第8話 最強賢者が知る最恐ドラゴンへの攻め方

 灼熱色に金色がかったドラゴンの背に乗る。雲の上をぐんぐんと進むさまは爽快だ。太陽の直射日光も眩しくらいに煌めいている。ファニーは私を含めた身体全体に防護膜を張っている。こいつはやれば色々できるのに、いつも自信なさげだ。実は戦えば強いのに。だがそんなところもかわいいと思う。

 いつから惚れたとかはっきり言えないが、一緒にいたいと思うこの気持ちが愛と言うものだと思ってる。コアトリクエに奪われてなるものかと思う執着心も含めて全て。


「アストリッド様!もうすぐ西の大陸ですよ」

 ファニーの楽しそうな声が聞こえる。ファニーの父アハティの話によると『知識の神』は私達が住む大陸から西にある大陸にいるらしい。大小合わせて13カ国ほどあるこの大陸の中心には、知識の国クニハがある。クニハにない本はないと言われる『全能の図書館』がある。そこに『知識の神』はいるらしい。人に化けて……。


 なぜ神々はややこしい事ばかりするのだろう。ただでさえいっぱいいて、ややこしいのに地上に降りて人間に影響を与えたり、魔物の味方になって暴れたりとやりたい放題だ。神なら神らしく神の国に鎮座していていただきたいものだ。

 しかしそうなると私とファニーも神の国に鎮座する事になるのか……。それはそれで堅苦しそうだ。


 ファニーが徐々に下降する。雲の合間を縫うように降りて行くと緑に包まれた大陸が見える。こんな上空から地上を見たことはない。新しい大地に心が躍る。




◇◇◇



 知識の国クニハはその土地の半分を図書館が占める。今まで出た本、そしてこれから出る本を考えるとそのくらいの土地は必要だということだ。そして本が燃えては一大事という理由で、水をたたえた深い堀に囲まれている。この水は魔法で生み出されいて常に一定量を保っている。

 図書館に入るにも厳重なチェックをされる。堀を渡る橋に第一門。そこから門は10ある。私は冒険者ギルドのSS級なので第7門までは入れる。ファニーは私の付き添いで一緒に入れる。


 図書館は奥に行けば行くほど、知識レベルが高くなり、本の難易度も上がる。更に図書室が建物を周囲をぐるっと囲む様に作られているので、門をくぐればくぐるほど、部屋が狭まくなっていく。

 そして第7門となれば、私でも読めない本が出てくる。私の職業『大賢者』には『翻訳』のスキルがある。だが自身の知識レベルを超えると翻訳されない。

 一冊だけ翻訳できない本がある。それをじっと見てると、呑気なファニーが図書室の静寂をやぶる。

「じくうかんまじゅつの、きけん?違うかな?きけんじゃなくて、きたいかな?」

 私が読めない本の題名をファニーが読む。周囲の人間のざわめく声が聞こえる。つまりここにいる者達も読めない本だったらしい。

 ファニー、ムカつくと思っていると、図書館の職員らしき女性が近づいてきた。お二人はこちらへ……と第8門へ続く扉へ案内される。ファニーのおかげで、いつのまにか試験に合格したらしい。


 そう……この図書館は第7門までは資格や身分で入ることができる。だがそれ以降の門は、試験を合格しなければ通れない。

 私はこの奥に『知識の神』がいるとふんでいる。最終手段として誘い出す手を聞いているが、それは最後の手段で取っておきたい。


 第8門をくぐると、そこには人がいなかった。相変わらず部屋は天井まで届く本棚に本がぎっしり詰まっている。本棚とテーブルと椅子、これだけしかない部屋。

「アストリッド様……魔法が使えないです」

「その様だな……」

 周囲を見回し本の背表紙を見る。まったく読めない。スキルが使えないせいなのか、自身の知識が足りないのかが分からない。


「ファニー、背表紙が読めるか?」

「えっと……かみがみのれきししょ、かみがみのまほう、あれ?……恋愛小説がある」

「恋愛小説?」

「幻の恋愛小説です。読んで良いですか?」

「……お前……何しに来てる?」

「だって……これ読んで見たかった……」

 またかわいい顔でねだるファニーに甘い私がいる。だが素直に言えない私もいる。本当にこの気持ちをどうしたら良いのかいつも悩んでしまう。

「……私は周囲を見てくる。その間だけだぞ」

 結局こんな事しか言えない。私も一緒に読みたいとか言えれば楽なのに……。


 ぐるっと周りながら壁にある本を見ていく。その背表紙はやはり読めない。金の箔押しの背表紙、歴史を感じる重厚な背表紙、手書きの背表紙、そして何も書かれていない背表紙……。その本を手に取って開く。まったく知らない文字だ。パラパラと捲ると挿絵がある。男女の絵……。どこかで見た事がある気がする。関係ないかとパタン閉じて、戻そうとすると、奥にも本があることに気付く。その前にある本を動かし奥の本を取り、開く。大陸共通文字が書かれてある。

(馬鹿が見る。豚のけつ)

 思わず本を投げつける。開いたページには

(投げると思った。予想通りすぎて草)

「……くさ?」

「アストリッド様?何か音が聞こえましたけど?」

「ファニー、良いところに来た。草ってなんだ?」

「え……?」

 ファニーは床に転がる本を見る。

「ああ、そうですね。この感じだと、面白いとかウケるとかですね」

「……破く!」

 本のくせに頭にくる!止めるファニーを無視して本を拾い、破こうと力を入れる。開いたページにまた文字が見える。

(やっぱり破こうとすると思った。更に草。この本は破れません。ばーか)

 力を込めても破れない!ムカつく!

「アストリッド様!本を破いちゃダメです!」

 あげくファニーに本を取り上げられる。


 頭に来る!ファニー好みの本。更に私をからかう様な態度!ここにいる事は分かった。しかもファニーの両親に聞いていた通りだ。

そっちがそうくるなら、こっちもやってやる!

「ファニー!」

 叫ぶと同時にファニーに壁ドンする。ファニーはこのシチュエーションが好きだ。私がどれだけファニーの好きな恋愛小説を読んだと思っている。ファニーのツボは全て押さえているんだよ!

「……あ…アストリッド様……」

 予想通りに真っ赤になるファニーの頬をそっと撫でる。そうするとファニーの目は急激に瞬きを始める。更に近付くと今度はぎゅっと目を瞑る。予想通りだ!

「アストリッド様……ダメです……。こ、こんなところ……で……」


 はいはい、言うと思ったぞ!その台詞はお前が好きな小説で良くヒロインが言ってるセリフだな。最恐ドラゴンのくせに、強引に迫られるのが好きなんて、お前はアホだ!やっぱり純粋ピュアドラゴンに改名だ!

 そして私はファニーが喜ぶ台詞もやって欲しい事も分かっている。つまり……、唇に指をあてて……。

「黙れ。ファニー」

「――――――!!!!」

 予想通りファニーが悶えて始めた。こいつはやっぱりアホだ。そもそも恋愛小説だと立場が逆だ!

 まぁ良い!それから顎クイすれば良いんだろう?はいはい、全てやってやろう!なんならその先の先まで全て!


 その時、慌てふためく声が図書室にこだました。

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