第9話 最恐ドラゴン呪いを祓う
大変だった。もう二度と嫌だと思った。
いきなり見知らぬ地に連れて行かれた俺は、呪いを解くには神官としてのレベルを上げるしかないとアストリッド様に言われた。
俺は魔物ですよ?こんなでも最恐ドラゴン!人類の敵‼︎なのに神官っておかしくないですか!と散々抗議したが聞いてもらえなかった。
神の声を聞け!心を空っぽにしろ!隣人を愛せ!愛で世界を満たせ!悟りを開け!等々と意味の分からない事を散々言われ、食事を抜かれ、座禅をさせられ、池に落とされた。
そんな意味が分からない修行の結果、俺は悟りを開いた。逆らってもムダだと、世の中は
ある意味アストリッド様の思惑通りになったのは悔しいけど、これでレオン様の呪いが解ける様になったのは嬉しいと思った。
そして俺のステータス画面に何故か職業が追加された。『神官LV99』
魔物なのに職業、しかも神官の職を得てしまった。『上級職、大神官に進みますか?』と画面に出ている。とりあえず保留にしておこう。
そしてスキルも追加されている。
『聖なる力LV54』
魔物なのに、こんな力を持ってしまった。どうしたら良いのか・・・。
更に新しい称号が追加された。称号とは、生きている内に何かを得た場合にもらえるもの。例えば俺だと『最恐ドラゴン』がその一つだ。そこに『悟りを得た者』が追加された。
俺は何になったんだろう・・・・。
◇◇◇◇◇◇◇
そして修行を終えた俺はアストリッド様とレオン様の家に来た。
アストリッド様はレオン様に褒められた民族衣装を着て、髪型もハーフアップでご機嫌だ。
だが、レオン様を見たらアストリッド様はまたフリーズした。そして俺もフリーズした。
顔が赤く染まるアストリッド様。
顔が真っ青になる俺。
レオン様を見れなくて視線が泳ぐアストリッド様。
レオン様の背後の蠢く呪いが巨大すぎて、そこから視線が外せない俺。
レオン様に会えた喜びで目がウルウルするアストリッド様。
レオン様の呪いの恐怖で泣きそうになる俺。
レオン様に洋服を褒めて欲しくて、挙動不審なアストリッド様。
レオン様の呪いに威嚇されて、腰が抜けそうな俺!
って言うか!こわ!怖すぎる。レオン様の呪い。レオン様の背後全体を覆う様に、なんかうごめいてる!生き物の様な、違う様な良く分からない黒光りしている者達が、煙を吐きながら怨嗟の声を上げている。周囲に漂う煙は瘴気。しかも目も口もいっぱいあるから、更に気持ち悪い。
こんなに呪いって怖いの⁉︎聞いてないよ。そもそもなんでこんなに呪われてるの⁉︎何をしたらこんなに呪われるの‼︎と言うか、この町にも神官いるのに、なんで皆、気付かなかったの⁉︎
声も出せない俺達に、レオン様は戸惑いながら笑う。すると、呪いがしゃべった。
(笑うな・・。私以外に微笑むな・・・。貴方は私だけのもの。私のものにならないなら、死ね。そうすれば永遠に私のもの。愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル、愛してる、あいしてる、アイシテル)
地雷女だ〜!!怖いよ〜。なんでモブ顔なのに、地雷女に呪われてるの⁉︎アストリッド様と言い、変な女に好かれちゃう体質なの⁉︎
「あの、僕に何か用ですか?アストリッド様と従者のファニーさん?」
レオン様が俺を見ると、呪いも俺を見る。しかもすさまじい悪臭をさせながら、俺に近付いてくる。近寄るな、見るな、帰れと脅される。怖い・・・。
そしてやっぱり世の中は理不尽だと思う。
レオン様がアストリッド様を見ても、呪いはアストリッド様は脅さない。むしろ目が合うのを避けている。いっぱい目があるのに、全部の目が避けている。こんな気持ち悪い呪いでも、アストリッド様は怖いんだ。
だが勇気を出そう!俺はこの人の呪いを解くために、修行をしたんだ!そう決心したので、頑張って話しかけた!呪いに睨まれながら。
「あの、レオン様、あの、ヒャっ‼︎わわ!の、のの呪われてます、よ?」
いやぁぁぁぁ!!なんか、呪いが俺の顔になんか吐いた!俺の顔になんかぐちゃぐちゃしたものがついた〜‼︎汚い〜!臭い〜!
あ!でも浄化された!さすが俺!さすが神官LV99!
「呪われてる?僕が、ですか?」
俺はコクコクと何度も頷く。レオン様は不思議そうな顔をしている。そうだろう。誰だって自分が呪われているとは思わないはずだ。あれだけエンカウント率高く絡まれていて、気付かないのも大概だが。
「そうだったんですか・・・。教えて頂きありがとうございます。でも呪いを解けるのは高レベルの神官じゃないと無理ですよね?費用もかかると聞いています。恥ずかしい話、現在の僕は無職でして・・・。ここも出て行く予定でして・・・」
段々と声が尻すぼみになるレオン様。いつも笑顔で真っ直ぐ人の目を見ていた人が、自信なさげに、視線を下に向けている。
「俺が呪いを祓います。お金はいらないですよ。以前頂いたゼリーのお礼です」
「そんな!それでは割に合わないですよ!」
「ふ、二人分だから!問題ない!そ、それに、私は、っ・・・・」
アストリッド様が真っ赤な顔で頑張って会話に入ってきた!お陰で呪いがサッと避けた!さすが、アストリッド様!頑張って、アストリッド様!ここで勢いに任せて告白するのもアリです!俺的にはアリの展開です!
「・・私は金持ちだから、問題ない!金はいらない‼︎」
あー!!告白できずに、ついつい余計な事を言っちゃう展開きたー!それはそれでアリですよ。アストリッド様!さすが天然のツンデレ体質!素直になれない系女子ですね!このもどかしさも俺的にはアリです!
本当に本当に小説の神様ありがとうございます!萌え死にしそうな時間をありがとうございます‼︎
あ!俺の信仰心が増えた!2上がった!まさかのこれで信仰心が上がってたんだ!それは増えて行くはずだ!
「あ、ありがとうございます」
そしてレオン様は嬉しそうな、でも申し訳なさそうな複雑そうな顔。
ああ、そしてレオン様、あなたは自分がアストリッド様に惚れられてるとは、微塵も思っていない、鈍感系男子なんですね。
これは中々先が進まないやつですね。良いですよ。俺はその手のモヤモヤする恋愛小説も大好きです。この先の展開が楽しみです。
よし!やる気が出てきた!呪いを解くぞ!
「アストリッド様、俺が修行した所に転移できますか?あそこは清浄な空間なので、呪いを解くには最適です」
アストリッド様は頷き、俺の肩に手を置く。そしてレオン様に手を差し出した。
俺はその手に視線が釘付けになる。だって初めての握手。つまり手を繋ぐ行為。アストリッド様とレオン様の恋がここで発展しちゃうかも知れない。そう思うと凝視するしかない!
真っ赤になって下を向く、誰が見てもレオン様に惚れている事が分かるアストリッド様。
それに気付かず、すみませんと言いながら、そっと手を繋ぐ、鈍感すぎるレオン様。
手と手が触れ合う瞬間にビクってなるアストリッド様。
恋は発展しなかった。だが、至福です。他の誰でもない俺が昇天しそうなくらい幸せです。呪いもアストリッド様が怖くて萎縮しています。あぁ、生きていて良かった。
アストリッド様が転移する。そして修行の場所へと帰ってきた。今の俺は何でも出来る気がする。呪いも怖いけど怖くない。
レオン様には透き通る池に入ってもらう。水は少し冷たいけど、我慢してもらう。アストリッド様はハラハラしながら、俺の後ろで見守ってる。水が冷たいだろうとかブツブツ言ってる。俺を容赦なくこの池に落としていたアストリッド様が、随分とレオン様には優しい。
俺は岸で手を組み、祈る。
呪いを解くのに必要なのは、神に祈りを捧げ、呪うまでに陥った人間を許す心。許すってなんだろうとか思ってはダメ。
だから俺は広い心をもって接する。つまり悟りの心だ。傍若無人なアストリッド様に比べたら、誰でも許せる気がする。
呪いは奇声を上げ、浄化の力を拒否する様にのたうち回る。その動きで清浄な沼に波紋が生じる。レオン様を中心に沼が黒く染まって行く。
レオン様とアストリッド様はそこでやっと呪い様の存在が見えた様だ。
水面に映る醜悪な存在。黒光りする、うねうねした体と沢山の目と口。
恐怖の声を上げ、腰が抜けそうな勢いで震えるレオン様。
最低だな・・・と淡々とした感想しか言わないアストリッド様。あなたは怖いものないんですね。どうも鋼の心臓をお持ちの様ですね。
そんな二人を横目に俺は更に祈りを捧げる。天から池に清らかな光が刺す。全てを許す神の光。その光は暗鬱たる世界に灯る希望の光の様だ。
やった!成功した!浄化の光だ!
呪いが徐々に光に溶けて行く。光に当たった先から徐々に徐々に消えていき、そして全てが光に溶ける。
最後に残ったのは金の髪をした美しい女性・・・。
レオン様がその女性を驚いた顔で見て、呟いた。
「あなたは・・・」
その言葉を受け、その女性は笑い、そしてゆっくりと・・・・・消えた。
レオン様の表情には恐怖が見える。そしてそのまま倒れ込んだ。俺は慌てて沼に入り助ける。レオン様の顔は真っ青だ。そのまま肩を貸して一緒に歩きながら岸へ向かう。
俺は・・・色々パニックしてるが口をつぐむ。
今は見なかった様にしよう。
深く考えない様にしよう。
俺はやり遂げた!それで良いにしよう。
でも、そう思えない。どうしよう。
アストリッド様の助けを借りて、レオン様を岸へ上げる。レオン様は震えている。
アストリッド様と目が合う・・・。
アストリッド様にも俺の気持ちが分かったのだろう。静かな目をしている。
「とりあえず帰ろう」
アストリッド様の言葉に俺は頷いた。
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