第23話 最恐ドラゴンは応援する。

 リューディア様に召集され、皆が会議室に集まった。長方形のテーブルには一人掛けのソファが2つ。3人掛けのソファが二つ。互いに向かい合わせにある。


 奥の窓際の一人掛けソファにはリューディア様が座り、その左側にレオンとシーグリッドさん。その左側の一人掛けソファにヨウシアさん。その左側に俺とアストリッド様。


 アストリッド様は怒ってる。俺がうまく説明できないせいで、アストリッド様に恥をかかせてしまった。しかも今朝もいたたまれなくて、話そうとしてたアストリッド様を振り切って逃げてしまった。

 しかも……どうして良いか分からずレオンを頼ってしまった!レオンは口が固いけど、それでもそう言う問題じゃないと――今頃気付いてしまった。


「ファニー、後で……良いな?」

 怒り声のアストリッド様に、俺は涙目で頷く。なんでも話して支え合おうって言ってくれたのに、俺はそれから逃げてしまったんだ。


「……アストリッドは後で私の元へ来い。話がある」

 俺達の様子を見ていたリューディア様が腕組みしながら、声をかけてきた。

「母様、それはファニーと話すより先ですか?」

「先だ。私はお前の親として教えておく事がある」

 そう話すリューディア様を、顔を上げて見ると、任せろと言っている気がした。もしかして、俺とアストリッド様の問題を解決してくれるのだろうか……。なんだか期待してしまう。


「あ――、本題に入ってもらって良いですか?」

 レオンがそっと手を挙げて話しを促す。

 そうだった。今はヨウシアさんの話を聞きに集まったんだった。


 ヨウシアさんが話しだす。その表情はうっとりしている。

「私がコアトリクエ様お会いしたのは、アストリッドから逃げた直後だった。コアトリクエ様の姿を初めて見た私は、あの方への理解が足りず、気持ち悪い男だな……変態か?と思ってしまった。今では悔いるばかりだ」

 ヨウシアさんは拳を握りしめ、後悔しているように眉間に皺を寄せる。俺にはコアトリクエは女装した変態としか思えないけど、愛があれば関係ないのかも知れない。


「コアトリクエ様は私に、クルクリ城へ入る手筈を整えろとおっしゃった。邪神化していたとは言え、ばっちり理性があったので断った……

「待て!ヨウシア――貴様、理性が残っていて私から逃げ回ったのか⁉︎」

 アストリッド様がヨウシアさんの話を途中で遮った。そうだった――アストリッド様はヨウシアさんを捜して大陸中を飛び回っていたんだった。


「かわいい妹が鬼の形相で追いかけて来るんだ。そこは逃げないと兄の面目が立たないだろう?」

 飄々と語るヨウシアさんに掴みかからんとするアストリッド様を俺は止める。アストリッド様の腰に回した腕にドキドキする。昨日の事を思いだしてしまう。アストリッド様は……綺麗だった。


「それで?」

 リューディア様が怒り気味に話を促す。

 アストリッド様は音を立ててソファに座った。俺は……ドキドキしながらヨウシアさんを見る。

 コホンと一息つき、ヨウシアさんは続ける。

「クルクリ王城への案内を断ると、コアトリクエ様は大層お怒りになり、私はそのまま戦い……負けた。そしてコアトリクエ様のスキル『隷属』により心も身体も縛られてしまった。そして私はコアトリクエ様と共にアストリッドとファフニールに部屋を改装した。ファフニールの部屋にあった血染めの糸で刺繍された薔薇はコアトリクエ様の血だ。その刺繍をするコアトリクエ様は鬼気迫る勢いで美しかった。おそらく私はそこでコアトリクエ様に心を奪われてしまったのだろう……」


「……変態だ……」

 レオンが顔を歪めながらボソッと漏らす。

「気持ち悪いわね」

 シーグリッドさんも呆れ顔で漏らす。

 俺もそう思う。

 

 俺達の言葉を無視してヨウシアさんは続ける。

「ファフニールに怖がられたコアトリクエ様の悦びは最高潮に達し、その興奮する光景は今も私の目に焼き付いている。あの時ほどファフニールを羨ましいと思ったことはない」

 自分で自分を抱きしめながら身を捩るヨウシアさんが怖い!リューディア様以外はみんな引いてる。


「つまりその時点でお前の『隷属』は無くなっていたのだな?」

 冷静に分析するリューディア様はさすが頼りになると思った。

「そうですね。私も伊達に普段から薬を飲みまくっているわけではないので、魂を縛る術の類は自動で解毒されます」

 ヨウシアさんはいつも自分で作った薬を飲んでは死にかかっていると聞いた。やっぱり変態なんだ!


「コアトリクエ様の本質は『結婚の神』だ。結ばれるべき二人が分かっている。横恋慕している自覚があるからその苦しみは半端ない。その悶え苦しむ様は、大層美しく――

「ええ⁉︎コアトリクエが『結婚の神』なんですか⁉︎」

 今度は俺がヨウシアさんの言葉を遮る。だってあの人が結婚の神だなんてあり得ない!


「世も末だな……」

 アストリッド様が呟く。

「だからウェディングドレス姿なのね」

 シーグリッドさんが納得する。

「いや……そう言う問題じゃ、なくね?」

 レオンがシーグリッドさんに呆れつつ突っ込む。


「『結婚の神』だからこそお前達を利用して『戦いの神』エヌルタとその妻のマルティナを結び直したのだろう?お前達……正確に言うと『恋愛の神』であるファフニールが介入しなければ、あの二人はいつまでもすれ違ったままだった」

 ヨウシアさんの言葉に俺は驚いた。気が付かなかった!それはアストリッド様も同じみたいだ。身を乗り出して驚いている。


「つまり……私とファフニールは結ばれる運命だと言う事だな?」

 アストリッド様は震える声でヨウシアさんに聞く。俺もそうであって欲しいと思っている。


「コアトリクエ様はそうおっしゃていた。ファフニールの事がこんなに好きなのにと、大層悔しがっておられた。でもその苦しみこそが自分を興奮させると」

「……最後の情報いらなくね?」

 レオンの突っ込みにヨウシアさんがキッと睨む。

 ヨウシアさんは本当にコアトリクエのことが好きなんだ……。俺は応援してあげたいな……。


「いいね!ファフニール!もっともっと私を応援してくれ!そうすれば私とコアトリクエ様の絆が深まり結婚への道が築かれる!」

 ヨウシアさんが歓喜の声を上げる。なんで俺が応援しているのが分かるのだろう……。


「……ヨウシア兄様、もしや……コアトリクエと体の関係が?」

 アストリッド様が目を見張りながら聞く。そう言えば、アストリッド様も言っていた。俺とキスしたら少し神化して新たな力を得たと。


「好きな相手が泣いているんだ……男として慰めるべきだろう?私はその方法以外に慰める術を知らないな」


「……あいつと?勇気があるよ……ヨウシア義兄さん……」

 レオンの言葉には納得するけど、好きなら性別は関係ないよね!俺が応援すれば二人が結ばれるなら、もっと応援するよ!


「おお!いいね、いいね!応援してくれ!」

 ヨウシアさんが、興奮気味に叫ぶ。

 その姿にみんなは呆れているけど、俺は素敵だと思った。不毛な横恋慕より、よほど良い。


「まぁ、どちらにしろ、私がコアトリクエを見逃していたのはヨウシアのせいと言う事だな?ヨウシア……覚悟はできているな?」 

 せっかくの祝福ムードの中、リューディア様のヨウシアさんへのお仕置きが始まった。


 城の天辺に裸で貼り付けにされたヨウシアさんは嬉しそうだったので、俺は助けないことにした……。 

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