第16話 最強賢者、捕縛される

 助けてくれたファニーに、心がときめいた。しかも私の代わりに、戦ってくれた。魔物なのに、人類の敵と戦ってくれた。

 この状況で惚れない人間がいるだろうか?否、いないはずだ!

 元々良いやつだと思っていたんだ。小竜の姿では同衾もした。料理も美味いし、家事は完璧。着付けも化粧もできる。しかも強い!夫としては最適ではないか!


 良い夫を見つけたと思い、幸せ気分でトイヴォ王国の港に戻る。だが、トイヴォ王国で待っていたのは、武器を持った兵士達とレオンだった。


「アストリッドさん、裏切りましたね?」

 意味の分からない事を言うレオンを睨む。周りの人間は完全にレオンの味方の様だ。スキル『カリスマ』の力か。私は舌打ちをする。


「裏切る?なんの事だ?リヴァイアサンは倒したが?」

 だが負ける気はしない。私は、私達は頼まれた事をやり遂げたのだ。


「ファニーさんは、最恐ドラゴン、ファフニールですね?倒したふりをして、レイヴォネン王国から金を受け取っていた・・・。そうなると東の魔王と西の悪魔も本当に倒したのか、怪しいものです」

「ファニーに関しては、確かに殺さなかった。それについては謝罪しよう。金も返しても良い。だが、魔王と悪魔は本当に倒した。見に行って来れば良い。あそこの海で焼け焦げているリヴァイアサンも見て来い。あれはファニーが、最恐ドラゴン、ファフニールが倒したんだ。お前達は感謝こそすれ、糾弾すべきではないはずだ!」


 私の後ろにいるファニーの手を握る。私は別にこの世界に固執しない。いざとなったら二人で誰もいない土地に逃げても良い。自国に帰っても良い。両親がどう反応するか分からないが、どうとでもなるだろう。

 ファニーがいれば、どこでも生きていける!


「まぁ、随分と惚れ込んでいるのね?ファフニールに洗脳でもされているのかしら?かわいそうなアストリッド・・・」


 兵士達の後ろから、これ見よがしに出てくる金の神の女を睨む。もしかしたら黒幕はこいつかも知れないと思っていた。


「聖女エヴェリーナ。何をしに来た?その勇者を迎えに来たのか?その激弱勇者なら早く連れて帰ってくれ。邪魔だ」

「あら?レオンの事が好きで仕方なくて、おしゃれをしてた貴女にそんな事を言われるなんて、可哀想なレオン」


 蛇の様に執念深い目で、レオンの体をまさぐるエヴェリーナに吐き気がする。これで聖女とは!

 そして、あの黒歴史を見られていたとは!


「そんな!だってレオンはエヴェリーナに呪われてたじゃないですか?俺は呪いの言葉も聞きましたよ!」

「そうよ。あなたが私の呪いを解いたのよ、ファフニール。さすがは最恐ドラゴンね。本当はアストリッドに興味を持ってもらうつもりで、レオンに呪いをかけて送り込んだのに、アストリッドったら気付いてくれないんだもの。信仰心が0だなんて笑っちゃたわ。さすがだわ」

「つまり、レイヴォネン王国でのパーティーから計画していたと言うことか」


 私の言葉を受けて、エヴェリーナは笑う。


「だって貴女が恋愛に興味があるなんて言い出すんだもの。それは邪魔しなきゃいけないでしょう?レオンの魅了の力を貴女専用に改造して、更に深く惚れる様に、レオンに不幸な要素を盛り込んだのよ。思う通りに動いてくれる貴女はとてもかわいかったわ」


 エヴェリーナはクスクス笑いながらもレオンの体は離さない。嫌悪感しかしない。レオンもどこを見ているのか分からない。エヴェリーナに完全に洗脳されている。


「私がせっかく精勤込めて作った呪いも解いて、レオンの魅了も解いたのがファフニール。貴方よ?本当にムカつくわ。でも良いわ。そろそろ新しい奴隷が欲しかったの。最恐ドラゴンなんて最高の奴隷よね?」

「え・・遠慮します。俺はドラゴンなんで、種族が違います」

「そうだ!それにファニーは私のものだ!」

「え?・・・」

 疑問文なファニーの目を一旦見る。

 目が泳いでる?きっと照れだな!


「大丈夫よ。二人一緒だから」

「相変わらずの色魔め!」

 エヴェリーナは好みの顔の人間を男女問わず集めている。結婚していようが、王族であろうが、神職であろうが関係ない。


 エヴェリーナの合図と共に、トイヴォ王国の兵士が動き出す。厄介なのはレオンの『カリスマ』だ。レオンを倒せば良いはずだ。もしくは逃げるか・・・。


「逃げたらトイヴォ王国民を殺すわ」

「私には関わり合いのない人間だ!知るか!」

「ダメです!アストリッド様!無関係な人を巻き込んじゃダメです!」

「・・・・なぜ、お前がそっち側人間の味方に行くんだ!」

 ファニーの相変わらずお人好しが発動する。だけど、前と違って私もそれを無視できないのは事実だ。本当は無関係な人を巻き込んではエヴェリーナと一緒になると分かっている。


「あらあら、ファフニールの方が良識的ね」


 前から迫るトイヴォ王国の兵士。ワタワタしている後ろのファニー。戦っても逃げても、被害に合うのはトイヴォ王国民だ。エヴェリーナは興味がない人間には容赦ない。簡単に殺すだろう。だが周りは分かっていてもその責任を追求しない。エヴェリーナが世界唯一の聖女だから。


 深く深呼吸をする。

 ここで二人が捕まっても仕方ない。


「エヴェリーナ!お前が欲しいのは私だけだろう!私が捕まるから、ファニーは逃して欲しい。最恐などと言われているが、気の弱いドラゴンだ。今ので分かっただろう!」

「アストリッド様⁉︎」

 繋いでいた手を離し、ファニーを改めて見る。そして笑ってみせた。


「あらあら、涙ぐましいのね。良いわよ。人間の姿は良かったけど、やっぱりドラゴンの姿は好きじゃなかったもの」


 エヴェリーナらしいと思った。所詮、この程度の女だ。


「ファニー、今までありがとう」

 ファニーの手を取り、その手に自分の手を重ねる。もう一度、唇を交わそうかとも思ったがそれは止めた。


「アストリッド様・・・」

 

 その声を名残惜しく思いながら、振り向いてエヴェリーナの元へ歩く。

 あとは全てファニーに任せた。

 私が大人しくしていると思ったら大間違いだと、笑ってみせた。



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