第24話 最強賢者と最恐ドラゴンの作戦会議
聖女エヴェリーナは放心状態になり、もう正気にはならないって聞いた。それを聞いてアストリッド様のお母さん、リューディア様は「海が割れたのが、よっぽどショックだったようだ」と口だけで笑っていた。
でも俺とシーグリッドさんだけは知っている。なぜなら聖女エヴェリーナに称号が増えていた。
『剣豪に切られて生き返された者』
俺とシーグリッドさんは生涯の秘密にしようと誓い合った。
聖女エヴェリーナの魅了でやられていた人達は全て正気を取り戻した。そしてアストリッド様の魔力を封じていた腕輪も外れた。
聖女の側近をしていたトゥーレから、新しい聖女の情報も聞けた。今までは産まれた聖女は全て殺していたらしい。
しかも封印されていた西の悪魔とリヴァイアサンを復活させたのもエヴェリーナだった。
やっぱり聖女エヴェリーナは最低だと思った。
アストリッド様は大聖堂から新しい聖女を迎えに行くように依頼された。そのまま、迎えに行こうとしたら、リューディア様に一回実家に帰れと止められた。
冷笑するリューディア様は怖く、その迫力に大聖堂の人達も俺達も頷く事しかできなかった。
そして俺は今、アストリッド様と一緒に俺に与えられた部屋にいる。つまり窓のない部屋に。
「ここがお前の部屋なのか?」
アストリッド様の言葉に俺は頷く。改めて俺の部屋を見る。
大きいベッドを独り占めだと始めは喜んだ。今は理由が分かった。
フカフカな大きいソファで寝転んで小説を読んだ。1個しかないのは、並んで座らせる為なんだと、今実感している。
どうして鏡台があるんだろう、と少し疑問に思ってた。アストリッド様のためだと今なら分かる。
どうしてクローゼットが左右両側にあるのか疑問だった。俺用とアストリッド様用だったんだ。
そして楽しく入っていた大きなお風呂。
「アストリッド様・・・この部屋ってもしかして」
俺は赤い顔を隠しながら、涙声で聞く。
「軟禁部屋だ」
「なんきん・・べや・・」
復唱しながら、アストリッド様を見る。アストリッド様は普通の顔をしてる。
良かった!新婚用のお部屋じゃなかった!俺の勘違い!恥ずかしい‼︎
「賓客でありながら、逃がせない人間を入れておく部屋だ。その証拠に色々豪華だが、窓もない。扉は外鍵だ。いざとなったら、魔法が使えなくなり、攻撃も効かなくなる」
『試練の洞窟』の最後の部屋と一緒になるって事?そう思うと怖い。あの部屋では俺でも何もできなかった。
そして今のやりとりで確信した。
「アストリッド様は、俺のことをもう好きじゃないでしょう?」
「・・・・・やはり分かるか?」
「なんとなく、そうなるんじゃないかと思ってました‼︎だってアストリッド様って惚れっぽくて、冷めやすいですから!俺はレオン様の時の事を知ってますから、同じになるんじゃないかと思ってたんですよ!どうせ、あれでしょう!助けた時に、吊り橋効果で惚れたんでしょう⁉︎そんですぐ冷めたんでしょう!」
「そんなにすぐじゃないぞ?お弁当も嬉しかったし、守護の魔法も嬉しかった。お前が迎えに来る日に、何を着るかをドキドキしながら、頑張って選んだんだ。そこまでは確実に惚れていた!だが、お前がシーグリッドと一緒に呑気に入って来たのを見た時になんかドキドキしないなぁって・・・・」
アストリッド様の段々小さくなる声と態度が、俺にまったく興味がない事を物語っている。
それが分かった・・・。
「うわーーん、アストリッド様のばかーーーーー!!!俺のファーストキス返してーーーー!!」
「私だってファーストキスだ!お互い様だから良いだろう!それを言うなら、お前だってなぜ『試練の洞窟』なんぞに行ったんだ⁉︎」
「だってリューディア様が、神様が欲しい物を用意してくれるって言ったんだもん!人間の嘘つきーーーーー!!!」
「そんな嘘!今時、子供だって信じないぞ!」
俺はわんわん泣いた。だってアストリッド様が惚れっぽいお陰で巻き込まれたから。しかももう冷めたって。それなのに半年後は結婚って、辛すぎる‼︎
「泣くな!ファニー。とにかく何とかするぞ!そう言う意味では半年もらえたのは大きい。良くやった!」
「だってリューディア様は、アストリッド様が俺の事を好きであろうと嫌いであろうと結婚させるって言ってましたよ。決定事項だって!」
「ああ、母様はお前の事を気に入っているからな。何をしたらあそこまで気に入られるんだ?ここに帰ってくる間もお前の話しかしてなかったぞ?」
「俺は普通にしてただけですよ。何もしてないです!」
「まぁそこは良いだろう。まずは早々にこの軟禁状態を解いて、聖女を探しに行こう」
「リューディア様がまだダメだって。なんなら自分が行くから、ここにいろって・・」
半べその俺の目の前に、アストリッド様は2本、指を立てる。
「手は二つだ。一つは戦って勝つ。もう一つはラブラブである事をアピールして、旅立つ許可をもらう」
「アストリッド様はリューディア様より強いでしょう?」
俺の質問にアストリッド様はブンブンと首を振った。
「強いわけないだろう!お前は母様が海を切ったのを見ただろう?あんな事ができるって事は、リヴァイアサンは一刀両断にできるって事だ。しかも母様は発動前に魔法を切るんだぞ?魔法頼みの攻撃をする私が勝てる訳がない!」
発動前に魔法を切るってなんだろう・・。とは思うけど、怖くて聞きたくない。
「そう言うお前はどうだった?母様と戦ったんだろう?」
「・・・・尻尾を切られました。しかも防具にするって言って、鍛治師に渡してました。俺の尻尾が鎧になるなんて、うぅっ、哀しい・・」
思い出したら、また涙が出てきた。どうせなら戦う道具以外にして欲しかった。ブックカバーとかだったら嬉しかったのに。
「そうか・・・それは残念だったな。ところでその時に母様は刀を抜いていたか?」
「分かんないです。だって気付いたら、尻尾が切れてたし・・・・」
そう、6度目の逃亡でリューディア様と戦った時、俺はすぐにドラゴンに変わった。変わったと同時に、尻尾が切られてた。お陰でバランスが取れずに俺は転んだ。リューディア様は、俺の頭を踏みつけながら俺を脅した。怖かった。俺の涙で水たまりができた。
「そうか・・・。母様は居合の達人なんだが、本気の相手だと刀を抜くんだ。私はまだ抜いてもらった事がない。お前も同じだとすれば、やはり勝ち目がないな」
「じゃあイチャイチャして、聖女を探す旅に出る許可をもらって、聖女を大聖堂に連れて行って、その後に逃亡って事で良いですか?」
「そうだ!それしか手がない!」
「じゃあ、イチャイチャって具体的にどうするんですか?俺はキスはもう嫌ですよ!」
「私だって嫌だ!あれは、あの時は勢いでやってしまった。すまない・・・」
赤くなりながら、気まずそうに謝るアストリッド様を見て笑った。そしたらアストリッド様も笑った。
反省しているみたいだ。だったら仕方ないって思った。アストリッド様の黒歴史が増えて、俺の心の傷が増えただけだ。
「まずは手を繋ぐとか、腕を組むとか?でしょうか・・・」
「あとはお前が初めに言っていた、あーんとか?」
「そうですね。お互いに恋人ができた時の練習だと思って頑張りましょうか?」
お互い頷き合い、拳と拳を突き合わせた。
明日から頑張ろうと誓い合った。
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