最終話 最恐ドラゴンは最強賢者と幸せになれる?
「お帰りなさい、ファフニール!次の行き先はトイヴォ王国よ」
にっこり笑うシーグリッドさんに俺は怒りの声をあげようと思ったけど、怖くてできないから普通に聞く事にした。
「ただいま。ねぇ、シーグリッドさん。アストリッド様はどこ?俺はアストリッド様と2か月以上会えてないんだけど・・・」
「姉様はレイヴォネン王国よ。その後に聖都タハティクヴィオに行く予定。1か月以上帰って来ないわ」
またまたにっこり笑いながら言うシーグリッドさんの言葉を聞いて、俺はその場で崩れ落ちた。
俺とアストリッド様が両思いになれた、あの日。俺は『恋愛の神』として覚醒した。
その後は喜んだお父さんとお母さんに連れられ、神々に挨拶をし、下山した。クルクリに帰った俺達は、歓迎ムードで迎えられると思っていたら、なんと人間界は邪竜の群れで溢れかえっていた。
原因は俺の流した血から生えた木の実だった。その実を食べたドラゴン達が邪竜となり下界を襲った。もちろんこれは内緒だ。絶対に言うなと両親にもアストリッド様の家族にも、神々にも言われた。
そこで普通の人には退治できない邪竜を退治するための特殊ギルドが設立された。創設者はシーグリッドさん。元々作ろうと企ていたらしいので、善は急げとばかりに立ち上げた。
お陰で俺を始め、アストリッド様の家族全員で大陸中を邪竜退治に駆け回っている。
そして俺は、クルクリに戻ってから一度もアストリッド様に会ってない。せっかく恋人同士になれたのに。ウェディングドレスだって縫い上がったのに。
「よーっす!ファニー!相変わらずシケた面してんなぁ」
扉が開いて、すっかり友達になったレオンが帰って来た。レオンはリューディア様に鍛えられてとても強くなった。さすが『勇者』伸び率が半端ない。
「久しぶり、レオン。だって俺はアストリッド様と2か月以上会ってないんだよ。クルクリに戻って1か月で結婚式って言ってたのにおかしくない?」
「いや、誰のせいでこんなになってると思ってんだよ」
「それを言われると辛いけど・・・」
「まぁ、でも先に謝っとく。ごめん。ファニー。結婚式は俺達が先にする事が決定した」
「え?なんで?」
意味が分からず俺の目は瞬く。するとレオンはシーグリッドさんのお腹を指差した。
「「できちゃった」」
ハモって照れくさそうに笑う二人に言葉を失いそうになったけど、悔しいから突っ込む。
「嘘でしょ⁉︎俺なんてアストリッド様と一回しかキスできてないのに!二人ともずるいよ!羨ましいよー!」
嘆く俺にレオンが冷めた目で突っ込みを返す。
「いや、これも結果、ファニーのせいじゃね?」
「分かってるよ!俺が『恋愛の神』として立ったから世の中全体が恋愛ブームだって言いたいんでしょう⁉︎どうせ制御できてないよ。それもこれもアストリッド様と会えないから悪いんだもん!アストリッド様に会いたいよ〜。俺もアストリッド様とイチャイチャしたいよ〜」
わんわん泣いてもアストリッド様とは会えない。でも泣かずにはいられない。
「あーあ、こうやってファニーが泣くたびに、力が暴走して恋人が増えるんだろう?シーグリッド、ファニーをアストリッドさんに会わせてやれよ」
「悩む所よね。母様が兄様達に恋人ができるまで、ファニールは姉様に会わせるなって言われてるのよ」
「リューディア様はそんな事を言ってるの⁉︎ひどいよー。人間のバカ〜。また騙した〜」
「あーあ・・・」
レオンが後ろ頭をかきながらため息を漏らす。
情けなくても良いってアストリッド様が言ってくれた。でもそのアストリッド様はいない。だから俺はわんわん泣く。アストリッド様に会いたい。
「シーグリッド、レイヴォネン王国には邪竜がいなかったぞ?」
開けっぱなしだった扉から声が聞こえた。その声の主を見る。
「ん?ファニーはなんで泣いてるんだ?」
相変わらずの塩対応。
「お前達が泣かせたのか?」
でも俺を助けてくれる。
「アストリッド様〜!会いたかったよう〜」
俺はアストリッド様にしがみつこうと走ったが、避けられた。そのまま床にべしゃと倒れ込む。
「あ・・すまん。癖で・・」
そんな謝り方のアストリッド様も好き。俺の好きが溢れてしまう。
なのに、アストリッド様は普通にシーグリッドさんと打ち合わせを・・・嘘だ!打ち合わせを始めちゃうの⁉︎久しぶりの恋人同士の再会なのに⁉︎俺達はまだチューを一回しかしてないよ?
冷たい・・・。アストリッド様が冷たすぎる・・・。こんな世界嫌いだ・・・。
「あー・・・。アストリッドさん。彼氏をかまってやれよ。また邪神になりかけてるぜ?」
レオンの言葉にアストリッド様は俺を見る。
「はぁ⁉︎」
アストリッド様のウザそうな視線を感じて、俺は泣きべそをかきながら自分を見る。
「え?あ、本当だ!」
俺は慌てて身体を取り巻く黒い瘴気を払う。良かった。間に合った。
アストリッド様が深〜いため息をつく。そして俺の腕を掴んで歩き出した。
部屋を出て、どんどん歩いて行く。
「アストリッド様、どこに行くんですか?」
俺は聞く。でもアストリッド様は答えてくれない。
どんどん歩いて行って、たどり着いたのは、俺達が使っていた部屋。通称、軟禁部屋。
部屋にぽいっと入れられて、ドン!と壁ドンされた。
「ファニー、私がなぜ頑張って邪竜を倒しているのか、分からないのか?」
「え・・・。戦いたいから?」
俺が言ったと同時に壁がメリメリって音がした。怖い!違う方向で心臓がバクバクする!せっかくの恋人からの壁ドンなのに!
「私達の結婚のためだろう!邪竜を倒さないと、結婚式も挙げれない!だから頑張っているんだ!他の誰が分からなくてもお前は分かれ!」
「そう・・だったんですね・・・」
涙が出そうになった。いや出ちゃった。ついでに鼻水も。
「分かったな?だから会えなくても我慢しろ。私達のためだろう?」
俺は何度も頷く。嬉しい!俺達のために頑張ってくれてるんだ!
「では行ってくる」
アストリッド様は俺に軽くキスをして、手を振って部屋を出て行った。
・・・随分とあっさりしている。
いや!疑っちゃダメだと首を振る。
俺も頑張ろうと部屋を出る。
アストリッド様の言葉を信じて!
その後、アストリッド様のお兄さんのヨウシアさんが興味本位で俺の流れた血からできた木の実を食べて邪神となり、世界を巻き込んだ戦いになり、更に結婚は遠のくのであった。
嘆く俺にお父さんとお母さんが言った衝撃の言葉が忘れられない。
「『結婚の神』が目覚めてないから・・・」
俺達の結婚はまだまだ先のようだ・・・。
〜fin〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます