第26話 最恐ドラゴンと結婚の神(1)
変な夢を見た。子供の頃の夢。何もないところに男の人といた。男の人は優しかった。
あれは誰だったんだろう。
目を擦りながら起きると、横ですやすや眠るアストリッド様がいる。
人の気も知らないで!気持ち良く横で寝ないでよ!と言いたいけど言えない。
俺とアストリッド様の部屋は綺麗に修復してもらった。アストリッド様の家具は壊されたので新しく買ってもらった。この猛吹雪の中、家具を抱えて運んで来たのはクルクリの家具屋さん。やっぱりクルクリの国民はどこかおかしいと思った。
だから俺は別々に寝ようとお願いした。だけどアストリッド様に断固拒否された。どうしても一緒に寝るんだと言って聞かなかった。結局いつも折れるのは俺だ。
どうして一緒に寝ようとするのだろう。繊細な男の気持ちをどうして分かってくれないのだろう。こんな無防備に横で寝られたら、いくらヘタレな俺だって襲いたくなっちゃうのに!
でもそれだけ信用してくれているんだと思うと、優しい顔で寝顔を見るしかなくなる俺もいる。自制心を試されている……、そう思うと悟りを開けそうだ。って俺は悟りは開いたんだ。今度は煩悩を打ち消す努力をするしかない。
「……ファニー?」
寝ぼけまなこで声をかけてくるアストリッド様は……色っぽい!
え〜ん、もう無自覚やめて!笑いかけてこないで!その笑顔、本当に色気たっぷりだから!
「もう起きる時間か?」
「あ、はい。そうですね。おはようございます。アストリッド様」
冷静になれ、煩悩を消し去れ!と俺は自分で自分に声をかける。
「おはよう」
起き上がったアストリッド様はいつもキスのおねだりをする。
もう!本当に!本当に勘弁してほしい!
その時……ふと思い出す。こんなやりとりを誰かとした気がする。誰かを困らせた気がする。
「ファニー?」
「あ……すみません。なんか誰かとこんなやりとりをした気がして……」
「私――以外と?」
あ、しまった。余計なことを言ってしまった。アストリッド様が怒ってる。でも嫉妬だと思うとちょっと嬉しい。
「両親かな?ほら、俺ってぼっちだったし……。ずっと1人だった……し」
相変わらずの台詞だ。俺って寂しい存在だ。
「今は私がいるだろう?」
「そうですね」
これもいつものやりとりだ。
さぁ、ベッドから出て顔を洗おうと思ったら服を引っ張られた。
そうでしたね……。キスですね……。
◇◇◇◇◇◇
クルクリ王族は食事は決まって一緒に食べる。はずだけど、長男のエンシオさんは武者修行に出かけていつもいないし、次男のヨウシアさんはコアトリクエを探しに行っていない。だからレオン達と俺達とリューディア様達だけど……今朝は王様がいない……。
「リューディア様……王様はどうしたんですか?」
「ヨウシアと一緒にコアトリクエを探しに行った。コアトリクエは異空間にいるだろうから、夫の力が必要らしい」
そう言えば王様は上級魔術士だった。魔法のスペシャリストだ。
「ヨウシア兄様がコアトリクエと結婚するとこの国の第二王位継承者がいなくなるわね。母様、そこはどうする気?」
シーグリッドさんの言葉はもっともだ。男同士だし、神になっちゃうし、色々問題がある。だからヨウシアさんは操られていたフリをしていたんだ。
「そうだな……。もう1人産むか……それが無理ならシーグリッド達に頑張ってもらうかどちらかだな。現実的なのはお前たちの方だろう。期待してるぞ?レオン」
「あ……まぁ、こればかりは授かり者ですが、頑張ます。俺もシーグリッドも若いですからね」
「そうだな……若くて羨ましいよ」
リューディア様の言葉に周囲が凍りついた。レオンは目が泳いでる。アストリッド様は、ああ、恥ずかしく固まっている。俺達の道のりはまだ遠そうだ……。
ふぅと、ひとつため息をつき、天井を見上げる。このままコアトリクエとヨウシアさんが恋人同士になれば、俺は解放されるのだろうか。それで終わりだと思って良いのだろうか。
―こんなに愛しているのに‼︎―
突然聞こえた頭の奥に響く声に目が眩む。
―やめてくれ!そんな目で見るな‼︎―
更に頭に響く声。辛そうな声。
―どうして目覚めてくれない⁉︎―
どうして……どうしてだろう……。俺はちゃんと目が覚めているのに……なぜか目覚めろと言われていた。
頭が割れる様に痛くなる。次々に記憶が溢れてくる。頭がパンクしそうだ!過去にあった数々の言葉が、動きが、思いが暴力の様に心に降り注ぐ。
自分がどこにいるのか分からない!立っているのか……座っているのか……いや、もしかしたらもう倒れているのかも知れない。
「ファニー⁉︎」
アストリッド様の声が聞こえる。と同時にギュッと抱きしめられた。その体の温度と匂いが俺を安心させてくれる。頭が整理されていく。
そして……1番大事なことを思い出した!
コアトリクが封印される前に俺に言ったこと。まだ彼がまともだった頃、良く言ってくれていた。
「君は『恋愛の神』そして俺は『結婚の神』。君が目覚める時、世の中には幸せな結婚が訪れる。だから、愛する人ができたら俺に紹介してくれ。君にとびっきりの祝福を送りたい」
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