第7話 最恐ドラゴンの出生の秘密

 俺とアストリッド様は客室に放り込まれた。そのまま出るなと命じられる。夕飯は城の料理人が代わりにやってくれるとのことだ。久々に俺の手料理をアストリッド様に食べてもらおうと思っていたのに……。


「随分と気持ち悪かったな……」

 アストリッド様の言葉にうんうんと頷く。

 俺の部屋は使用人さん達が片付けてくれるそうだ。アストリッド様の部屋に元々あった荷物はゴミ捨て場にあったらしい。これも使用人さん達が元に戻してくれるそうだ。


 扉がノックされ、アストリッド様が立ち上がる。動くなと俺を制すアストリッド様の姿に惚れ直してしまう。

 そんな素敵なアストリッド様が扉を開けると俺のお父さんお母さんがいた。

「ファニーちゃん、リューディアちゃんに聞いたわ。大変な目にあったわね」

 『芸術の神』であるお母さんは相変わらずキラキラしてる。

「ファフニール……お父さんが帰ってからククルカンを折檻するから許してくれ」

 ドラゴンの王であり原初の炎の神であるお父さんは相変わらず、大きくて威圧感がある。

「良いわね。お母さんも『出産の神』をちょっといじめるわね。私のかわいいアストリッドちゃんの妹ちゃんを虐めるなんて許せないわ」

 キラキラしてるお母さんの顔が怖い!

「それは良い。ぜひ私も参加させてくれ」

 そこにリューディア様が加わった!3人で握手してる!無敵だ!向かうところ敵なしなメンバーだ!


「それよりも説明をお願いします」

 そこにあっさり塩を投げ入れられるアストリッド様の心臓はやっぱり鋼!鋼の心臓‼︎

「あなた方が揃うと碌なことにならないのは、充分に理解してますのでね。私達に迷惑をかけない範囲でお願いします」

 しかも冷めた視線を送っちゃうの⁉︎すごい!アストリッド様!しかも俺達って言ってくれた!俺の事もセットにしてくれた!一生ついて行きます!アストリッド様!


「分かったわ。迷惑はかけないわ。まずはファニーちゃんの過去の事を話すわね」

 ニコニコキラキラなお母さんを筆頭に3人が入ってきた。


 テーブルを挟んで対面にあるソファに俺とアストリッド様とリューディア様が座り、お父さんとお母さんはその向かいに座る。俺が用意した紅茶とクッキーをテーブルに置いたら、お母さんは、ファニーちゃんの手作り!と言って嬉しそうに食べてくれる。

 そう言えばアストリッド様と生活するまで料理らしい料理をした事がない事に気付いた。アストリッド様との出会いのきっかけになったのは、俺が牛の丸焼きが食べたくて牛を盗んだからだけど(金の延べ棒を置いていったけど足りなかったらしい)、そんな料理(?)しかしてなかった。そもそも野生の野良ドラゴンだったし。みんなに恐れられていたから、ぼっちだった。


 アストリッド様と出会わなければ、俺は未だに一人ぼっちだったのかな?そう思うと牛さんを盗んで良かったな。

 えへへと笑ってアストリッド様を見ると、気持ち悪いと蔑まれた。相変わらずの塩対応だけど、奥の奥のおく――に愛情を感じるから良いの。


「さてファフニール……コアトリクエと言う名前を覚えているかな?」

 お父さんが柔らかく微笑みながら聞いてくれる。なのに俺はその名を聞いただけで寒気がした。思わずアストリッド様の後ろに隠れようとしたら、邪魔だとばかりに正面を向かされた。相変わらず優しさがない……。


「やっぱり怯えているわね。そうよね。半年近く軟禁されていたものね」

 お母さんが右頬に手を当てながら、クッキーを食べる。

「……軟禁って……どう言うこと?お父さんとお母さんは助けてくれなかったの?」

「お父さんとお母さんが助けないわけないだろう!それこそ神々総出で探したんだよ?その影響で海中火山が噴火して、新しい島ができちゃうし、天候不順になって夏なのに雪が降るしで大変だったんだよ」

「144年前の出来事だな?歴史書にあるな。世界の危機だったと……。その背景がファフニールだったとは……」

 リューディア様がため息混じりに、俺を見る。俺が5、6歳の時だ。覚えてない。


「コアトリクエは、ファフニールより1000年前に生まれた比較的若い神でね。ずっと自分の伴侶を探していたんだ。そしてファフニールが産まれた時に、どうしても自分の伴侶にすると言ってね。私達は無視していたんだが、思いが募ってファフニールを攫ってしまったんだ。ファフニールを見つけたのは、コアトリクエの祖母である『子供の神』なんだけど、あまりにものファフニールの怯え様を見て、コアトリクエをその場で封印したらしいんだ。何せ『子供の神』だ。子供への愛情は半端ない。だがその光景を見ていたファフニールは恐怖のあまり気絶してしまってね。戻ってきた時には記憶がすっぽり抜けていた。ところが最近になって、封印が解かれたと『子供の神』から連絡があったんだ。おそらくファフニールが『恋愛の神』として目覚めて、神々にファフニールの伴侶がアストリッドだと認められたからだろうね。コアトリクエのファフニールへの執着心は半端ないからね。なにせ神々の追跡を半年もかわすくらいだ……」

 淡々とお父さんは話すけど、俺の背中には汗がびっしょりだ。アストリッド様の背中には隠してもらえないので、どうしようと思ってたら、手を握ってくれた。たまにくるアストリッド様の優しさに涙が出そうになる。


「ファフニールは記憶がまったくないのだな?」

 リューディア様の言葉に頷く事で返す。

「なんで俺なの?おかしくない⁉︎だって……

「おかしくなんかないわ!だって産まれたばかりのファニーちゃんはかわいくてかわいくて、ファニーちゃんを見たあの始終むっつりしてる『闇の神』ですら微笑んだくらいよ?『闇の神』が微笑んだせいで、地下の亡者達の殆どが浄化されてしまって、『光の神』が支配してる転生の門が死者が溢れかえって大変だったのよ!神々総出で死者を整列させなきゃいけない事態だったのに、みんながファニーちゃんから離れたくないって言うから、お母さんはファニーちゃんと一緒に転生の門に出張したんだから!」

「「「………………」」」

 始めて聞くお母さんの言葉は衝撃だった。そして俺を見るアストリッド様とリューディア様の目が冷たい……。色々迷惑をかけてごめんなさい。


 光と闇の神はお父さんと同じ原初の神だ。

火・水・氷・風・雷・土と光と闇の力でこの世界はできた。この世界を作った時に発生した神々が『聖なる神々』、この世界を創造した神々が『原初の神』だ。この神々が結婚してできた子供が神になる。神々は結婚相手を選ばない。神同士結婚する場合もありし、人と結婚する場合もある。なんなら動物でも魔物でもなんでもありだ。

 俺の両親は神同士の結婚。そして俺は相手にアストリッド様、人間を選んだ。相手はコアトリクエなんかじゃない!


「とりあえず……コアトリクエを殺しても良いと言うことだな?」

 アストリッド様が殺気を放ちつつ怖いことを言う。

「アストリッドちゃん……神は殺せないわよ?」

 その殺気を気にせずお母さんがぶっこむ。

「え?そうなの?」

 そしてそれを知らなかった俺は驚いた。

「ファニーちゃんだって、あれだけ突き刺されても血を流しても死ななかったでしょう?殺せないのよ。神は」

「ではどうすれば?また、封印か?それを繰り返しても意味がないだろう?」

 アストリッド様の質問にお父さんが、答えを出した。

「殺せないが生まれ変わる事はできる。そうすることでコアトリクエのファフニールの妄執も消せるだろう。問題は生まれ変わらせる方法を私は知らないと言う事だ」

「では誰が知っている?」

 アストリッド様が問い詰めると、お父さんは笑った。

「誰が知ってるか知らないから、とりあえず『知識の神』に聞きに行くんだね」

「誰が?」

「君達が。私が行っても教えてくれないが、君達なら教えてもらえるはずだ」

「……分かった。だがコアトリクエの追跡をかわしながらの旅は面倒だ。コアトリクエの相手はあなた達に頼む」

「分かったわ。リューディアちゃんも付き合ってくれる?」

「それは楽しそうだ」


 こうして俺とアストリッド様の、コアトリクエを生まれ変わらせるチームと、コアトリクエを捕まえるチームが結成された。


 俺は久しぶりのアストリッド様と二人切りの旅でワクワクしていた。


 この時は……。

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