第13話 最強賢者は魅了されない
復活した南の海竜リヴァイアサンの討伐に行く事になった。行くのはアストリッド様、レオン、俺。
できれば行きたくなかった。だって俺は赤龍。炎属性のドラゴンだ。海での戦いは相性が悪い。レオンと大人しく留守番をしていようと思ったのに、レオンがどうしても行くと言い張るから、巻き込まれて行く事になった。
海竜リヴァイアサンは、港を有するトイヴォ王国の沖に出現しているそうだ。まだ沖付近で暴れているだけで、トイヴォ王国に直接的な被害は出ていないらしい。だが船が出せず難儀しているらしい。
アストリッド様はトイヴォ王国には行った事がなく転移できないと言うので、一番近い都市に転移し、3人でゆっくり歩いている。
そう、ゆっくりと・・・・・。
◇◇◇
レオンがガーゴイルを切る。一刀両断だ。更に次々と魔物を切って行く。人間にしては、確かに強い。あくまで人間としては。
俺とアストリッド様は少し離れた場所から、戦うレオンを見てる。
「あれが勇者か・・・」
アストリッド様は呑気にあくびをしている。
「弱すぎて話にならんな。確かにお前が一発で倒したのも分かるな」
「そうでしょう?勇者ってあんなもんですよ。あれで魔王なんて倒せるわけがないじゃないですか?」
「レアスキルでも持っているのか?ファニーはまだ『鑑定』は使えないのか?」
「まだですね」
俺は神官から上級職の大神官へと進んだ。大神官になると、『鑑定』を覚える事があるらしい。あくまで可能性の問題だけど、アストリッド様は大丈夫だと言う。アストリッド様はなぜ覚えてないのか聞いたら、鑑定を覚えたら戦うのが楽しくないから、わざと覚えていないそうだ。未知数の敵を倒すのが楽しいらしい。やっぱり変態だ。戦闘狂だ。
「アストリッド様も『鑑定』対策でダミー情報を流してますよね?」
「ああ、賢者、LV56で出している」
「そうなんですね。俺は、神官LV62で情報出してるんですよ。もうちょっと下げた方が良いでしょうか?」
「まぁ、良いんじゃないか。そもそも『鑑定』対策でダミーを流せるのは私だけかと思っていた。ファニーは思ったより色々できるんだな」
「これでも150年生きてますしね。人間に化けて買い物に行ったり、ご飯食べたりもしてたので、バレない為の対策は必須でしたよね」
アストリッド様が声を上げて笑う。最近は色んな表情が見られる様になって来た。
その表情が真顔に変わる。アストリッド様は最近は本当に恋をしていたのかと思うくらいレオンに対し塩対応だ。だから俺も‘様’付けはなしにした。普通の人間に敬意なんて払えない。
「終わったみたいだな」
アストリッド様の言葉を受け、前を向く。ガーゴイル2匹、サーベルタイガー3匹。倒すのに結構かかった。アストリッド様だと一瞬。俺だって一瞬で倒せる。
でも普通の人はそうじゃない。アストリッド様は規格外と認識されているが良いが、俺は普通の人よりちょっと上だと思われているので、レオン様に合わせて歩き、合わせた戦い方をしている。
「ファニーさんの補助魔法はすごいですね!ガーゴイルを一刀両断できました」
「お役に立てて良かったです」
駆け寄って来たレオンに対し、俺はニッコリ笑う。
そう、実は俺は補助魔法をレオンにかけていた。実際に補助できる力の髪の毛の先っちょ位の力で。
お陰で魔法の制御が上手くなった。補助魔法を使えば、大神官としてのレベルも上がる。一石二鳥だと言うわけだ。
「アストリッドさん、僕の戦い振りはどうでしょうか?」
「まぁ良いんじゃないか・・・」
相変わらずアストリッド様は塩対応だが、それに構わずレオンはぐいぐい行く。やっぱりM体質なんだと思った。そう言えば、男達に絡まれていた時も無抵抗だった。
生粋か・・・。アストリッド様とある意味お似合いだったかも知れない。
そうやってのんびりと旅を続けて5日目。目的の地トイヴォ王国へ到着した。そして『鑑定』も覚えた。今は鑑定のレベルを上げるために色々と鑑定している。
アストリッド様曰く、神官から大神官へ上がるのも稀らしいが、鑑定を覚えるのはもっと稀らしい。ではなぜ大丈夫等と言ったのだろう。
だけどアストリッド様と一緒にいる様になってから、俺にはかなり変化が起きている。良い事だと言うのが、認めたくないが少し悔しい。
トイヴォ王国に入ったアストリッド様は1番高いホテルのスイートルームを借りた。当然の様に俺も一緒だ。こんな広い部屋に俺と二人切りで利用だなんて、贅沢だ!
最上階の大きな窓から見える景色は、太陽の光を照り返す美しい大海原。その先に見えたリヴァイアサンを無視すれば、感動的な景色に見える。
ふかふかの天蓋付きの大きなベッドには、なぜか花びらが散らされている。飾り付けで嫌がらせではないと思うけれど、邪魔だと思うので後で掃除しよう。
白地に色取り取りの刺繍がされているソファも、ベッドの代わりになりそうなくらい大きくてふかふかそうだ。
こんなに大きな家具があっても余裕があるくらい広い部屋!海を望むジャグジー!一緒に来て良かった‼︎
ちなみにレオンは自分でシングルの部屋を取っていた。ここに来るまでの間に、魔物を倒してお金は手に入れたから問題ないだろう。と言うか、そこそこ強いんだから、冒険者ギルドに登録すれば良かったのに、という事を遠回しにレオンに聞いたら、聖女エヴェリーナに見つかりたくなかったから登録しなかったと言っていた。商業ギルドだって同じな気がしたけど、深くは聞かなかった。
エヴェリーナの逆ハーレムは過酷だと聞く。何が過酷かは、ドラゴンの俺には分からない。
「それでやつは鑑定できたのか?」
豪華なソファに座るアストリッド様を、俺は見上げながら頷く。アストリッド様と二人でいる時は、俺の姿は常に小さいドラゴンの姿だ。
小さいドラゴンの姿はアストリッド様に異様に気に入られていて、なぜか常に抱っこされている。つまり今現在も抱っこされて膝の上にいる。直接ソファの感触を味わいたかった俺には残念に思えた。でも逆らうと怖いので、大人しく従っている。
寝るときも抱っこされている。たぶんぬいぐるみ代わりだ。だから役得とは思わない。抱き潰されないか不安で仕方ない。
「確かに勇者でしたよ。レベルは今は59です。さすが勇者ですよね。レアスキルの宝庫でした。『カリスマ』、『魔眼』、『慧眼』、『鑑定』もありましたね。俺達よりレベルが低いから、ダミー情報を読み取るのが精一杯でしょうけど。あとは『魅了』持ちでした」
「『魅了』と『カリスマ』持ちか。私がそれにやられていた可能性は?」
「アストリッド様の方がレベルが高いから、あり得ないですよ。それにアストリッド様が一目惚れした時は、レオンは呪われていましたし。しかしあれですね!よっぽど惚れていた事が信じられなんですね」
アストリッド様は地を這うかの様な深いため息をつき、自嘲気味に笑った。
「私の人生における最大の失敗だと思っている」
あの時のアストリッド様は、かわいかったのにとか言うと何をされるか分からないので、黙っておく。
「アストリッド様の『隠密』を見破ったのは、『魔眼』と『慧眼』の力でしょうね。『魔眼』と『慧眼』と『魅了』はレベルMAXです。気をつけてください」
「『魔眼』と『慧眼』持ちか。確かにレアだな。それで呪いをかけられたのも気付かなかったとは、レオンは相当間抜けだな」
「まぁ、召喚されてすぐ逃げたって言ってましたし、まだ力を使いこなせてなかったかも知れませんね。そうそう無意識かも知れませんが、『魅了』の力がアストリッド様に放たれてます。まぁ大丈夫でしょうけど」
「レオン相手だと私もお前も大丈夫だろう。私達の方がレベルが高い」
「そうですね。それに俺も『魅了』持ちなんで大丈夫です。魅了のレベルもMAXなんで」
俺を抱きしめていたアストリッド様の体が離れた。そして俺は抱き上げられた。アストリッド様と視線を交わす。
「お前『魅了』まで持っているのか?」
「150年生きてますし、色々持ってますよ」
「お前と私では、お前の方がレベルが高いんだよな?」
「そりゃ、150年生きてますから」
「では私に魅了をかけてくれ!レオンの時と同じか味わってみたい」
やっぱり変態だ!と思ったが言わずに頷いてみた。俺も持っていても使った事はない。アストリッド様は俺相手にデレるのだろうか?
「ドラゴンの姿と人間の姿だとどっちが良いですか?」
「ドラゴンの姿はずっと抱きしめていたいと思うほどかわいいと思ってるから、意味がなさそうだ。人間になってくれ」
そうだったんだ・・・。道理でベタベタ触ってくると思った。
人間になり、アストリッド様の正面に立つ。視線を交わすアストリッド様に、全力で魅了をかけた!アストリッド様はそれを受けて視線を落とした。俯いた。
どうなんだろう。
デレる?それともツン?ドキドキしてるの?
俺は気になってアストリッド様を覗き込む。すると、アストリッド様に襟首を掴まれそのまま座っていたふかふかのソファに、倒された。さすが、スイートルームのソファ。体が沈み込む様だ!
じゃない!ヤバい!俺ここで襲われちゃうの⁉︎と思ってそっとアストリッド様を見る。
口の端がピクピクしてる。目が笑ってる。つまり・・・。
「効いてないんです・・ね?」
「その様だな」
手を離されて、俺は起き上がった。
びっくりした。貴族はキス一つで結婚の責任を取らされると本に書いてあった。アストリッド様と結婚なんて嫌だ!
「と言う事は、やっぱりアストリッド様はレオン様に一目惚れしたって事ですね。魔法の効果とは別で」
「最悪だ」
本当に嫌そうだ。黒歴史と言うやつなのだろう。人間は色々大変だなぁと俺は思った。
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