第9話 最恐ドラゴンのモテ期

 アストリッド様が俺の好きなシチュエーションで迫ってくる。俺の心臓はバクバクだ!

 嬉しいやら、恥ずかしいやら、好きすぎてパニックになったり、普通逆だろ⁉︎と突っ込んだり、でも強引なアストリッド様も好き♡だったり、萌え死にしそうだったりともう頭の中は俺が大合唱している。

 図書室で先輩(?)に強引に迫られ、チューされちゃうなんて!学園ものラブストーリーの王道じゃないか!まさか俺のじん生にこんな萌えシーンがあるとは⁉︎

 ああ、脳内補完でアストリッド様と俺はブレザーとセーラー服に着替えてしまう……。

 アストリッド様、素敵な思い出をありがとうございます。


 「図書室でハレンチ禁止!」

 ピッピーと言う笛の音と甲高い声に我に返る。返りたくなかった。あのままでいたかった……。


「貴様が『知識の神』だな?」

 相変わらず塩のアストリッド様が俺に壁ドンしたまま話す相手は、ワンピースを着たメガネ姿のお姉さんだ。青いワンピースの柄は本だ。どこで売ってるんだろう。


「近い!ファフニールから離れなさい!」

 両手で目隠ししながら、でも指の間から見てると言うベタな姿のお姉さんが言葉と共にピッピーと笛を鳴らす。

「貴様に命令される筋合いはない」

 威圧するアストリッド様――近いです!いつまで顎クイしてんの⁉︎どうしてそんなに鋼の心臓なの⁉︎しかも息かかっちゃう距離だよ?俺の鼻息荒くない?とりあえず息止めなきゃ!


「ここはボクの場所だぞ!お前の事どうとでもでるんだぞ!殺す事だってできるんだぞ⁉︎」

「……ほう?」

 アストリッド様が笑う。笑う?笑ってる場合じゃないよね?

「……アストリッド様を殺す?」

 そんなことはさせない。俺は殺気を飛ばす。アストリッド様を殺そうとするヤツは俺が殺す。


 俺の体が黒く染まる……。


「……ひっ!」

 怯えた女性が腰を抜かす。


 今更怯えても無駄だよ?俺のアストリッド様を殺すなんて……。


 額にペチンと手があたり、あてた人を見る。春の空の様なけぶった水色が飛び込んでくる。

「ファニー」

「……アストリッド様」

「また邪神化しようとしてたぞ?仕方ないやつだな」

 俺のダメなところも含めて認めてくれる様な笑い方に涙が出そうになる。いや、こぼれた。

「……ごめんなさい……アストリッド様、俺、また」

 アストリッド様の肩にもたれかかって泣くと背中をぽんぽん叩いてくれる。温かい……。


 アストリッド様は眼鏡の人に視線を送ってるみたい。優越感に満ちた笑みをしてるのはなんでだろう。そしていつもより優しい気がするのは気のせいかな?


「――認めれば良いんでしょ!分かった!だからボクの場所でイチャイチャするな!」

「……認める?」

「あ……祝福させて頂きます」


 フッと漏れる様な声が聞こえて、ベリっと剥がされた。アストリッド様の優しさは一瞬だけだった……。たまの優しさは俺を癒してくれる。それだけで満足です!


「ファニーの両親の言う通り、本当に気持ち悪いくらいファニーの事が好きなんだな?恋愛小説もファニーのために用意したんだろう」

「ファフニールのかわいさは反則技だからね。そんなかわいいファフニールの嫁なんていじめられたって当然だろう?」

「え?俺の為にあの幻の恋愛小説を用意してくれたんですか?ありがとうございます!読みたかったんです!」

 アストリッド様を殺そうとしたのは許せないけど、もう反省してるみたいだし、わざわざ本も用意してくれたなんて、とっても良い神だ!

 邪神化が消えて、なんだかキラキラしちゃうよ。そしたら『知識の神』は尊い……と言って俺を拝み始めた。目には涙が溜まってる。

 そしてアストリッド様……。そろそろ壁ドンとこの至近距離止めて下さい……とそっと目で訴える。意地悪そうな、でも嬉しそうな顔で、そっと俺のおでこにキスをして離れてくれた。


 え……エロい……い。ずるい……。主導権ばっかり握って、俺を恋愛小説のヒロイン扱いばかりして!嬉しいに決まってるでしょう⁉︎愛が溢れて、また世界に恋人が増えちゃうよ!アストリッド様のバカ……でも大しゅき……。


「………………。わるく……ない……。むしろイイ……」

 ドタって言う音と共に、『知識の神』は倒れてしまった。

 その気持ち……良く分かります!萌え死にですね。『知識の神』!

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