第17話 最恐ドラゴンは旅に出る

 アストリッド様は聖女エヴェリーナに連れて行かれた。連れて行かれた場所は多分、聖都タハティクヴィオ。


 そして俺は空を飛んで聖都タハティクヴィオと反対方向に向かっている。向かう先はクルクリ。アストリッド様の故郷。


 アストリッド様が俺と握手をした時、手に文字を書かれた。クルクリへ行けと。併せて指輪をもらった。たぶん、アストリッド様の身分証明の指輪なんだろう。


 クルクリに住む人は戦闘民族と言われている。更に国民一人一人がドラゴンと渡り合えるとも。魔物が寄り付かない国。

 俺だって出来れば行きたくない。

 でも頼まれたからには行くしかない。

 

 ドラゴンの姿だと警戒されると思ったから、人の姿で空を飛ぶ。クルクリの国境を越えた所で寒気が走った。気候が変わったわけじゃない。空気が変わった。体にまとわりつく様な殺気を感じる。


 なんで?俺は今、人間の姿だし、俺のステータス情報も人間で出てるはずなのに・・・。


 怖くなって、一旦地面に降りる。一面広がる原っぱ。それを囲む様に森がある。戦うのに適している場所に見える。森の奥から人の気配を感じる。


 どうしよう・・・。怖い。


「最恐ドラゴン、ファフニール。レベルは5周目の72。職業がある魔物を初めて見たわ。大神官だなんて、面白いわね」

 森から女性の声が聞こえる。そしてその声の主がゆっくりと出てきた。


 青みがかった黒い髪は大きくウェーブしている。鋭い目付きの瞳の色は、空の様な水色。黒い毛皮の下に短いスカートを履いている。暑くないのかな?気をつけないとパンツ見えちゃうよ?


 それにしても俺の正確なステータス情報言われた。女性のステータス情報は見える。俺よりレベルは低い。ただスキルに『絶対鑑定』がある。ずるい。ダミー情報もレベルも無視か。


「アストリッド様の妹さんですよね?シーグリッドさん?」

「姉様のお友達かしら?それとも指輪はお持ちかしら?」

「お友達と言うか、従者です。指輪はこれです」

 俺は指輪を見せる。


「確かに少し前の新聞に従者って載っていたわね。昨日読んだ新聞には、姉様はファフニールを使って、魔王や悪魔を倒してたって載ってたわ。自分の手柄として捏造していたって。姉様があの程度の敵にやられる訳がないのにね?」

「アストリッド様と話し方が違うんですね?」

「姉様と違って、私は諜報活動をしているから。私の職業を見たんでしょう?」


 俺は頷く。アストリッド様の妹シーグリッドさんの職業は『スパイ』。上級職だ。


「姉様を助けに来たのね?着いてきて。城へ案内するわ」

 

 そう言うとすっごい速さで走って行った。アストリッド様より速くない?俺は慌てて追いかけた。



◇◇◇◇◇◇



 シーグリッドさんに案内された城は、城と言うより要塞の様だった。灰色の石造りの無機質な建物。質実剛健と言えば聞こえが良いが、王族の城と言うには、豪華さがない。


 足音が響く廊下を歩く。俺の前には高くて細いヒールを響かせながら歩くシーグリッドさん。さすが、お姫様。すれ違う人が端に避けて、お辞儀をする。


 鑑定するのが嫌になるほど、すれ違う兵士も、メイドも、子供ですら、強い。

 今、お辞儀をして通り過ぎた腰の曲がったおばあちゃんはレベルが3周目の66だ。職業が『聖騎士』。騎士の最上級職。あんな優しそうなおばあちゃんなのに怖い。


 アストリッド様はレベルをカンストして、そのままにしていた。どうして更に上に登らないか聞いたら、強くなりすぎると、戦うのに面白くないからと言っていた。でも、この国にいたら、飽きない気がする。だってみんな激強だから。


 全身を鎧に包んだ騎士が両側に立つ扉の前に案内される。鎧の騎士を鑑定すると、修行のために鎧を着ている。重量200kgと表示された。変態の国だと思った。


 扉が開き、シーグリッドさんに続いて入る。玉座に座る二人が見えた。


 向かって左側に座る東洋の着物を着たお妃様。アストリッド様の母親。職業は剣士の最上級職『剣豪』レベルは3周目の65。

 青みがかった黒い髪と、春の空の様な水色の目。鋭い眼光。人を食った様な笑み。アストリッド様が年を取ったら、こんな顔になるのかと思った。


 その横に座る魔法使いの格好の王様。アストリッド様の父親。職業『上級魔術師』レベルは3週目の22。

 灰色がかった水色の髪。薄い茶色の目に優しさはない。魔術師にしては、随分と筋肉隆々だ。武闘家とかじゃないの?

 

 ステータスを見る限りとても強い。勝てる自信がない。


「父様、母様。姉様の彼氏を連れて来たわよ」

 シーグリッドさんの言葉にギョッとする。


「ち、違います!彼氏じゃないです。従者です!下僕です!」

「あら?だってその指輪って求婚相手に渡す物よ。あの姉様が、自分で相手を選ぶなんて驚きだわ」

「待ってください!俺はドラゴンですよ!そもそも種族が違うでしょ!」


「それのどこがダメなんだ?」

 王様が不思議そうに言う。


「そうだな。ダメな理由にはならない」

 お妃様も言う。


「ほら、問題ないわ」

 シーグリッドさんですら言う。


 無茶苦茶!アストリッド様の家族はみんな無茶苦茶!


「だってだって、寿命も違うし、俺は150歳だしまだまだ生きるし、そもそも、人と魔物が結婚とか聞いた事ないし!」

 そもそも好きじゃないし、とかアストリッド様は怖いしとか言う理由は言わないでおこう。なんかこの人達の逆鱗に触れそうだ。


「じゃあ、どっちかがどっちかになれば良いんじゃないか?ファフニールだったな?お前が人になれば良いんだ。私は強い奴は大歓迎だ。リヴァイアサンを倒した男とぜひ戦ってみたい」

「えー!母様、ずるいわ!私だって戦ってみたいわ」

「儂も戦いたいぞ!」

 

 誰が俺と戦うかでじゃんけんを始めた。意味が分からない!クルクリ王族はどうなってんの?


「待ってください!だって政略結婚があるってアストリッド様が言ってましたよ。相手は親が選ぶって」

「ああ、それは良い相手が見つからなかったら、最終的に誰かと結婚してもらうつもりだったから、そう言ったんだ。自分で見つけてきたならそれが良いに決まってる。親の意向に逆らってまで、惚れ込んだ男なら最高ではないか!我が娘ながら喜ばしい!」

 お妃様が誇らしげに、大声で笑う。

 それに合わせて、王様とシーグリッドさんも笑った。

 俺は乾いた笑いをしながら、ゆっくりと後ずさる。アストリッド様の家族にはついていけない。


 1歩、2歩と下がった所で、扉がバンと音を立てて、飛んでいく。そして床に凄まじい衝撃音を立てて落ちる。

 俺は耳に手を当て、慌てて縮こまる。そっと片目を開けて扉を見ると、男の人が二人入って来た。


「ファフニールが来たと聞いたぞ!」

 大声の主を見ると、武闘家の格好をしたマッチョと目があった。

 

 エンシオ。アストリッドの兄。

 職業『武闘家』レベル2周目の45。

 王様であるお父さんとそっくりだ!ただ、こちらの方がマッチョ!激マッチョ‼︎


「兄様は、また扉を壊したね」

 ため息混じりで話しながら入ってきた男の人は、白衣を着てメガネをかけた、すっとした感じだ。


 ヨウシア。アストリッドの兄。

 職業『研究者』レベル2周目の23。

 細くなったお父さんだ!と思った。その位似てる。ただ、目も窪んで、頬もこけてる。痩せすぎじゃない?


「このヒョロイのがファフニール?リヴァイアサンを倒したってのは本当か?」

 エンシオさんが挨拶もなしに、俺の肩にもたれかかりながら絡んでくる。フレンドリー過ぎて怖い。


 そう言えば王様達とも誰とも挨拶してない。ここの王族はどうなっているんだろう。


「アストリッドの彼氏かぁ。とりあえず、私と勝負してくれるかな?」

 ヨウシアの言葉に、俺はギョッとする。

 そしてアストリッド様の家族は自分が戦うと反発する。

 

 どうして我先に戦おうとするのだろう。

 そしてどうして、俺をアストリッド様の彼氏扱いするのだろう。

 と言うかそもそもなんでアストリッド様も、指輪の事を言ってくれなかったの⁉︎

 

 半ベソをかく俺に気付く事なく、俺の後ろではジャンケン大会が始まった。

 勝者が誰だろうと、全力で逃げる決意をそっとした。

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