第11話 最恐ドラゴンは枕を濡らす
アストリッド様と俺は何度か一緒にスイートルームに泊まった経験がある。でもそのときは俺は子竜の姿だった。お互いに恋愛の気持ちも自覚もなく、ただただ楽しく過ごすだけだった。
でも今は違う!だって恋人同士だし、なんなら婚約者だし、結婚までは秒読みだし、アストリッド様は甘々だし、もしかしたら、もしかするかも⁉︎なんて期待してた俺がバカでした。世の中はそんなにうまくいかない。
なぜならスイートルームの扉を開けたら、そこにいたのは土下座している男女二人と俺の両親とリューディア様がいた。俺は驚いて、息が止まった。アストリッド様は舌打ちする。
やめてよ。アストリッド様。もしかしたらアストリッド様も俺と同じ気持ちかと思っちゃうじゃないですか!
「それ……誰ですか?」
アストリッド様の塩が今日は濃い!いつもより濃いめの塩対応だ!とうとう、こんばんわの挨拶もしなくなってる!
「私のかわいい娘とかわいく産まれるはずの孫をいじめた奴らだ。土下座くらいで許してやる私は随分と甘くなったものだ。これも殺生を好まないかわいい娘婿のお陰だな」
そしてやっぱり、こんばんわの挨拶をしないリューディア様。クルクリ王族の教育はどうなってるんだろう。挨拶は大事なのに……。
「つまりククルカンと『出産の神』ですか……。とりあえず私もファニー被害者の1人です。拷問の一つや二つや三つは許されますよね?」
「良いと思うわ。どうせ死なないもの。好きにやって良いと思うわ」
アストリッド様とお母さんの言葉にククルカンと『出産の神』が、ひぃぃっっ、と声をだした。可哀想だ。
「アストリッド様、乱暴はやめてください。かわいそうです」
俺は土下座している2人の前に跪く。かわいそうに、ガタガタ震えてる。
「お二人も立ち上がって下さい。俺は怒ってないので……」
二人の顔が俺を向く。あ……この表情はさっき見た『知識の神』と同じ……。
「「かわっ……」」
「皮?」
「かわいい〜!!やっぱり可愛すぎる!こんなかわいい子を前にして普通でいられるわけがないわ!そもそも普通の神なら、愛でちゃうでしょう⁉︎愛でなきゃ嘘でしょう⁉︎愛でるに決まってるでしょう⁉︎」
が――っと早口で話す『出産の神』が怖くて後ずさる。更に横にいるククルカンの鼻息は荒い。目がイっちゃってる。怖すぎる。
怖くてアストリッド様の後ろに隠れると、アストリッド様が俺を庇ってくれた。そして!
「「むぎゅっ‼︎」」と言う蛙が潰れる様な声を出したククルカンと『出産の神』がそのまま床に這う。アストリッド様の重力を操る魔法だ。潰れたククルカンの頭をリューディア様が踏み付ける。
「おお、おお。『原初の神』のお一人とあろうお方が、たかが人間の女に踏みつけられるとは情けない事この上ない。この姿を世界中のお前の信者に見せつけてやりたいものだ。どう思う?ヴェッラモ」
「イイ考えね。私はアリだと思うわ。でも『出産の神』にそれをするのは可哀想ね。だったら私はどんな復讐をしたら良いかしら?
怖いことを言うお母さんの足の下には、『出産の神』の頭がある。
「死なないのでしょう?良い拷問の方法を教えて差し上げますよ」
アストリッド様も重力の魔法を絶妙に強めながら冷酷な笑みをする。
「それは私にも教えて欲しいねぇ。私は地下のマグマの中に1000年漬けるくらいしか思いつかなかったよ」
お父さんの言葉に3人がその手があるか、と賛同し、潰された二人がごめんなさいと泣きついている。地獄絵図だ。怖い……。なんとかしなきゃ!
「あ……あの……それはかわいそうです。俺も人が苦しむ所は見たくありません」
必死で怖い打ち合わせをする4人に声をかけると、仕方ないなぁとその場はいったん収まった。みんなは俺が優しいと言うけれど、みんながおかしんだと俺は思う……。
「さて……とりあえず元凶であるコアトリクエは見つからなくてね。仕方ないから神々の国にいたこのコアトリクエの両親であるこの二人を捕まえた。捕まえる際にリューディアがククルカン神殿を破壊してしまったが、まぁそれは良いだろう……。どうせ半日もすれば治る。問題があるとすれば、神の国にある神殿と連動しているククルカンを祭る地上の神殿が全壊したことだが、死者、負傷者共になしだから、良いだろう。イヤイヤ若い子は恐ろしいね。お父さんはびっくりしたよ」
普通に笑いながらお父さんは話しているけど、それは普通ではないと分かって欲しい。だってリューディア様は一応人間だ。さっき『知恵の神』が言っていた。『原初の神』は格が違うと。ククルカンは『原初の神』の一柱だ。それを追い詰めるリューディア様が普通じゃないと俺は思う。
「こいつらが吐いたんだが、ファフニールが子供の頃にコアトリクエを誘拐した際にも、そして今回もコアトリクエを助けていたらしい。いくら子供の頼みだからと言って馬鹿な親もいたものだ。そもそも親なら止めるべきだろう」
嘆息しつつ威圧を飛ばすリューディア様に、ククルカンと『出産の神』はビクビクと肩を動かした。そして、ククルカンがそっと呟く。
「悪い事だと分かっていた。だがファフニールが我が家の婿になると思うと欲望を抑えきれず……」
ん?なんか変な言葉が聞こえた。
「あの子が間違っていたのは分かっているのよ。でも私も欲望が抑えきれなかったの。ファフニールが我が家の子供になるかと思うと、それだけで世界中の妊婦に祝福を与えてしまえるくらいに興奮しちゃって……」
『出産の神』が更に変なことを言う。なんでみんな俺の事がそんなに好きなの?
「なんでお前がそんなに神からモテるんだ?お前は長い間ぼっちだったんだろう?」
アストリッド様の言葉にしゅんとする。そうです。長い間俺はぼっちでした。
「『恋愛の神』として自覚を持たせるためにぼっちにしたからね。一人にすれば寂しくて誰かを求めるだろうと……まぁ思ったよりかかったけど……」
お父さんの言葉に更にしゅんとする。どうせモテなかったもん。
「神々相手ならモテているから良いじゃないか。まぁ、マスコット的な感覚でしか見られてない様だが」
リューディア様の言葉に更に更にしゅんとする。みんながそんな目で見てる事が分からないほど、鈍感じゃない。
「結果私に出会えているんだから良いだろう」
救いの神の言葉だと思った。いつも大好きなアストリッド様が更に更に更に大好きになる!
そして俺とアストリッド様を見てる、ククルカンと『出産の神』が尊い……と言い出した。デジャブだ……。
そして2人は俺とアストリッド様を応援すると言い出した。コアトリクエを探す手伝いをしてくれると誓ってくれた。
そして……!
これだけ広いと皆で寝れるな!とリューディア様が言い出し、俺とアストリッド様のスイートルームは神々の酒盛りの場となった。
悔しくなんかない!そう思いながら、俺はそっと目の端の涙を拭った。
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