第22話 最強賢者と最恐ドラゴンの再会(1)

「うわ!あんた、どうしたの⁉︎」

 レオンの声にムッとする。

「ノックは?」

「したよ!」


 そう言われると黙るしかない。私は気まずく思いながら、服の袖で涙を拭いた。


「ああ、また小説を読んでたんだ。泣けるやつだったんだな。夢中になったら周りが聞こえなくなる事は俺にも良くあるよ」


「作戦は今日だったな・・・」

 話題を変えようと思い、今までの事がなかった様な顔で話題を切り出した。

 だが手でしっかりしおりを挟み、本を閉じる。まだ半分も読んでいない。この小説は持って帰ろうと思い、握りしめた。


「そうだよ。さっきクソババアが出て行ったから、知らせに来たんだ。そろそろ二人を迎えに行く。ところであんたの母親が、聖女を足止めするって聞いてるけど、大丈夫なのか?クソババアは『強制魅了』持ってるけど」

「母はちーとだ。『状態異常完全無効化』を持っている」

「チートだな・・・」


 二人で口の端を上げて笑う。

 あの母に勝てる者などいるのだろうか。できればそのまま聖女エヴェリーナを倒して欲しいが、そうすると世界が混乱する。だが、一度試しでやってみるのもアリじゃないのか?実際、聖女がいなくても困らない気がする。


 そんな物騒な事を考えていたら、扉がノックされた。

 慌てる事なくレオンが、応ずる。こいつのこういう咄嗟の判断力は感心する。

「何の用ですか?今は指導中です」

「部屋に入れて頂けますか?レオン君」


 その声を聞き、私とレオンは目を見合わせる。聖女エヴェリーナの側近。足音を立てない男の声。名は確かトゥーレ。


「トゥーレ様・・・少しお待ちください。アストリッドに服を着せます・・・」


 慌てて駆け寄るレオンに小声で憤る!

(どう言う意味だ⁉︎)

(仕方ねーだろ!時間を稼がなきゃ行けないんだから!それよりも予定外だ!いつもクソババアと一緒に行くのに、なんで今日に限っているんだよ!しかもここになんて来た事ないのに‼︎)

(バレてるんじゃないのか?)

(かも知れないな・・。こうなったらヤケクソだ!)


 レオンの手が光り、箱が現れる。

 その箱が空き、そこから剣がにょきにょき生える。


 手渡された剣を見る。びっくりした。私の剣だ。


(何が起きている?)

(ああ、この世界では俺にしか使えないらしいな。アイテムボックス。武器とか色んなものが収納できる、まぁドラえもんのポッケみたいなもんだ)


 あいてむぼっくす?どらえもん?どっちも分からないが、なんて便利な力だ。羨ましい・・・・。


 レオンの力に疑問は持つが、まずは考えず剣を持つ。ずっと触っていなかった気がする。懐かしい


「トゥーレ様、今、開けます」

 開けたと同時にレオンは剣を振った。だがその剣はトゥーレの剣で止められた。

「やっぱ、バレてた?」

「その言葉使いは駄目だと指導したはずですが?」

 レオンがトゥーレの剣を弾く。そしてそのままトゥーレを蹴って、廊下に飛び出した。

 私も後に続き剣を抜く。

 燕尾服の集団が廊下を埋め尽くしていた。



◇◇◇◇◇◇



「レオンが来ないわ!」

 イライラするシーグリッドさんに声をかけるのをためらってしまう。

 

 俺達はアストリッド様を助けるために、聖女エヴェリーナの邸宅の台所につながる中庭にいる。そこで玉ねぎの皮剥き中だ。

 そろそろレオンが迎えに来る時間だ。でも来ない。


「裏切られた?」

 俺が聞くと、シーグリッドさんに睨まれた。あれ?この反応って・・・。


「レオンが裏切るわけがないわ!ちゃんと『強制鑑定』で裏切らない事は分かってるもの!きっと何かあったのよ!」

 そう言うと、玉ねぎを放り投げた。俺は慌てて玉ねぎをキャッチする。


「行くわよ!ファフニール!」

「どこへ?」

「姉様の所に決まってるでしょ‼︎」

 叫ぶシーグリッド様をじっと見る。心配そうな顔・・・・。誰を?アストリッド様だけじゃないよね。その表情は・・・。


 ずばりシーグリッドさん!貴女はレオンに恋をしているんだね!

 やったぁ!人間の新たな恋物語が見れる!これは俺が頑張らないと!ちゃんとレオンと会わせてあげるね!任せて。だって俺は一応最恐ドラゴンだから‼︎


「見習いさん達はどちらに行こうとしているの?」

 中庭と台所を繋ぐドアからメイド服の女性が現れた。そして次々と出てくる。

 このパターンも良く小説であるやつだ。どうしていつも一人か大勢かどっちかなんだろう。しかもいつも、親切ご丁寧に声をかけてくれる。声をかけなきゃ後ろから、襲えるのに。しかもこの敵のパターンだと・・。


「これ絶対にバレてるよ〜」

 と嘆いたらシーグリッドさんにまたもや睨まれた。

 仕方ないから軽く靴を鳴らして、ナイフを握るシーグリッドさんの前に立つ。

「ファフニール?」

 シーグリッドさんの言葉には答えずに、メイドさん達を感知する。


 俺は全員の脳に軽く刺激をおくる。そうするとメイド服のお姉さん達が一斉に崩れ落ちる。メイドのお姉さんの1人を覗き込む。よしよし、無事みたいだ。


「なに・・・したの?」

「気絶させました。メイドさん達の脳に軽く刺激を送ったんです。大丈夫ですよ。みんな無事です!」

「そうね・・・・」

 複雑そうな表情のシーグリッドさん。

 どうしてかな?平和的だと思うけど。


「アストリッド様の気配が上からしますけど、行きますか?」


 頷くシーグリッドさんをお姫様抱っこする。シーグリッドさんは飛べないらしい。お妃様も飛べなかった。だから2人はドラゴンの姿の俺の背に乗ってここまで来た。お妃様は始終ご機嫌だった。初めて人を乗せて飛んだ俺もご機嫌になった。



 そのまま飛んで、建物をぐるっと周り、アストリッド様がいる廊下の窓ガラスと壁を、息をふっとかけて吹き飛ばす。力加減が大事だ。あまり強いと、邸宅が吹き飛ぶ。

 ヨイショと入ったら、男の人達に囲まれているレオンとアストリッド様が見えた。

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