第4話 最強賢者とピュアドラゴン

 軟禁部屋に入るとシーグリットとレオンがいた。ソファに座るシーグリットのお腹にレオンがぴったりくっついている。お腹の赤ちゃんが動くのを楽しみにしているらしい。


「アストリッドさん⁉︎え?入って平気?」

 慌てて私を見るレオンの顔は、相変わらず平凡だ。やはり私には魅了は効かないようだ。知らぬ間にファニーがかけた加護によって魔法による一切の状態異常が効かない体になっている。問題はファニー自身がかけた覚えもなければ、やり方も分かっていないと言う事だ。


「効かないな……。だから一緒におやつの時間にしよう。ファニーの作るスイーツは美味しい。私も久しぶりに食べる」

「じゃあ2人で食えよ……」

 ぼそっと呟くレオンに睨みをくれる。さっき勢いでキスしてしまった。少し照れ臭いのだ。少しここにいさせて欲しい。


「ファフニールが来てから食事が豪華になったわ。特にスイーツは絶品よね。最近はおやつの時間が楽しみなの」

「あんま食べ過ぎて太るなよ。と言いたいけど、うまいんだよなぁ。ファニーのスイーツ」

「喜んでもらえて嬉しいです。俺も作りがいがあります。あ!アストリッド様は紅茶より珈琲ですか?」

「……そうだな」

 相変わらずまめだ。こまめに気がつく。そしてこのカヌレもオランジェットも美味しい。


 本当はファニーと一緒に旅に出たかったが、ある事情によりダメになった。ここにいれば母がいる。母に勝てるものなどそういない。そもそも神々とも渡り合える存在だ。規格外にもほどがある。そしてその母を持ってしても捕縛は叶わなかった。

 恐るべき相手だ……。


「今日の夜は久しぶりに一緒ですね」

 相変わらず無自覚にぶっこむファニーを見る。こいつには狙われている自覚がない。母が私を呼び戻したのはそろそろ危ないと言う事だ。つまり寝室は共にしなければいけない。

 確かにずっと一緒に寝ていた。だがそれは子竜の姿のファニーとだ。人間の姿のこいつとベッドで一緒に寝る?あり得ないだろう……とは言わないが……。


 もう一度ファニーを見る。呑気な顔で紅茶を飲んでいる。キス一つであたふたしているこいつが、その先ができるのか?


「ファニーってさぁ、ドラゴンで神(笑)なんだろ?子供ってできんの?」

 そしてレオンが私の心を読むように、ファニーに質問する。良い質問だ!レオン!私もそれを知りたい!


「え……。そんな……それは……なんかたぶん……だ……大丈夫なのかなぁ?」

 真っ赤になりながら答えるファニーの答えは答えになってない!

「ファフニール……。子供の作り方知ってるわよね?」

 そしてシーグリット!お前は何の質問をしてるんだ!一応150歳で、『恋愛の神』だぞ!知ってるに……決まってるはず……。


「……そんなここでは言えないですよ!」

 あ……一応知ってるっぽい。その答えにちょっと安心したぞ。ファニー。


「まぁ、ファニーじゃ楽勝だよな。俺は中々倒せなくて苦労したよ」

「そうよねぇ。思ったより強かったものね。あの魔神……」

「ま、魔神?魔神って何⁉︎」

 ファニーが目を白黒させている。そろそろ学習しろ。ファニー……。からかわれているんだ。


「クルクリでは夫婦が一緒に寝室に寝てると、子供を授ける魔神が出てくるんだよ。魔神を倒せたら、子供ができる。でも倒せなかったら子供ができないんだよ」

「そうなの⁉︎」

 レオンの言葉に動揺するファニー。こいつ……大丈夫なのか?本当に分かってるのか?わざとレオンとシーグリットの言葉に乗っかっているのか?


「でも、そんなの聞いた事ないよ!だって子供って夫婦が一緒に寝てたら、『子供の神様』が授けてくれるんでしょう⁉︎」

「……は?」

 驚きすぎて声が出た。レオンもシーグリットも驚いている。

「お父さんとお母さんが言ってたよ。『子供の神様』はお母さんの叔母さんなんだって」


「あ……うん。そう来るとは思わなかった。マジかぁ。アストリッドさん、ごめん」

「ファフニール……。あなたって良く恋愛小説読んでるでしょう?そこに……そう言う事は書いてないのかしら?」

「……え゛……」

 真っ赤になるファニーに私達3人はがっくり肩を落とす。良かった……。一応知っているらしい……。

 そして寝室は一緒にしても大丈夫そうだ。なんて人畜無害な『最恐ドラゴン』なんだろう。『純粋ピュアドラゴン』にでも改名した方が良いのではないだろうか……。


「お、俺、夕飯の準備します!」

 脱兎の如く逃げて行くファニーの背中を3人で見送る。

「……行くか」

 ため息をつき立ち上がる。今は誰かが付いていなければ行けない。

「あ!いいよ。俺が行くから」

 気を利かせてくれたのだろう。レオンが食器をワゴンに載せ、ガラガラ押しながらファニーを追いかける。

「お騒がせね。姉様の婚約者は」

「頭が痛くなる……。なんなんだあいつは」

「「ん⁉︎」」

 姉妹2人で顔を見合わせる。そうだ!忘れていた!今のレオンはあらゆるモノを魅了するんだった!


「まずい!」

 私は慌てて立ち上がる!するとシーグリットがうめき声を上げる。

「シーグリット⁉︎」

「ね、姉様、お腹が痛い……」

 シーグリットがお腹を押さえて抱え込むように体を折る。覗き込むと顔が真っ青だ!

「医者だな。待ってろ!」

「レオンが……」

「レオンはファニーと母様に任せよう。すぐ呼んでくる!待ってろ!」

 私は慌てて城のお抱え医師の元に走る。城内は転移できないような魔法が仕込まれている。走るしかない!

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