第14話 最強賢者 vs リヴァイアサン

 波を生み出すその巨体に身震いがする。小さい島など踏み潰してしまいそうだ。

 青銀色の長い体から生える鱗は、人間の子供より大きい。背中には頭から尾まで繋がる黒銀の背鰭せびれ。頭の部分には長い髭と、太陽の光を反射して輝く透明な瞳。大きく裂けた口にはするどい歯が手前から3列並んでいる。

 その尾は二股に長く分かれている。尾が海面を打つたびに、巨大な波が生じる。暴れれば、都市を飲み込む津波の一つや二つ簡単にできてしまいそうだ。

 

 空を飛びながら、リヴァイアサンの身体を観察する。見れば見るほど強敵だと言う事が分かる。武者震いがするほどに・・・。


 上空に打ち上がった炎を見て、笑みが漏れる。ファニーの合図だ。どうやら結界が出来上がったらしい。


 私は杖を天に掲げた。



◇◇◇


 リヴァイアサンとの戦いに辺り、ファニーとレオンと作戦を練った。

 まずは飛べないレオンは戦闘不可とし却下した。率直に足手纏いだ。

 代わりにトイヴォ王国民を避難させる役をさせた。これにはレオンのスキル『カリスマ』と『魅了』が役に立った。


 ファニーは近隣都市に被害が出ないように、戦闘地帯一帯に結界を張ると言いだした。確かに海の戦いになると、津波の被害が出るかも知れない。それは率直に助かると思った。


 そして私はファニーの合図で攻撃する事になった。




◇◇◇



 まずは小手調として、雷撃を送る事にした。体全体に行き渡る様に稲妻の嵐を送り込む。大気全体を震わせる轟音が響き渡る!

 その熱で海が一瞬で高温になり、ボコボコと熱をもった泡が生じる。

 焼け焦げれば一瞬で終わりかと思ったが、リヴァイアサンは気にしていない様に優雅に泳いでいる。


「魔法が効かない?」

 いや、まだ分からないと思い、次に凍結の魔法を発動させる。そもそも的を外すのが不可能なほど大きい身体だ。体の内部まで完全に凍らせる勢いで魔法を放つ。

 

 波が凍り、海の奥底まで凍らせる。地面に変わった氷が隆起し、ぶつかり合い、氷の欠片が太陽の光を反射しキラキラと輝く。

 リヴァイアサンを凍らせ、その周囲一帯を凍らせたつもりだった。だが、その巨体が一うねりすると、氷は海水に戻り、ざぁざぁと音を立てながら、海底さえ見えそうなほどに深い渦巻きを作る。

 渦巻きの淵から、矢のよう早く、槍の様に長く鋭い水が次々と噴き上げられた!空を飛ぶ私に目がけて飛んでくるそれを回避し、時に剣を当て打ち消しながら、リヴァイアサンに近づく。

 魔法がダメなら攻撃だと思い、その体に髪に刺していた槍を大きくして突き刺す。だが鱗が滑って槍が刺さらない!そのまま体勢を崩し、海に落ちると、奴が作った渦巻きに巻き込まれた。


 溺れる‼︎


 自身の体の補助魔法と保護膜を上乗せし、渦に逆らおうともがく、が上手くいかない。

 だったらと渦に従い、下へ下へと降りて行く。ファニーが作る結界は立方体だと言っていた。つまり底があるはずだ!


 底に体を打ち付けられた!

 その痛みを我慢しながら、咄嗟に魔法を展開する。


 水の操作をお前がだけができると思うなよ!


 逆流させて、渦を上に打ち上げる。その威力に逆らわず、私は空へと飛び出す。自動回復魔法が発動し、私の身体を治癒する。


 相手は無傷だ。 


 笑みが漏れた。

 

 更に槍と化した突き刺さる様な水の魔法が飛んでくる。リヴァイアサンから一定の距離を取りつつ回避して行く。

 幸いな事にある程度の距離があれば、水の槍の威力は落ちた。ただただベタ付く海水を浴びながら作戦を練る。


 魔法は効かない様だ。

 攻撃は鱗が滑って無効化された。


 鱗が全てを弾いてる可能性もある。海竜とは言っているが、魚と一緒だとしたら?


 髪に差した武器を探る。槍でもなく、剣でもない。必要なのは力付くで、解体する事が出来る武器。


 巨大な斧を用意する。頭の上で振り回し、その勢いのまま、空を飛び、リヴァイアサンの尾に近づく。ワンパターンで飛んでくる水の槍を捌き、私の体を打ち付けようと上から襲ってきた尾を潜り抜け、その黒銀の背鰭せびれと背の間に斧を刺す。先ほどとは違い刺さった手応えを感じ、そのまま背鰭に沿って、尾から頭の方へと斧を動かす。


 痛みからうねるリヴァイアサン。

 背鰭と体は斧によって、分けられていく。

 私は時に海中に潜り、浮上し、を繰り返しながら、頭まで飛び、力付くで背鰭を切り落とす。

 リヴァイアサンから絶叫にも似た声が上がったと同時に、上空に待機させておいた雷撃を背鰭があった背中に打ち込む!

 更に絶叫が聞こえた‼︎


 そのまま空を飛び、斧をぶんと一回振り、その血を落とす。


 今のでかなりの魔力も、体力も削られた。

 このまま終われば良いのだが・・・。


 だがその願いは叶わなかった。


 リヴァイアサンの目が私を捕らえ、その大きな口を開き向かって来た。それを避けた所で、尾が見えた。そして再生する背鰭も!


 再生する背鰭に驚愕した私は反応が遅れた。

 尾に全身を打ちつけられ、更に海面に身体が打ち付けられる。その余りにもの強さに、肋骨が折れる。肺に刺さった肋骨のせいで、口から血を吐く。手に持っていた斧が、水中に沈む。

 海面が盛り上がり、鉄砲水となり、次は上空へ飛ばされる。血で霞んだ目で空を見る。上空に見えるのは、私を刺そうと落ちてくる鋭く尖った氷の柱!

 

 このまま貫かれて終わる!

 咄嗟に何も思い付かず目を瞑った。

 なんて短い、でも充実した人生だったのか・・・‼︎


 だが、耳に聞こえた声と粉々に砕ける氷の音に目を開く。太陽の光を浴び、散る氷が希望の光の様に思えた。そして私を呼ぶ声の主を、やっとで動く右腕で思い切り抱きしめる。


 肋骨が肺に刺さったせいで、声は出せない。出せない声で名前を呼ぶ。


 ファニー‼︎

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