第13話 最恐ドラゴンは誘導される
俺が乱入した戦争は、双方にとって虚しい戦いになったらしい。アストリッド様がそう言ってた。
戦争するなら、その度に邪魔しに来る!アストリッド様が双方の王に言って、戦争はしない事になったらしい。ドラゴンであり神である俺にはよく分からない。
更にアストリッド様はプウノツ国とシャウレー国の王に戦争の元になったお姫様が住む国ショマールの高級ホテルの一番良い部屋を用意させた。
俺とアストリッド様と『戦いの神』はその部屋に移った。
『戦いの神』は、俺が叩いた事により地面に人形を残して埋まっていた。それを俺が引っ張り出し、アストリッド様がロープで結んだ。アストリッド様曰く特別製のロープで逃げようとしたら、電撃が身体中を駆け巡るらしい。恐ろしい。なんでそんなのを持っているんだろう……。
『戦いの神』はアストリッド様に似た髪色だ。紫がかった黒い髪は顔を覆う長さで無造作に切られている。目の色はさっき見た。寒い冬の海の様な青だった。キリッとした目が印象的だった。なんとなくリューディア様に似てると思った。
「……ここは」
「あ!起きましたね」
『戦いの神』がやっと起きた!『戦いの神』は床に転がされている。アストリッド様がその辺に置いておけって言ったからだ。
俺はゆっくり起こしてあげた。アストリッド様はいつも容赦がない。
ソファで休んでいたアストリッド様は怠そうに体を起こし、『戦いの神』に一瞥をくれた。
「初めまして……。ご先祖様」
「ご先祖さま?」
『戦いの神』は怪訝そうな顔をする。生まれ変わると過去の事は忘れてしまうと聞いた。愛する人の事も忘れてしまうなんて……。俺には耐えられない。
「どうして俺は捕縛されている?俺が誰か分かっているのか?」
ロープで結ばれている割には『戦いの神』は不敵な笑みを浮かべる。
「知っているさ。『戦いの神』、なぜ神の国に戻らない?地上で何をしている?」
アストリッド様はソファから立ち上がり、あぐらをかいている『戦いの神』と視線を合わせた。『戦いの神』がアストリッド様を睨むけど、アストリッド様は何も気にしていない。さすが鋼の心臓だ!俺は『戦いの神』の威圧でドキドキしてるのに。
「……別に?俺は『戦いの神』だ!戦場を求めて旅をしてるだけだ!」
『戦いの神』は威圧を飛ばすのをやめた。効かないと思って諦めたみたいだ。
「人の世界で?たかが知れてる相手だ。ましてやこの大陸には強者はいないはず。どうして東の大陸に来ない?そちらの方が楽しめるはずだ」
「――――」
『戦いの神』は黙ってしまった。部屋に沈黙が広がる。
「あの……。『戦いの神』、お名前は?」
耐えきれない俺は必死に言葉を紡ぎだす。アストリッド様の呆れた視線が俺に刺さる。
「……名は……。覚えてない。だからあの女ににもう一度聞く。それまで待て」
「あの女?」
「俺が生まれた時にいた女だ。そいつよりもっともっと美人だけどな」
「……そうか」
ふっと漏れる様な笑みを漏らし、アストリッド様はそれ以上話さなくなった。風呂に行くと言って部屋を出る。ショマール国は温泉が湧く土地で、今日泊まっているホテルにも温泉がたくさんあるらしい。俺もアストリッド様と交代して後で行こう!
「『戦いの神』は、その女の人を探しているんですか?」
「そうだな……。俺の名前を教えて欲しい。でも、本当はあの時泣いていた理由を教えて欲しいんだ。あの泣き顔が頭から離れない。もう何百年以上も前なのに……」
「好きなんですか?」
久しぶりの恋バナに俺の心はワクワクを通り越して、ドキドキに変わる。
「お前は『恋愛の神』だな?アハティと『芸術の神』の間の……確かファフニールだったな?道理で誰にも言わなかった話を言ってしまうわけだ!そして……やっぱりこの気持ちは恋なのか……。お前の神格が上がってるし……」
「へ?」
俺は自分の周りを見る。俺の周りがチカチカしてる。お母さんと一緒できらめきだしてる!髪も赤より金色が増えてる!ヤバい!『恋愛の神』の力が強くなるとアストリッド様に嫌われてちゃうかも知れないのに‼︎
半べそになっていると、俺の考える事を見透かしたかの様に『戦いの神』が笑う。優しい、けど男らしい笑い方だ。
「大丈夫だ。あの女はお前の妻だ。どんなに姿が変わっても、お前のことが好きだよ」
「『戦いの神』!それって本当⁉︎信じて良い?アストリッド様は俺の事を嫌いにならない?」
「ああ……。俺もそう信じてる」
遠い目をする『戦いの神』をじっと見る。
『戦いの神』は知っているんだろうか……。
自分が奥さんを裏切った事を……。
奥さんに生まれ変わらされた事を……。
そしてその時にいた女の人こそが奥さんだって事……。
「それで、俺はいつまで捕縛されているんだ?」
「アストリッド様が良いって言うまでです」
それは仕方ない。だってアストリッド様もいう事が絶対だから……。
「お前……妻の言いなりで良いのか⁉︎少しは自分で考えろ!」
「アストリッド様が帰って来たら、解いて良いか聞きますからそれまで我慢してください」
「……こんな雰囲気の良い部屋で二人きりになりたいと思わないのか⁉︎お前はそれでも雄か⁉︎」
「――!!それ思いますけど、でも……アストリッド様がダメって……」
「俺は隣の部屋にでも行ってやる!逃げない、約束しよう。だから解け!そうしたら二人っきりだぞ?まだまだ夜は長い。しかもこの国の温泉は美肌効果がある。すべすべになったアストリッドの触り心地は最高だぞ?」
「すべすべ……」
「そう、すべすべの肌、温泉で温まりほんのり赤くなるアストリッドの頬。いつもと違う雰囲気の部屋の窓から見える美しい夜景」
「やけい……」
段々と近付いてくる『戦いの神』に、目が離せなくなる。しかも頭の中に、妄想がぐるぐる回る。ああ、アストリッド様、いけないドラゴンになってしまいそうです……。
「そうだ!楽しい夜になりそうだろう?それには俺が邪魔だろう?俺も恋人同士の邪魔はしたくない。さぁ、解け!」
『戦いの神』の言葉が更に俺を洗脳していく。でも俺とアストリッド様は誰もが認める恋人同士だ!だったら良いじゃないか!
「……そう、ですよね……。『戦いの神』が逃げなきゃ、良いんです…もんね?」
「そうだ……。さぁ、結び目はここだ!」
『戦いの神』が背中を向ける。ロープを解けば、アストリッド様と二人きり!
えい‼︎と勢い良くロープ結び目を解こうとする!
そこで激しい電撃が身体中に走り、俺は意識を失った。
気がついた時には、眩しいほどの朝日に照らされた俺と『戦争の神』が床に倒れていた。アストリッド様は一人で寝室に寝ていた……。
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