第12話 最強賢者パーティーを組む

〜深海〜

 太陽の光さえ届かない深く暗い水底。独自の進化をとげ淡く光る魚達。


 その優しい光を激しい光が、凌駕する。


 激しい光を発する主は、輝く様な金の髪をしている。水圧も海の流れも彼女に害をなすことはできない。

 それらを当たり前の様に享受しながら、彼女は杖を片手に祈りを捧げる。


 燕尾服を着た若い男が跪き、その女性に声をかける。

「聖女エヴェリーナ様。勇者にかけた呪いが解けたと伺いました・・・」

「ええ、まさか解かれるとは思わなかったわ。アストリッドの側にいるファニーとは、何者なの?」

「鑑定の結果では、ただの人間です。職業は神官。レベルは62」

「ふぅん。良くそれで解けたものね・・・。偶然かしら?それとも信仰心が強いのかしら?」

「そこは、申し訳ありません。調査不足です」

「仕方ないわね。アストリッドの手の者だもの。普通ではないでしょう。でも中々かわいい顔してる子よね?コレクションに入れたいわ」

「承知致しました。全ては聖女エヴェリーナ様のお心のままに」


 男は消え、エヴェリーナは冷笑する。その笑みは聖女とは思えないほど、残酷だ。


「さて、あの子はうまくやってくれるかしら?」


 エヴェリーナが祈りを止めると、その前にいる物がゆっくりと動き始めた・・・。




◇◇◇◇◇◇◇

 


「おはようございます。アストリッド様」

 キッチンに立つファニーは今日も元気だ。昨日の小さいドラゴンの姿はとてもかわいかった。あれだったら一緒に寝ても良いと思っていたのに、いつの間にか寝てしまった。少し残念だ。


「おはようございます」

 レオンが起きてきて挨拶をする。

 見れば見るほど普通だ。どうしてこいつを好きだったのだろう。良く分からない。


「今日の朝ごはんはエッグベネディクトです」

 ファニーがニコニコしながら、テーブルに朝食を運んでくる。

 パンの上にカリカリのベーコンと半熟卵が載っている。おそらくソースもパンも、なんだったらベーコンだって手作りだ。

 相変わらず凝った料理だと思いながら、椅子に座る。併せてコーンスープにサラダが出てくる。食べ終わったら、コーヒーとフルーツが出てくるのだろう。

 ファニーが来てからと言うもの、ご飯が豪華になった。食事をとる行為に楽しみができた。それまでは、食べれれば良いと思っていたのに・・・。

 そう考えると、できればこれからも一緒にいて欲しい。


 とりあえず朝ごはんを食べたら、いけ好かない聖女エヴェリーナの所に行って、さっさとレオンを元いた世界に還してしまおう。その後にファニーとゆっくり冒険するのもアリかも知れない。お互いの恋の相手を探す旅もありだろう。

 そう思うとこれからの人生も楽しくなりそうな気がする。


 当たり前の様に私の向かいに座り、朝食を食べているレオンが話しかけて来た。

「アストリッドさん、ご飯の後にお出かけしませんか?」

「・・なぜ?」

 気分が良くなっていたのに、レオンの言葉で一気に盛り下がった。むしろ怒りが湧いてくる。私はなぜこいつ相手に、赤くなったり、おしゃれをしていたりしたのか!


 私達には食事を与え、自信はカウンターキッチンの先で片付けをしていたファニーが、手を伸ばして、指を指した。


「アストリッド様、外に飛びトカゲがいますよ?」

 ファニーの言葉を聞き、指差す先の窓を見る。

 赤い飛びトカゲ。冒険者ギルドが放つ緊急要請用の伝言を運ぶトカゲだ。どうやら緊急事態の様だ。


 窓を開けると、パタパタ飛びながら入って来た。手紙を受け取り読む。内容を理解し、笑みが漏れる。


「レオン、お前を還すのは後回しで良いか?」

「それは良いですが、なぜ?」

「南の海竜リヴァイアサンの封印が解かれたそうだ。討伐依頼が来た」

 

 海竜リヴァイアサン。海の王者。最恐ドラゴンより強いと聞いた。つまりファニーより強い。そうなると、恋とかどうでも良い。やはり強い相手と戦ってこそ、楽しい人生と言うものだ。

 

 呆れた顔をしたファニーと目が合う。とは言えど、こいつは一緒に来るだろう。レオンには適当に金でも渡して、ここで待たせておけば良いだろう。


「僕も、連れて行って下さい!」

「はぁ⁉︎」

 縋り付く様にレオンが私に懇願する。

 正直、うざったい。こいつ、私が自分を好きだったからって調子に乗ってないか?


「えーっと!どうしたんですか?レオン様は一刻も早く帰りたいんじゃないですか?」

 おっせかい焼きのファニーがキッチンから出てきて、間に入った。

 相変わらず気ばっかり使ってる。その内、胃に穴が開くんじゃないか?


「だって勇者として召喚されたのに、このままだと僕はここで何もしないまま終わってしまいます。せっかく勇者の力ももらったのに!」

「でも海竜リヴァイアサンは強いって聞きますし・・・。そもそもアストリッド様一人で行けば十分ですよ。ここで大人しくしておいた方が良いですよ。俺達が行っても足手纏いです」

「ファニーは来ないつもりか⁉︎」

「俺も行くんですか⁉︎」

「来ないつもりなのか⁉︎」

 まさか来ないとは思わなかった!絶対に一緒だと思った。どこまでもついて来てくれるのだと!


「ファニーさんが行くなら僕も連れて行って下さい!」

「いやいや!俺は行かないですよ!レオン様も一緒にここで俺と留守番をしましょうよ!」

「じゃあファニーさんは残れば良いじゃないですか?俺は勇者として、皆を助けたい。その為の力を得たんです!アストリッド様!連れて行って下さい!足手纏いにはなりません!」

「アストリッド様の強さは別格です!化け物です!リヴァイアサンだって、あっという間に倒しちゃいます。行くだけ無駄です!そもそも、あのイキイキした目を見てください。強い敵がいるほど燃えちゃう人なんですよ!変態なんです!戦闘狂なんです‼︎おかしい人なんですよ‼︎」

「ファニーさんは自分の恋人になんて事を言うんですか!」


 二人の会話にイライラする。特にファニーは私を悪く言い過ぎではないだろうか?

 

 それにしてもレオンはどうして一緒に行こうとするのか!そしてファニーはどうして行くと言ってくれないのか‼︎

 これを解決するには・・・。


「分かった!皆で行こう‼︎」

 

 喜ぶレオン。嫌そうな顔のファニー。

 こうしてパーティーメンバーが決まった。

 勇者と賢者と神官。組み合わせ的には悪くない。気分は微妙だが・・・。

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