第21話 最恐ドラゴンは救出作戦計画中

 騙されて行った『試練の洞窟』から帰って来た俺は何度か逃げ出そうとしたが、その度にお妃様、つまりアストリッド様のお母さんに捕まった。


 それでもなんとか6度目の逃亡で国境付近まで行けた。こうなったら戦って逃げようと思った。俺には『絶対攻撃防御』がある。『剣豪』が職業のお妃様には勝てると思ったから。


 だけどあっさり負けた。


 お妃様曰く、『絶対攻撃防御』を上回る攻撃をすれば問題ないと言われた。アストリッド様に続き、お妃様にも尻尾を切られ半べその俺にお妃様が最終勧告をした。


「ファフニール。私達家族はお前を気に入っている。だからこそお前を『試練の洞窟』に送ったんだ。あそこは我が王家に嫁いで来る者が受ける最終試練の場所。あそこから指輪を取って来た者は、我が王家の伴侶になる事が決定する。もうお前は逃げられないんだよ」


 その言葉を受け、俺は反論した。

「でも、俺はドラゴンです!人間じゃないんです!」

「そこは安心しろ。次男のヨウシアがドラゴンを人間にする薬を開発中だ。もちろん弱くなっては困るから、現状の力のまま人間にするつもりだ」


 意味が分からないと思いながらも俺は頑張って意見を出した。

「でも、アストリッド様が俺を嫌になってる可能性もありますよ!あの時は、ほら!ピンチの時に俺が助けたから、『吊り橋効果』で惚れたって可能性も!」


「娘には私が選んだ相手と結婚させる。アストリッドがお前を好きであろうが嫌いであろうが関係ない。お前が婿になる事は決定事項だ。つまりお前の選択肢は二つ。死か結婚かどちらかだ」


 以上、回想終わり!2日前の出来事です!


 刀を持って冷笑するお妃様は、アストリッド様以上に怖く、死にたくない俺は結婚を承諾した。以降は逃げずに城の中にいる。

 哀しくて恋愛小説も読めない。



◇◇◇



 そして今、俺はアストリッド様救出作戦の一員として会議室で計画を練っている。参加者は王様、お妃様、シーグリッドさん。

 俺の前に王様が座り、俺が座る長椅子の両側にお妃様とシーグリッドさんがいる。会議室に窓はない。そう言えば俺の部屋にも窓がない事に気付く。


 軟禁されている?え?違うよね?


 テーブルの上にある聖都タハティクヴィオの地図を指差しながら、シーグリッドさんが俺を見る。

「やっぱりここはファフニールが聖都タハティクヴィオを襲撃して、都市の半分でも焼いちゃえば良いと思うわ。その混乱の隙に姉様を助け出せば良いと思うの」

 シーグリッドさんの意味不明な作戦に俺の目はパチパチと音を立てる。


「それはありだな」

 王様の許可は下りた。

「妥当だな」

 お妃様の許可も下りた。

「じゃあ、決まりね。ファフニール、この作戦で・・・

「いや!意味が分からないですよ!無関係な人達を巻き込んじゃダメでしょう!」


 シーグリッドさんの言葉を遮って俺は叫んだ!3人はキョトンとした顔をしている。

 やっぱり常識が通じないと思った。


 俺の左側にいるシーグリッドさんが俺を覗き込む。その表情は困惑だ。

「ファフニール、あなたは最恐ドラゴンよね?人々がもっとも恐れているドラゴンよね?討伐に来た人間も倒したんでしょう?」


「俺を討伐に来た人は、俺だって死にたくないし、向こうだって死ぬ覚悟を持って来てると思ったので、確かに倒しました。でも普通の人はダメです。俺は戦争反対派です!権力者の欲望で一般市民を巻き込むのは違います!そんな作戦には参加できません!」


 俺の右側にいるお妃様がその長い髪を触りながら、俺を横目で見る。

「ふむ。言う事はもっともだ。なぜ、最恐ドラゴンに正論を説かれているのだろうと思うが、至極真っ当な意見だ。先に人質を取って喧嘩を売ったのはあちらだが、こちらが真似をする事もなかろう。シーグリッド。聖女エヴェリーナが邸宅を離れる事はないのか?」


 お妃様が納得してくれた!無茶苦茶な人だけど一応、人の心は持っていたみたいだ!


「週中で大聖堂に祈りを捧げに外出するわ」

「では、そこで聖女を襲撃しよう。その間にアストリッドを助ければ良い」

「あ!じゃあ俺が聖女エヴェリーナを襲撃します!」

 チャンスだ!俺は咄嗟に手を挙げた。


「ファフニールは姉様を助けに行った方が良いんじゃない?」

「いやいや。だって聖女エヴェリーナは『強制魅了』を持ってるんですよね?それに対抗できるのは俺だけです。だから俺が行きます!その間に、皆さんでアストリッド様を助けてください。お願いします!」

「ファフニールが姉様にかけた防御の術を私達にも掛ければ良いんじゃない?それに・・・

「その術をかけた覚えが俺にはないんです!だから無理です」

 俺はシーグリットさんの言葉に被せて主張する。これ以上は危険だ!俺の勘が囁いている。


 そう、アストリッド様の様子を見に行ったシーグリッドさんから、アストリッド様を守っている俺の術の事を聞いた。でも全くそんな術を掛けた覚えがない!アストリッド様はその術に感動していたと聞いた。更に深みにハマった気配がした。

 だから俺は必死で訴える。目的を叶えるために!夢を叶えるために‼︎


「ファフニール。お前は顔に出やすい。それをそろそろ自覚すべきだ。」

 お妃様の目が鋭く光る。俺の目は恐怖で泳ぐ。

「何を企んでいる?言ってみろ」


「た・企んでなんか、な、ないですよ?アストリッド様を助けようと・・・」

「分かりやすいと言ったと思ったが?」

 部屋の温度が下がった気がする。

 心なしか空気も重い。息苦しい。


「当ててあげましょうか?ファフニール」

「な・な・なんの事ですか?シシ・シーグリッドさん?」

「シーグリッド。言ってみろ」

 お妃様が冷笑する。それを受けてシーグリッドさんも笑う。よく似た母娘に挟まれて、俺の心臓は飛び出そうなほど、ドキドキする。

目の前に座る王様の目は・・・俺を殺そうとしている目だ!


「ファフニールはね。『強奪』と言う便利なスキルを持っているの。これは倒した相手から2つスキルを奪えるの」

「それは、それは、実に便利なスキルだ。羨ましいぞ。ファフニール」

 バレた!と思った。そう言えばシーグリッドさんは『絶対鑑定』を持っているんだった!俺の手の内が全部バレてるんだ!


 二人が徐々に俺に近づいてくる。もう肩がくっついている。俺は段々小さくなっていく。


「そして聖女エヴェリーナには、『記憶操作』と言うスキルがあるの」

「ほう。ファフニールはそれが欲しいのかな?」

 お妃様が俺の頬を指でぐりぐりする。

 この母娘怖い。そして目論見が全部バレたらしい。


「私達の推測、間違っているかしら?」

 反対側の頬もシーグリッドさんがぐりぐりし始めた。俺のほっぺは穴が開くんじゃないだろうか・・・。


 俺は左右に目配せする。そうしたらぐりぐり攻撃は収まった。

 だから俺は誠心誠意、謝る事にした。

「『記憶操作』で結婚を無しにしようと思ってました。ごめんなさい」

「まだそんな事を考えていたのか?呆れるな。結婚は契約だ。ましてやお前はアストリッドと同衾もし、口付けまで交わしている。無理だとは言えないはずだと、言っただろう。それともそんなに死にたいのか?」

 お妃様が刀に手を掛ける。俺は慌てて、立ちあがろうとしたが、シーグリッドさんに肩を押さえつけられ、阻止された。

 涙で潤んだ目でシーグリッドさんを見る。シーグリッドはウィンクした。


「母様、ファフニールは貴族じゃないし、ましてやドラゴンだわ。私達のことわりを当て嵌めるのはかわいそうよ。少しはこちらも譲歩すべきじゃないかしら?」

「シーグリッドさん‼︎」

 俺はシーグリッドさんの意見に歓喜した!まさかここで味方を得るなんて思っていなかった!もういっそ死んだ方が楽かと思っていたのに‼︎


 そして俺の意見は全く聞いてくれないお妃様も親ではあったらしい。シーグリッドさんの意見にため息こそ落としたが、ちゃんと向き合ってくれた。

「どうしろと?」

「そうね。今のままだと、姉様を救出したら、すぐ結婚式の予定だったでしょう?それをやめて婚約期間を設けたら?んーー半年間とか?」

「そうなの⁉︎即、結婚だったの⁉︎」

「儂の娘とキスまでしたんだ?当然だろう?」

「したって言うか、された・・・・

 王様の言葉に反撃しようと思ったけどやめた。だって殺気がすごい。俺のスキル『絶対魔法防御』を超えそうな魔法で殺されそう。


「ね?それは嫌でしょう?だから半年間はデートとかして愛を育んだら?」

「・・・婚約?」

 俺は上目遣いでシーグリッドさんを見る。シーグリッドさんは笑顔で頷いてくれた。


「まぁ、良いだろう。まだドラゴンを人間にする薬もできてない。今、結婚か半年間後に結婚か、それだけの違いだ」

 お妃様も納得してくれた。


 何も変わってない気がする、けどそれを言うと殺されそうだ。


 シーグリッドさんがそっと耳打ちしてくれた。

「最恐ドラゴンで料理上手な存在を我が家が逃すわけないでしょう?半年の間に、決心を固めなさい・・・」


 そう言えば、みんながサンドウィッチを食べた後に、『試練の洞窟』行きを進めてくれた事を思い出す。

 

 仕方ないので、次は時間を巻き戻す魔法を開発しよう。俺はそっと決意した。

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