第22話 世界最高の剣豪の喜び
城内で起こっている事を私は全て把握できている。なんなら我が王国のことは全て把握できている。たまには私に反逆する輩が出て来て欲しいとは思うのだが……残念ながらその様な不届き者はいないらしい。
だが、その私を持ってしても捉えることができないのがコアトリクエだ。父親が蛇の王だと言うが、なるほど気配を消すのがうまい。奴は勝手に城内に入り、私のかわいい娘と娘婿の部屋を改装した。そして私はそれにまったく気が付かなかった。なんたる失態か‼︎この憤りぶつける先は、どこにすべきか!本気で悩む。
胸糞悪く過ごしていたら、かわいい娘婿達の私を呼ぶ声が聞こえた。
ああ、相変わらず何という可愛さだ。我が子達より愛おしく思えるのは、あの情けない悲鳴と、私を頼りにするところだろう。子供達にも、クルクリ国民にもそれがない。
足に力を入れ、悲鳴のする方へ向かう。すると二人で抱き合い、半泣きな娘婿達が見えた。ああ、本当に何というかわいさだ!そして私の怒りの矛先であるコアトリクエもいる!
剣を抜き、コアトリクエの正面から斬りかかる。生意気にも受け止めた。だが、様子見程度を受け止めなければ面白くない。貴様には私が思いつく、あらゆる残酷な行為で苦しめなければ気がすまない‼︎
「「リューディア様‼︎」」
かわいい娘婿達が両手を上げて応援してくれる。俄然、力が湧いてくるものだ。
「あら?人気者ねぇ。ムカつくわぁ。あたしのファフニールに応援されるなんてぇ」
狂気の目を宿したコアトリクエが、その血のように赤い唇を開く。私を受け止めた剣は三日月のような形をしている。受け流す事を得意とするのだろう。先ほどから剣を下へひこうとする気配を感じる。だが、させる気はない。引いたと同時に、貴様を真っ二つにしてやる!
「ふふふ――おばさんは随分と強いのねぇ。このままだと、あたし死んじゃうわぁ」
「死なれると困るな。お前には死ぬより辛い目に合わせるつもりなのだから!」
ファフニールとレオンが私の後ろに下がる。よし!これでやりたい放題できる!やはり我先に戦おうとする我が一族とは違う。何というかわいさだ!
コアトリクエが剣を引く。それを見逃さず追撃する。するとそれに対応していく奴もいる。中々、楽しい。こいつ――原初の神と言われる父親より強いのではないか?
キンキンと甲高い音を立てて、打ち合う剣と剣。それに伴う斬撃でレオン達の部屋が破壊されて行くが、どうせ我が城は勝手に修復される。まぁ、いいだろう。家具は買い直せば良いだけだ!
「わー!!ベビーベッドがー!!」
叫ぶレオンの声が聞こえる。
「わー!!小説!!!」
更にファニーの絶叫も聞こえる。
うるさいな!と思いながら、コアトリクエを蹴ると壁を突き抜け、その先の吹雪の中を飛ぶコアトリクエ。そしてその後ろには……。
「ヨウシア?」
アストリッドがもう問題ないと言っていたヨウシアが、コアトリクエを待っていた様に浮いている。
「おばさん……、あんたの息子はあたしの呪術に犯され、あたしの虜よぅ。かわいい息子を失いたくなければ、ファフニールを寄越しなさい」
猛吹雪の中、髪を靡かせながらコアトリクエは兪樾に満ちた表情をする。ヨウシアはコアトリクエの横に立ち、その手をとって頬擦りする。その表情は恍惚だ。
「ヨウシアさん!なんて事⁉︎」
ファフニールがその姿を見て悲しげな表情をする。
「ヨウシア義兄さん!どうして⁉︎」
レオンの表情は辛そうだ。
「かまわん。私の邪魔をするような息子は死ね」
私にはこんなかわいい娘婿がいる。だから良いだろう!
「はぁ⁉︎あんたそれでも人の親なの⁉︎」
コアトリクエが思ったより常識的な事をいう。
「そうです!ひどいです!リューディア様!」
ファフニールには言われると思っていた。その半泣きが見たかった。
「お
レオンは……初めてお義理母さんと呼んでくれたか……。中々こそばゆくて心が躍る。こうなると仕方がない。
「ヨウシア!お前も我が息子なら選択しろ!ここで死ぬか、そいつを自分のモノにするか!どちらか選べ!選べないなら私が殺してやる!」
私はヨウシアに選択肢を与える。どちらにしろファフニールを渡す気などない。我が息子ならば、欲しい物は自分で手に入れるべきだ!
「本気ですか⁉︎リューディア様!だってあの人って、男ですよね⁉︎」
ああ、ファフニールが言ってはいけない事言ってしまった。
「馬鹿!ファニー!それはみんな分かってて言わないでいるんだよ!空気読めよ!」
「だってレオン!読むも何もあお髭とかヤバいじゃない!身体だってゴツいしさ!趣味はそれぞれだと思うけど、あまりにも雑な女装じゃない⁉︎」
「いや……確かに俺もあれはイタいなとは思ってるけど……」
「黙れ!コアトリクエ様のこのギャップが良いんだ!それが分からない馬鹿者どもめ!」
ヨウシアの言葉に、レオンとファフニールが目を見開く。やはりそうか……。私の息子が操られるわけがない。
「は?」
これにはさすがのコアトリクエも予想外だったらしい。地声に戻った。
「ゴツい身体に繊細なウェディングドレスを着こなし、低い声を頑張って高くしようとしているが、地声が低いせいかまったく高い声にならず、髭は濃すぎるせいで1時間ごとに剃ってもすぐに伸びる。更に鍛えなくても身体には勝手に筋肉がつく。それだけでは飽きたらず、このSっぽく見せながら、実は蔑まれるのを至上の喜びとするM体質!私の虐げたい欲求と虐げられたい欲求にこれほど合う人がいようか!まさに理想の相手!問題は男同士という事でしたが、良いんですね⁉︎母上!この人を妻にしても!」
「かまわん、好きにしろ。私は元々性別を問う気はない」
「ありがとうございます!母上!」
「な!冗談じゃないわよ!」
コアトリクエがヨウシアの手を振り解こうとするが、神ごときに降り解かれるヨウシアではない。
コアトリクエはヨウシアに蹴りを加えるが、ヨウシアは嬉しそうだ。我が息子ながら気持ち悪い。
そのまま取っ組み合いながら飛んでいく。コアトリクエの方がレベルが上だから逃げられそうだな……。
「お義理母さん……どう言う事ですか……」
「ん?どうしたのなにも、ヨウシアは操られたふりをしていただけだ」
「え?では分かっていて、この吹雪の中、ヨウシア義兄さんを城の天辺に吊るしたんですか?」
「私に本心を言わないヨウシアが悪いと思わないか?」
「そう……なんでしょうか……?まぁ、そうかな?」
目を彷徨わせながら、レオンは黙る。
ファニーは……キラキラしてるな……。
「あれも恋愛の一種ですね!俺、祝福します!」
「お前……それもアリな神なの?」
祝うファフニールに対して、レオンが驚いた顔をする。
確かに男同士だと跡継ぎは、できないが、まぁ神と結ばれれば、我が国の跡継ぎにはできないから同じだな。
考えこんでいると、逃げられたのだろう。ヨウシアが戻ってきた。
「詳しく説明してできるな?ヨウシア……」
私の言葉にヨウシアが頷いた。これで色々の謎が解けそうだ。
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