棚からぼた餅は落ちてこない

北田 周悦

第1話 質屋

 今日、質屋に行った。

 義母が妻へプレゼントした昭和天皇在位60周年記念金貨である。

 額面は10万円であるが、売れば15万円程度になる。

 しかし、所有者は妻であるから、無断に売るわけにはいかないから「質」である。


 若い人は「質」を知らないかもしれないので簡単に説明をすると、貴金属やブランド物のバック等の商品を担保に、お金を借りることである。

 昔はお金に困れば母からの形見の着物や指輪、先祖代々から受け継いだ家宝のような刀剣などを質屋で売るか、「質」に出してお金を借りるのが質屋の一般的な利用方法であった。

 今では、例えば販売価格100万円程度のロレックスの腕時計を質に出せば、モデル、保証書の有無でも異なるが30万円程度の融資を受けられる。

 質屋は買取も行っている。テレビで宣伝しているブランド品の買取ショップも、元はと言えば質屋から発展したものだ。

 保証書が無くても質屋の店主や従業員はブランド物なら、時計、バック、ネックレスなどは本物か偽物かをすぐに見破り、査定をする。

 これを利用して、夜のお仕事のお姉さん達は、客からのプレゼントを質屋でその価値を確かめるケースも多いらしい。1円も値が付かない場合は偽物である。そこそこの値段なら本物であるが、そのお姉さん達は「もう少し金額出ないかな。」とか適当なことを言って、売りに出すのを断るそうだ。お姉さん達は査定料が無料であるから質屋とすれば、いい迷惑であると思いきや、お姉さん達は店を辞めれば買い取って欲しいと持ってくるそうなので、質屋とすれば将来のお客さんを相手にしていると言うことである。


 しかしながら、私みたいに妻の持ち物を勝手に質に出す場合、身内と言えども売れば当然ながら犯罪である。だから「質」に出す。かといって勝手に「質」に出すのも問題ではあるが、3か月以内に元本と利息を支払えば、取り返せる。3か月で元本と利息が返せない場合は質流れと言って、質屋はそれを商品として売却できる。3か月で元本と利息を返せない場合は、利息だけを払って期限を延ばすこともできる。


 この利息であるが、質屋は利息が高い。べらぼうに高い。

 カードローンが年15%程度に対し、質屋は最高で年109.5%まで認められている。質屋にも競争原理があるため、店によってばらつきがあるものの、10万円を借りると月4%が相場である。ここで勘違いをしてはいけないのがカードローンは年利であるが、質屋は月利である。10万円を1か月利用した場合、カードローンの利息は約1273円であるが、質屋の利息は4000円である。しかも大抵の質屋は日割り計算ではなく、月割り計算であるから、借り入れをした日から1か月と1日が経過したなら2か月分の利息が発生する。


 なぜこんなに金利の高い質屋を私が利用するかと言えば、お金が無いからである。

 預金はそもそも少ないうえに、妻が管理して使えない。カードローンの利用可能額もすでに一杯である。

 住宅ローンの返済に携帯電話代、水道光熱費、カードローンの引き落としもある。だから利用するのである。

 利息が高いと分かっていても利用する。


 昭和天皇在位60周年記念金貨を見た質屋の店主は「いくら利用なの?」と聞く。

 私はカードの引き落としの不足額と他の質屋に預けている妻の指輪を取り戻すのに必要な「9万円」と言う。

「いいですよ。」と店主。

 こんなに高い金利を取る質屋の店主の顔が善人に見える。

「流質期限が〇月×日で・・・、ここに住所と名前と・・」

 私は書類に署名して、印鑑を持ち合わせいないので拇印を押し、身分証明書として運転免許証を差し出した。

 9万円を手にした私は意気揚々と店を出た。


 若い人には質屋は腕時計やブランド物を売る時以外は利用してほしくない。

「ご利用は計画的に」である。

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