第19話 最恐ドラゴンの悩みごと
仲直りしたエヌルタとマルティナはラブラブだった。幸せな二人を見てると俺も嬉しい。しかも体の奥から力も湧いてくる。アストリッド様と……ちょっと深い関係になれたし、今日は良い日だ!
アストリッド様はマルティナさんに、神を転生させる方法を聞いていた。ついでにコアトリクエの事も。今回の事はコアトリクエが裏で手を引いていたらしい。そしてコアトリクエはお父さん達に、アストリッド様の二番目のお兄さんヨウシアさんを差し向けたそうだ。俺の血から生えた木ノ実を食べて邪神化したヨウシアさん。申し訳ないけど忘れてた。
そして俺達は手に手を取って仲良く神の国に向かうエヌルタとマルティナを見送り、両親と合流することにした。場所はクルクリだ!久しぶりでドキドキする。
アストリッド様と今夜こそ二人きりで同じ部屋。ドキドキして心臓が破裂しそうだ!
しかし久しぶりに戻ったクルクリは氷の世界だった。街も城も道も全て凍りついた世界!吹雪が吹き荒れ、前がまったく見えない!俺達は確かにクルクリの城の前にいるはずなのに、城が見えない。いつも開いている城門も閉ざされている。顔馴染みの入り口を守る衛兵さん達もいない。
「アストリッド様……これは⁉︎」
「クルクリの冬だが?」
普通に答えるアストリッド様に言葉が返せない。
これがクルクリの冬?冬っていうか、氷の世界だよ?確かにクルクリの冬は厳しいとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかったよ!俺は氷の魔物の奇襲でも受けているのかと思ったよ!
「懐かしいな。お仕置きだ」
しかも不吉な言葉を漏らすアストリッド様。
アストリッド様の視線を追う。猛吹雪で視界が悪いけど、こんなでも神でドラゴンだ。ズーム機能でお城の天辺を見る。クルクリのお城の天辺には国旗がある。その国旗に何かがいる。いや、いると言うか結ばれてる?括り付けられている?誰が?人じゃないっぽいけど見覚えのある顔……。
「――ヨウシアさん⁉︎アストリッド様!お兄さんが括り付けられてる!しかも裸‼︎逆さま!」
「ああ、悪い事をしたら良く括り付けられてた。懐かしいなぁ」
「笑ってる場合じゃないでしょう⁉︎今、猛吹雪!冬‼︎クルクリは氷漬け!」
「あのくらいで死ぬわけないだろう。私だってイタズラしたら良くやられたぞ。まぁ、裸ではなかったが……」
そう言いながら、笑うアストリッド様が信じられない。
そう言えば前にもアストリッド様は人を吊るしたり、裸にしたりしていた。原点はここにあったのか!
「いや、でも助けてあげないと!」
「助けるなら、お前も吊るすぞ?ファフニール……」
ゾクっとする様な気配がすぐ後ろからして振り返る。
「リューディア様……」
「だが、かわいい娘婿が頼むのなら、許してやっても良い。どうする?ファフニール」
この吹雪より凍える様な威圧を俺に飛ばしながら笑う。
怖いけど、かなり怖いけど、勇気を出せ!俺!
「お、お願いします!か、かわいそうです。ヨウシアさんを許してあげてください!元々は俺のせいなんですから!」
「……良いだろう」
キンっと高い音が響き渡る。
リューディア様とアストリッド様が、城の天辺を見る。俺も見る。ゆっくりゆっくり、ヨウシアさんが落ちていく。
「わわわわわわ!!!!」
俺は慌ててジャンプする。そして空中でヨウシアさんをキャッチすると、気絶していた。泡を吹いてるけど、凍傷もないし、生きてるし、やっぱりクルクリの人間は変だ!
そのまま抱きかかえて、アストリッド様の元に戻ると、アストリッド様がヨウシアさんに魔法を行使する。見た事ない魔法だ。
「何をしてる?アストリッド……」
リューディア様がアストリッド様に聞く。
「邪神の力を取り除いてます」
「すごい!アストリッド様!そんな事ができるんですね!」
俺は驚いて声を上げる!
「ファニーからキスをされたら、色々な魔法を覚えた。どうやらお前と深い関係になればなるほど、力が増えていくらしい。おそらくこれが神化すると言う現象なんだろう。面白いな」
「……そう…なんです…か」
俺は真っ赤になる。そんな俺を見てリューディア様が口の端を持ちあげて笑う。
ああ、恥ずかしい……。
「アストリッドは神になるから、エーゲシュトランド家は継げないな。シーグリッドに継がせるか」
「そうですね。シーグレットは夫もいるし、子供もいますしちょうど良いでしょう」
普通に会話する母娘を見て、俺は考えてしまう。リューディア様もそしてレオンも皆、そのうち俺達を置いていなくなってしまう。アストリッド様はそれに耐えれるのだろうか。俺はみんながいなくなると思うだけで寂しいのに。
「ではアストリッドからシーグリッドに家督を譲ってくれ」
「分かりました……。よし!ファニー、ヨウシア兄様はこれで人間だ。部屋に連れて行こう」
「分かりました!あ、そう言えばヨウシアさんって、例の人に差し向けられたんですよね。この様子だと皆さん無事ですね?」
「ああ、無事だぞ。神々は一旦家に帰った。ファフニールのよろしくと両親が言ったぞ」
「分かりました」
皆で城に入る。
俺はアストリッド様をチラッと見る。アストリッド様は神になることに、本当にためらいはないのだろうか……。そればかりが気になる……。
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