第18話 最強賢者には理解できない

 ご先祖様は小柄な割には大剣を軽々と振るう。だが、所詮大剣だ。小回りが利かないし、問題ない!と、意気込んでこちらは長剣を用意する。


 だが、ご先祖様が大剣の刃に手を翳すと、一気に剣が分裂し、100の刃になって飛んで来る!次々に飛んで来る剣を弾くが、弾いた剣がまた飛んでくる。キリがない‼︎


「アストリッド様!」

 ファニーが叫んで、炎を吐く。黄色い炎はご先祖様に向かうがあっさり弾かれる。こいつ、『戦いの神』なんぞよりよっぽど強い!


「室内だとファフニールの炎も本気を出せない。優しいからな」

 ご先祖様が余裕の笑みを見せる。こちらは次々に飛んで来る剣がウザくて仕方ない!ファニーが飛ぶ剣を掴んで折っていく。折れた剣は床に転がる。


 お前……何気に色々すごいな!


「思ったよりファフニールが強いな……」

 ご先祖様の呟きは聞き逃さない!

「そうだ!私のファニーはすごいんだ!お前の夫も一発で倒したからな!」

「夫?夫なんて私にはいない‼︎」

 ご先祖様が剣を持って攻め込んで来る!それを正面から受けて睨み合う。

「幸せそうに踊ってたじゃないか?」

「どこが⁉︎あいつに触れた先から腐っていきそうだ!吐き気がする」

「憎しみと愛は紙一重だそうだ」

「残念だが、そんな感情はとうに捨てた!」

 ご先祖様が剣を弾き、そのまま打ち合う。右に左に打ち合うがお互いに傷ひとつつけられない。目に端に映るファニーが、『戦いの神』に近付いて起こそうとしてる。

 

 そんな暇があったら私に加勢しろ!


「マルティナ!」

 『戦いの神』の声が響き渡る。ご先祖様の動きが止まる。マルティナって名前なのか?

「貴様がその名前を呼ぶな!」

「ごめん、マルティナ。聞いたんだ、俺が浮気したから俺を殺そうとしたんだろう⁉︎」

 『戦いの神』の言葉を聞いたマルティナは嘲るように笑う。

「違う……貴様の事など、浮気などどうでも良い」

「ではなぜ殺そうとしたんだ?」

 私の言葉に、マルティナが口の端を持ち上げて笑う。その表情には後悔の念が含まれているように見える。


「生きていくのが辛いんだ。私の子供達の死に耐えられない。永遠に生きていく苦痛は生まれながらの神には分からない。アストリッド……お前も今なら引き返せる。人として死ねるのは幸せなことだ」


「そんな……確かにそうかも知れませんけど……」

 ファニーが悲しげな表情でマルティナを慰め様とする。

「そうだったんだ……俺はそれを気付きもしないで、浮気なんか……」

 『戦いの神』は過去の自分に涙する。


「お前と私は違うだろう?お前がそうだからと言って私もそうなると決めつけるな」

 私は私の意見を言う。


 ご先祖だかなんだか知らないが、メソメソしてる人間は嫌いだ!


「アストリッド!お前に優しさはないのか⁉︎」

 『戦いの神』が叫ぶ。

「アストリッド様!空気読んで」

 ファニーも叫ぶ!


「そもそも神になるんだ。人間と寿命が変わるのは分かるだろう?私のご先祖のくせにそんな想像力もないのか?子供達は死んでしまったがこうして私達が脈々と生きているじゃないか。お前達が先祖のお陰で一族みんな規格外に強いぞ。私としてありがたいくらいだ。あとはなんだ?このクソ浮気男のことを興味がないなら、さっさと次の良い男でも見つけろ!まだ好きだから再婚してないんじゃないのか?」

「違う!私はそいつに興味がない!他の男ももう嫌だ!死にたいだけだ‼︎」

「死にたくたって死ねないんだから仕方ないだろう。諦めて新しい趣味を見つけるか生き方を見つけろ!私のご先祖のくせに後ろ向きすぎる!ウザい‼︎」


 静まり返る室内。3人の視線が私に刺さる。

 なぜだ?私は正論しか言ってない!


 『戦いの神』の目からは怒りを感じる。

 マルティナは信じられない物を見るように目を見開いてる。

 ファニーは相変わらず涙目だ。

 

 分かるのは3人が私が何か言うのを待っているという事だ。分かった、何か言えば良いんだろう?

 

「ああ、そうだ。マルティナだったか…そこの『戦いの神』をどうやって転生させたんだ?教えてくれ」

 更に静まり返る室内。


 なんなんだ一体!ちゃんと話したぞ!


「アストリッド様……空気……読んで……」

 ファニーは涙目を通り越して、真っ青な顔になっている。


「空気を読んで私は私の意見を言ったまでだ!なんだ⁉︎ファニー、その顔……あー分かった、分かった!願いでも叶えてやれば良いのか?じゃあ殺せないんだから、封印で手を打とう!どうだ?マルティナ、封印してやるから神の転生の方法を教えろ」

「――鬼畜か!アストリッド⁉︎神だってもっと優しいぞ‼︎」

 憤った『戦いの神』が私にズカズカ近づきながら、肩を掴もうとする――ので思いっきりビンタして、重力魔法をかけて、踏みつけてやる。


 弱い男は黙ってろ!


 代わってマルティナは考え込んでいる。だが、次に決意したように私を見た。

「そうだな――死ねないんだ。いっそ封印してもらいなにも考えないのが良いのかも知れない……」

「マルティナさん!自暴自棄になっちゃダメです!」

 止めようとするファニーを睨むと、怯む事なくこちらを凝視した。


「アストリッド様!なんでそんな事を言うんですか!マルティナさんも『戦いの神』も愛し合ってます!『恋愛の神』の俺には分かります!マルティナさんはちょっと素直になれない系の女子です!アストリッド様と一緒です!そして『戦いの神』はそんなマルティナさんを支えられない間抜けな男です!その前の浮気だって、マルティナさんに相手にされなくなったから、わざと浮気して気を引こうとしたアホな男です!そんなので気がひけるわけないのに!愛してるって言わなきゃ伝えられないのに!」


「そう……そうなのか?本当に?私の気を引くため?」

 マルティナが信じられないと言った声でファニーに聞く。


「いや、それはお前の妄そ………

 ファニーが私の口を手で塞いだ!

 お陰で何も言えなくなってしまった。ファニーは良い方に考えすぎる。わざと浮気をして気をひくアホな男がどこにいる⁉︎いたとしたらそんな男とは別れた方が良いだろう?


「そうです!マルティナさんは知ってるはずです!『戦いの神』の不器用なところを!『戦いの神』は寂しかったんです。マルティナさんが心の内を話してくれない事が!でも不器用だから聞けなかったんです!馬鹿だから!」

 ファニーの演説が部屋に響く。それに合わせて音楽家達が悲しげな音楽を流し出す。

 マルティナは涙を浮かべ始めた。『戦いの神』は私の足の下で泣き始めた。


 こいつらアホか……。


「本当に?……エヌルタ……そうだったの?」

 マルティナが私の足下の、『戦いの神』……エヌルタ?って言うのか……に跪きながら聞く。その目からは大粒の涙だ。


 いやいや、ないだろう?そんな理由で浮気する男なんて願い下げだろう?しかもエヌルタは、そうだったんだぁって言ってるアホ男だぞ?


「アストリッド様!足、あし!!」

 小声でファニーが訴えてくるので、仕方ないから魔法を解いて、足を退かす。

 するとひしっと抱き合う、エヌルタとマルティナ……。涙ぐむファニー。盛り上がる音楽。


「……アホか」

 そっと小声で呟いた。

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