第15話 最強賢者は疑いを持つ
「いた〜い。切られたよぅ〜。血が出てる〜。死んじゃうよ〜。アストリッドさまぁぁぁ……」
ピーピー泣くファニーを無視して、コアトリクエと剣を合わせる。
「あらヤァダ!乱暴な女ね。まったくファフニールったらこんな女を庇っちゃうなんて、仕方のない人ねぇ」
「ファニーは私のことを溺愛しているんだ。愛する妻は庇うものだろう?」
「なぁにぃがぁ、愛する妻よ!ふざけるんじゃないわよ‼︎」
合わせた剣を弾かれる。なんて力だ!咄嗟に後ろに下がったところで、更に上から攻められる。上から来た剣をするりとかわし、そのままやつの腹部を狙う、がその剣は戻って来た剣に弾かれた。
更に打ち合いながら、魔法を構築し、やつに打ち込む。
「アストリッドさまぁぁぁ、ホテルが崩れちゃうぅ」
相変わらず血を流しながら、ファニーが叫ぶ。
「ああ!もう、うるさいな!」
コアトリクエを蹴ってホテルから追い出す。空中に浮くやつに向かって剣で攻撃をする。そのまま打ち合いながら、郊外へ追い出そうと更に攻撃を加える。
「ファニー!来い!」
「はい!」
嬉しそうな声でファニーが戦いに加わる。コアトリクエの悔しそうな顔!ざまぁみろ!
ファニーは私の事が大好きなんだよ‼︎
そのまま二人でコアトリクエを蹴るとコアトリクエが勢いよく飛んでいく。
「いくぞ!」
ファニーと一緒に飛ぶコアトリクエを追いかけようとする一瞬、私達を指差す民衆の中にいる先祖と目があった。
ああ、顔は似ていないが、確かに共通する部分はあるらしい。
その春空のけぶるような水色の瞳が良く似ている……。
「アストリッド様?」
「……ああ」
ファニーに回復魔法をかけながら、コアトリクエを追うことにした。優先順位はこちらが先だ。
◇◇◇
コアトリクエを蹴った先に地面に光る湖が見えた。その為、私達は湖畔に降り立ちコアトリクエの気配を探る。
鬱蒼と生い茂る森の中にある湖だ。獣の息吹は感じられるが、その他は何も感じない。
「見当たらないですね」
「そうだな。逃げられたか……それとも」
ちらっとファニーを見る。コアトリクエは両親の助けがあったとは言え神々から半年以上逃げのびた神だ。隠れるのが上手いのは確かだ。そしてファニーに惚れていることも確か。またあの手を使うか?『知恵の神』を呼び出した手と同じ手を……。
「アストリッド様、一回帰りませんか?」
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「俺、あの人がやっぱりが苦手です。会いたくないんです。怖いんです」
あまり人に負の感情を抱かないファニーが、もう限界だとばかりに訴える。いったい何をしたらここまでファニーに嫌われると言うのか。
「記憶は戻ってないんだな?」
「……はい。でも体が震えちゃうんです」
確かに小刻みに肩が震えている。私は人の機微を読み取るのが苦手だ。今も言われなければ気付かなかった。そもそも私を庇って切られたのだ。神でドラゴンだったから良かったが、普通の人間だったら死んでいた。つまり私だったら死んでいた?いや、たぶん死んでないな。
まぁ、それはともかく……
「そうだな。帰ろう、『戦いの神』も置いてきたし、コアトリクエのことは両親に任せよう」
そう……コアトリクエは両親が追いかけているはずだ。なのにどうしてここにいるのか。以前もあの親達にはハメられたが、まさか今回もなにか良からぬことを考えてるんじゃないだろうか。私の考えすぎだろうか。
「アストリッド様?」
「ああ……帰ろう」
不安そうにこちらを見るファニーに笑って見せる。
まずはできる事からやって行こう……そう思いながら。
◇◇◇
ホテルに戻ると意外な事に『戦いの神』がいた。縄で捕縛されているのもそのままだ。てっきり私の先祖が助けると思っていたが、そのままだ。こいつ……もう見捨てられているんじゃないのか?
「お帰り、戦いの気配がしたぞ?中々強そうなやつだな?」
目が爛々と輝いている。この姿を見ているとなるほど、確かに我が家は『戦いの神』と血が繋がっているらしい。
「俺なんて切られちゃいましたよ。痛かったですよ。あの人怖いです。『戦いの神』、あの人をやっつけてください。俺は関わり合いたくないんです」
「あいつはやっかいそうな相手だな?いいぞ!倒してやるから縄を解け!」
二人の視線が私に刺さる。
「まぁ良いだろう……。だが『戦いの神』、これから私達に付き合ってもらう。お前の探している女の元へ行く」
「……さっき気配がした。俺の事を気付いてるはずなのに、来てくれなかったな……」
嫌われてるんだ……と呟きながら落ち込む『戦いの神』をファニーが慰める。浮気なんかしたんだ。嫌われるに決まっているだろう。
「まだ分からないじゃないですか!会って聞きましょう!それからでも遅くないですよ!」
お人好しなファニーの無責任な発言に、頷く『戦いの神』。似た物同士だ。
それよりこの二人は気にならないのだろか。私とコアトリクエの戦いによって、ホテルの窓ガラスは砕け散り、部屋はぼろぼろだ。にも関わらず、ホテルの従業員も来ないし、先程騒いでいた民衆も今は普通にメイン道路を歩いている。
私の先祖の仕業か……。それとも……。
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