第15話 最恐ドラゴン vs リヴァイアサン

 結界を張り、合図をアストリッド様へ送る。

 ついでにリヴァイアサンを『鑑定』する。


 レベルは俺より低いらしい。お陰で鑑定できた。

 レアスキルを持っている。

 『絶対攻撃防御』

 『絶対魔法防御』

 『自動再生』


 羨ましい。無敵じゃないかと思った。でもアストリッド様が勝つのだろうと思った。


 魔法も攻撃も効かず、どうするのかと思っていたら、背鰭を切り落として魔法を当てた。

 あれで人間って理不尽だよなぁ。と呑気に見ていたら、アストリッド様の放った渾身の魔法は『絶対魔法防御』に阻まれた。

 

 それでもなんとかするのだろうと思っていたら、殺されそうになってるアストリッド様が見えた。


 咄嗟に体が動いた。

 俺は馬鹿だと思う。



◇◇◇




 アストリッド様に回復魔法をかける。リヴァイアサンが放つ水の槍と氷の槍は灼熱の炎を持って相殺する。

 俺が炎系のドラゴンだと相手も分かっているのだろう。互いが互いに相性が悪い。あちらも様子見をしている様だ。


「・・・ファ、ファニー!」

「アストリッド様!良かった。ご無事ですね!」

 無事であるはずがない。肋骨は折れて内臓に刺さっていた。手足の骨も折れていた。

 自身が持つ自動回復でも追いつけない状態だったのだから大丈夫なはずがない。

 でも間に合った。本当に良かった。


「魔力はまだ残ってますね。ここからはご自身で回復してください」

 俺の背に縋り付く様にまわしていた腕そっと外す。まだ浮く力が残っている様だ。安心した。


「ファニーは、ど、どこに?何を⁉︎」

 喉に血が詰まっているのか声を出すのも、つらそうだ。一緒に来て良かった。そう思えた。


「やつは 『絶対攻撃防御』と『絶対魔法防御』と『自動再生』を持ってます。魔法と武器で戦うアストリッド様とは相性が悪い。俺が行きます!」

「あいつは!リヴァイアサンは水と氷が得意だ!しかもここは海の上だ!お前だって相性が悪いはずだ‼︎」

「でもアストリッド様より勝機はあります。俺の方がレベルも高いですし。ここで見守っていて下さい」


 笑って見せる俺を、アストリッド様が強く抱きしめる。その目に頬に、光る何かが見えた。

 強い人だと思っていたけど、やっぱり人間なんだと思った。


「すまない。頼む!」

「は・・・

 その時、俺の口に何かが当たった・・。

 

 良く分からないまま、アストリッド様に背を向ける。


 目をまたたきながら、身体中に魔力を行き渡せる。


 今・・・キスされた?


 いや?きっと気のせいだ!きっと頭突きだ!気合いの頭突きに決まってる‼︎


 身体をぶるん振ると、本来の姿。灼熱色のドラゴンに変わる。リヴァイアサンよりは小さいけど、それでもこの海を圧倒するくらいには大きい。


「最恐ドラゴン、ファフニールか?」

 リヴァイアサンの声が聞こえる。俺は魔物だから、その言葉も分かる。


「そうだよ。海の王者リヴァイアサン。暴れないって約束するなら許してあげるけど?」

「人間の女にうつつを抜かす様なやつにわれが負ける訳がない。お前こそ、そこの女と逃げたらどうだ?今なら許してやるぞ?」


 リヴァイアサンの言葉に声を失う。今、なんか不吉な言葉が聞こえた。


「恋人なんだろう?人間の女と付き合うなど、魔物の風上にもおけないやつだ」


 コイビト・・・。コイビトってなんだろう?濃い人?鯉人?恋人・・・。恋人。


「俺とアストリッド様って恋人同士に見える?」

 頭を傾けて改めて聞く。だって信じられない。


 俺の質問にリヴァイアサンは、その透明な瞳を半眼した。

「さっき、ちゅーしてたではないか。封印から解かれたばかりの我の前で見せつけおって!やっぱり殺してやる‼︎羨ましくなんかないぞ!ばーか!」


 ショックのあまり子供の様なリヴァイアサンの挑発も耳に入らない。


 やっぱりファーストキスを奪われたんだ!150年間、初恋の人に捧げる為に守って来たのに!人間に、しかもアストリッド様に奪われた!責任とって結婚しなきゃいけなくなる!最悪だ‼︎しかもなんでこんな時に⁉︎これから戦いに行く時になぜ⁉︎

 あ!でも小説とかで良くこのパターン見るよ!激励のちゅーだ!きっとそうだ!でも何であろうとキスした事実は消えないー‼︎


 大混乱中だけど、ふと思いついた。


 アストリッド様は今なら弱っている。小突けば記憶を失うかも知れない。俺は記憶を封印しよう。なかった事にすれば良い。つまり、あとは・・・。


「なんだ!お前!なんて目で我を見てる⁉︎」

「死ね!」

 証人(竜)は消すに限る。

 

 『絶対攻撃防御』と『絶対魔法防御』ではあっても、俺が吐く炎のブレスは効くはずだ。試しに弱い炎のブレスを、リヴァイアサンの体に向かって吐く。叫び声と共に、魚が焼ける様な匂いがした。しかも炎が当たった鱗が上向きに反り返していく。


 鱗が残っているせいか『自動再生』が効かないらしい。完全に切断されないと再生が効かないと分かれば怖くない。


「貴様!魔物のくせに人に味方するとは!この裏切り者め!」

「何を言ってんだか、魔物に仲間意識なんてないないでしょう?」

 俺はブレスを吐き続ける。周囲には良い匂いが充満して来た。今日の夕飯は魚の塩焼きにしよう。


「貴様--------!!」


 ヤケクソとばかりにリヴァイアサンが海水を操り俺に攻撃を仕掛ける。だが、効かない。


「これ・・・は!」

「今頃気付いた?遅くない?」 


 俺は徐々に徐々に結界を縮めていた。気付かれない様にゆっくりと。海水を排出しながら。

 結界はもうリヴァイアサンと俺達を囲むサイズになっている。海水の排出は、ちょうど今終わった。


「ではこの攻撃を喰らえ!」

 リヴァイアサンが氷のブレスを吐く。

 じゃあ俺は灼熱のブレスだ!


 氷と炎のブレスは中央でぶつかり合う。

 全てを凍らせようとする力。

 全てを燃やし尽くそうとする力。


 最終的には力の強い方が勝つ。

 つまりはレベルの差。


 炎の出力を上げていく。俺が作った結界内の温度が上昇していく。炎もリヴァイアサンに近付いていく。


 俺はリヴァイアサンに向かって手を振る。


 バイバイ・・・。


 絶叫が聞こえ、炎の言う名の熱線がリヴァイアサンの全身を焼く。頭から尻尾の先まで、炙り、俺は炎を吐くのをやめた。残ったのは黒焦げのリヴァイアサンだ。もう声も出せない。出ない。

 結界を解いて、海にそっとリヴァイアサンを落とした。海水で冷やされて蒸気が上にのぼる。


 今日は魚の炙り焼きでも良いかも知れない。


「ファニー!」

 アストリッド様の声が聞こえ振り向いた。

 この人、怖っ!もう全身が回復してる。本当に人間なの?


「さすが私のファニーだ!」

 そう言いながら、アストリッド様は俺の腕をぶんぶんと上下に振る。


 今、私のって言った?

 そうだ!俺はアストリッド様の下僕だから、その言葉に間違いはない!俺は確かにアストリッド様の物です!


「さぁ!帰ろう!凱旋だ!」

 アストリッド様の声に頷き、一瞬悩んだけど、人に変わった。

 嬉しそうにぎゅーと抱きついてくるアストリッド様に戸惑う。


 とりあえず後で記憶を失う術をかけてみよう!俺はそう思いながら、トイヴォ王国を見た。


 トイヴォ王国の港には人が沢山集まっていた。 

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