はそれたが、今は、ロト7やメガBIGではキャリーオーバーが発生すると、1等が10億円、年末ジャンボ宝くじでは1等と前後賞を合わせると10億円、それ以外でも5億円や7億円にもなる。

 しかし、50歳を過ぎて何か事業でもしようなんて考えていない私には10億円も7億円も不要である。また、ナンバーズ3やナンバーズ4、スクラッチのように1等が10万円や100万円程度のくじでは当たったところで、私の借金の一部に消えるだけで、人生を激変させるものではない。だから、同じ「運」を使うなら大きな「運」に使いたのだ。


 50歳を超えた私の年齢からすれば、1億円あれば十分である。

 平均寿命の81歳まで生きるとして、残り約30年。65歳から年金が受給できることを考えれば、1億円あれば、それで住宅ローンを完済し、車のローンを払い、カードローンを払っても7000万円は残る。81歳まで毎年250万円が家計にプラスになれば、かなり余裕ができる。仕事をクビになっても年250万円で夫婦2人なら、バイトで月10万円でも稼げば何とか食べていける。衣食住の内、大きなウエイトを占める「住」と私の借金がなくなるのだから。


 そう考えると1等が12億円や10億円はまったく無駄である。高齢者に当たれば使い切れる額ではなく、相続人が歓喜するだけである。

 若い人が当たれば、一生遊んで暮らせるのだから、そのお金でビジネスなんかしようと考えるはずはなく、タワーマンションを買い、フェラーリやランボルギーニを買い、パティックフィリップやオーデマピゲの高級腕時計を買い、男なら毎日クラブやキャバクラで散財し、女ならシャネルやヴィトンでバックだけではなく、スーツやコートで着飾ったりするだけである。

 これはこれで日本経済を活気づけるから否定はしないが、結婚して子供が出来ると、途端に子供の将来のためにお金を残そうと考えるに違いない。そうすると、働かない親子2世代、3世代の家庭を作るだけになる。当たった本人は12億円の内5億円を使い、子供は4億円使い、孫は3億円使い、ひ孫の世代でようやく働いてお金を稼ぐ者が出てくるということになる。

 だから12億円や10億円の1等が1本なら、2億円を6本や1億円を10本にして欲しいと私は考える。


 私は、ミニロトやBIG1000のような1等が1千万円程度のくじも買っているが、それは、億がダメでも1000万円もあれば、住宅ローンを完済させるのが少し楽になるから、「運」を使ってもいいかなという中途半端な欲が働くからである。

 しかし1000万円でも当たらない、サッカーくじのBIG系はコンピューターが番号を選ぶので、全て運任せであるが、ロト系は自分で番号を選べる。いくら考えても、せいぜい3つの番号が揃う末等が何十回に1度当たる程度で、感覚的にはコンピューターが番号を選ぶクィックピックと同じような確率である。

 「当選者の声」には誕生日を組み合わせてロト6の1等を当てた人もいるようだが、金運の無い男の誕生日をいくら並べても、当たるはずはない。

 その昔、会社の同僚の花田さんが競馬にはまっていたが、勝てない時に「金運がゼロの奴は何をどうしても金運なんか上がらない。ゼロに何をかけてもゼロはゼロなんだから。」と自虐的に話していたが、まさにそれである。


 そこで、本屋でロトの必勝法というのを見てみる。占い師が今月の数字をピックアップしているが、占い師がロト6やロト7の1等を当てたなんて聞いたことがない。

 数学的に当選番号を導き出すという本もあって、過去何十回かのよく出る数字と出ない数字を分類して、出ない数字は無視するか、1つ程度しか選択せず、よく出る数字で当選番号を構成する内容である。ふむふむ、なるほど、ロトの当選番号は全て同じ確率であるものの世界中のロトで「1」「2」「3」「4」「5」「6」と続いた番号が出たことはないから3つも4つも連続した番号は避ける。当選番号がすべて偶数になる確率、すべて奇数になる確率も低いから、偶数と奇数は混合させる、同じ数字が4回も連続して出る可能性も低いから3回続いた場合はその数字を外すなど、確率論的に当たりやすい構成や番号で数字を選択するという、いかにももっともらしいことが書いてある。

 しかし、こんなものを実践して当たったという話しも聞いたことがない。ホントに当たるなら著者はアメリカの1等が何十億円にもなるロトに当選して超有名人だろうが、その著者が当たったなんて全く書いていない。


 ちなみに1等の確率は、ロト6は約609万分の1、ロト7は約1029万分の1、サッカーのBIGと100円BIGは約478万分の1、メガBIGは約1677万分の1なのである。1等金額の少ないミニロトは約16.9万分の1、BIG1000は約17.7万分の1と1等1億円超の宝くじからすると随分当たりやすい気がするであろう。

 ロトやBIGは1口あたりの販売価格が100円から300円とバラバラなので、600円分を購入した場合の確率を割り出してみる。

 ロト6は1口200円なので3口購入すれば約203万分の1、ロト7は1口300円なので2口で約514.5万分の1、サッカーのBIGは1口200円なので3口で約159.3万分の1、100円BIGはその名のとおり1口100円なので6口で約79.6万分の1、メガBIGは1口300円なので2口で約838.5万分の1なのである。ミニロトやBIG1000では5.6万分1から5.9万分の1である。

 こうみると1億円以上を狙える宝くじの購入金額比では100円BIGの確率が一番高く、1等も最高2億円である。100口1万円分を買えば約4.78万分の1である。

 当たりそうな気がしないでもない。いや当たるよう気もする。

 しかし4.78万という数字は、甲子園球場で満員のお客さんの中から抽選で1人だけ選ばれるようなものである。株式相場や為替相場で上がるか、下がるかの2分の1の確率、18頭立ての競馬、6艇のボートレースでもことごとく外して大損してきた私には約4.78万分の1に選ばれるなんてあり得ないのである。


 それに宝くじは買い続ければ、いずれ当たるなんて嘘である。100万分の1の確率が、次は99万9999分の1、その次は99万9998分の1の確率になるわけではなく、買う枚数が増えれば、確率が上がるだけである。

 実際、私は20代半ばから宝くじを買っている。毎週3000円、1年で約15万円、25年で約375万円をドブに捨てたことになる。いや宝くじの収益の36.6%は公共事業へ寄付されているから、捨てたのではなく、少しは何かの役に立っていると信じたいが、このお金が残っていれば今の借金も少しは減り、私の役に立っていたことには間違ない。

 私みたいに25年かけて375万円で宝くじを買うよりも、一度の宝くじで375万円を買う方が確率も高かったし、買わずに貯金するか、毎月、金や株式などに積み立て投資をするのが一番良かったのである。


 2CHを創設したひろゆき氏は「宝くじを買うと金持ちになれると考える頭の悪さのせいで貧乏のまま」と言ったが、まさにそのとおりである。アップルやアマゾンのCEOは毎年ロト7の1等賞金の何倍もの報酬を得ているのだから、宝くじを買う必要もないだろう。

 若い人たちは宝くじを買うお金があれば、それで少しだけ美味しいものを食べるか、本を買うか、映画でも観て欲しい。そしたら将来、一流のシェフになってレストランチェーンのオーナーか、作家か、俳優や映画監督になって宝くじの1等賞金よりも大きな額を稼げるやも知れず。

 将来なりたい仕事がない私は、宝くじの確率の悪さを嘆きつつ、残りの人生を遊んで暮らせることを夢見てまた宝くじを買うのである。


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