第5話 最恐ドラゴンと勇者は恐怖する
みんな昼間からなんて話をするんだろう!しかもレオンもシーグリットさんも俺の事をからかって!
怒りながら、そして真っ赤になりながら、俺は廊下を歩く。窓ガラスに映る俺は情けない顔をしている。誰よりも長生きしてるのに、こんな冗談話もまともにできないなんて……。アストリッド様の呆れた顔が忘れられない。
「ファニー!」
呼ばれて振り返る。息を切らせてワゴンを押しながらやってくるのはレオンだ……。持って来てくれたんだ……。ん?レオン⁉︎
「レ、、レオン⁉︎出て来て良いの?」
「……あ゛……」
ビタン‼︎
何かが張り付くような大きな音が聞こえて、俺とレオンはビクッとする。目と目を合わせ、お互い頷き、少しだけ窓の方を見る。そして慌てて窓と反対側を向く。
「レオン……お客様じゃない?」
「ウェディングドレス姿だったぜ?ファニーの客だろう?」
「俺の花嫁はアストリッド様だけだよ」
「ハハハ、俺もシーグリットだけだ」
ビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタビタ!
更に大量の張り付く音が聞こえる。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
そして窓ガラスを叩く音が刻まれる。
「この城の窓って強化されてるから割れないんだよな?」
「俺もそう聞いたよ。試しにやったけど割れなかったし」
「ファニーが割れないんじゃ大丈夫だな」
「「……………………」」
レオンと俺は肩を組む。そして頷く。一蓮托生だ!俺達は親友だ‼︎行くぞ!おう‼︎
叫びあって窓を見る。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」」
廊下にこだまする絶叫。
窓ガラスに張り付くウェディングドレスを着た人!小さい妖精さん!大きい妖精さん!小さい精霊さん!大きい精霊さん!いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい!!!いっぱいすぎて、外が見えない‼︎
「あわわわ……なんでモブ顔なのにレオンはこんなにモテんの⁉︎」
「モブ顔言うな!気にしてんだから!『魅了』のスキルがレベルアップして『愛し子』に変わったんだよ!そしたらこうなったって知ってんだろう⁉︎」
「なんで変なのばかりに好かれるんだよ〜。レオンのバカ〜。怖いよ〜」
「お前の客だっているんじゃねーか⁉︎」
「俺なんて150年生きてて、アストリッド様が初めて好きって言ってくれた人だもん!どうせモテないもん。レオンのバカ〜」
慌てるレオンとわんわん泣く俺。そしてドンドン鳴り響く窓。不協和音が鳴り響く。こうなるともう治まりがつかない。俺の貧弱な精神は限界だ!
「怖いよう〜。アストリッド様助けて〜」
ピシリ!音が聞こえた。
俺とレオンは目を合わせる。
ピシピシピシッ――!
更に聞こえて、俺とレオンは窓を見る。
「「ひび〜!!!」」
「窓にヒビ入ってる!ファニー助けて!」
「なんで俺なの⁉︎レオンは『勇者』でしょ!俺を助けてよ!」
「お前なんか神(笑)じゃねーか!」
徐々にひび割れて行く窓ガラス!不毛にも言い合う俺達!アストリッド様助けて!俺は何度も叫ぶ!
その時、地面を這うような声が聞こえた。
「
その一言で空気が重くなる。更に冷気が漂う。更に更に息苦しくまでなっていく。
パラパラと落ちていく音が聞こえる。
心の弱い妖精さんが気絶して落ちていく。
パタパタと羽の音が聞こえる。
なんとか意識保った妖精さんが逃げて行く。
ガクガク震える音が聞きえる
どうすることもできない精霊さんが震えている。
シクシクと泣く声が聞こえる
恐怖で泣くことしかできない精霊さんの泣き声だ。
「我が城にて何を騒いでいる?」
威圧だけで、妖精さんと精霊さんを恐怖のどん底に叩きこんでいるリューディア様がゆっくり歩いてくる。俺とレオンも恐怖のあまりひしと抱き合う。お互いの体は震えてる。更に俺は半べそだ。
「お前はしぶといな……」
嘲笑するリューディア様の視線を追う。ウェディングドレス姿の人がいる。長い髪は紫がかった赤色だ。なんでウェディングドレスなんだろう……。それにどこかで見たような……。
じっと見てると赤すぎる唇がニヤっと笑った……。きも!キモイ!なんなのあの人⁉︎気持ち悪い!なんでレオンの客は地雷臭がするの!
赤すぎる唇がそっと開く。
(ファ・フ・ニー・ル)
「――!」
今、俺の名前を呼んだ?
レオンを見る。
レオンは首をブンブンと横に振る。
レオンを指差す。
レオンは違う違うと手を振る。
自分で自分を指差す。
レオンはうんうんと首を縦に振る。
つまり……俺のお客様?
首を傾げて、もう一回、ウェディングドレス姿の人を見る。ニヤァァって笑った。口を開けて笑った。
「キモッ!!」
思わず口に出す。
レオンが俺の口を押さえる。
ピシピシとひび割れて行く窓ガラス。
リューディア様が俺の前に立つ。
キン!と響く音が聞こえ、ウェディングドレスの人とそれ以外の精霊や妖精が落ちていく。そのさまは寿命の尽きた蝉みたいだ。バラバラと落ちていく。
瞬く俺達に向き合うリューディア様は率直に怖い。その蔑むような視線に全身から汗が出る。ついでに目に涙も溜まる。
「なぜ、お前がここにいる?レオン」
「あ……その……間違えて……」
レオンの声は震えてる。でもこの威圧の中で話せるレオンはすごい!やっぱり『勇者』なだけある!
「間違いですむのか?」
更に強まる威圧に俺とレオンは何故か自然に正座をしてまう。視線は床だ。床に額の汗が垂れる。
「レオン!シーグリットが!」
突然廊下の先からアストリッド様の声が聞こえる。その声と同時にレオンが走る。リューディア様も走る。突然の出来事に俺も慌てて追いかける。
なんだろう。なんだか嫌な予感がする。
そう思いながら、軟禁部屋に急いだ。
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