第7話 最強賢者の本当じゃない本当の私(2)
2日目。
今日のアストリッド様の衣装は、紺色のシャツワンピにしてみた。できる女みたいになった。
だけど、レオン様を見ると真っ赤になって喋れなかった。会話はゼロ。
そしてレオン様はチンピラ2人に絡まれてた。翌日の新聞に、チンピラ2人が教会の入り口に素っ裸で転がっていたと報じられた。
3日目。
今日のアストリッド様は、ハイネックのノースリーブの上着に、ズボンを合わせてみた。足が長いから良く似合う。
今日はちょっと進歩があった。アストリッド様はレオン様に「二人です」と、蚊の鳴くような声で言えた。たった5文字だけど、大きな進歩だ!
そして今日は平和だった。
4日目。
今日はお店が休みだった。
アストリッド様は朝から出かけてる。たぶん、レオン様をストーキングしてる。
夕方、アストリッド様は純金のドラゴンの像を抱えて帰って来た。土産だともらったが、正直趣味が悪いと思った。
そして、翌日の新聞にマフィア組織が襲撃されて、崩壊したと報じられていた。マフィアの組織名はゴールデンドラゴンだった。
5日目。
一番初めに着たワンピースにした。追加で服を買って来いと財布を渡された。あの着た切り雀だったアストリッドが随分と変わったものだ。
1日空いたせいか、アストリッド様はまた話せなくなっていた。一歩進んで、戻ってしまった。
そして、レオン様はマッチョな男に絡まれていた。翌日の新聞には、時計台に吊るされたマッチョな男が報じられていた。
6日目。
今日の洋服は紺色のAラインのワンピースにした。意外に似合う。次はもうちょっと冒険してみようと思った。
今日は進展があった。なんと会話があった!
「いつも来て頂きありがとうございます。アストリッド様にご贔屓頂いて光栄です」
「ああ、美味しい・・から・・」
「いつも野菜炒めですよね?今日も同じで宜しいですか?」
「た・頼む・・・・」
以上が会話の内容だ。正直、野菜炒めの味は普通なんだが、アストリッド様は満足そうに食べていた。毎日食べてよく飽きないものだと思う。
そして今日は平和だった。
7日目。
今日は仕事が入った。俺が住んでいた火山にサラマンダーの大群が住み着いたから退治に行ってくれと、冒険者ギルドに依頼された。アストリッド様と二人で行くと、サラマンダーが20匹ほどいた。この程度の数なら、アストリッド様はいらないだろうと思った。
だが、アストリッド様の話だとサラマンダー1匹はB級冒険者2人で対応するらしい。
やはりアストリッド様が規格外だと納得する。
サラマンダーを倒して、その死体はギルドに届けるとアストリッド様は言う。だが、まさか死体を半分ずつ抱えて持って帰る事になるとは思わなかった。
レイヴォネン王国民の注目を浴びて恥ずかしかった。
良い金にはなったが、血まみれになった。
このままではレオン様の食堂に行けないと、シュンとするアストリッド様に、萌え死にしそうになった。
一回家に帰り、お風呂に入って、着替えてレオン様の食堂に向かう。アストリッド様の洋服はちょっと冒険してチュニックにしてみた。冒険しすぎたらしい。似合わない。しかし本人は気にしていないらしい。
いつもより遅く食堂に行く。
レオン様が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。今日お二人がサラマンダーを運んでいるのを見ました。すごいですね。あの数をお二人で倒されるなんて!」
レオン様の純粋無垢な笑顔に癒される。そしてやっぱり見られていたんだと思った。アストリッド様は相変わらず真っ赤になる顔を腕で隠しながら、頑張って話す。
「あのくらい・・大したこと、ない」
アストリッド様が進化した!頑張って話してる!でもアストリッド様の視線は斜め下だ。まだ目を合わせられないらしい‼︎
「さすがですね。サラマンダーは強いって聞きますよ。アストリッド様がいらっしゃればこの国は安全ですね」
許容量が溢れたらしい。アストリッド様は下を向いて黙ってしまった。俺は、当面はここにいますよ、と返事をしていつものメニューをお願いする。アストリッド様は下を向いたまま席に着いた。
野菜炒めを食べ終わったら、デザートにゼリーが出て来た。
「良ければどうぞ。僕からのサービスです」
レオン様の笑顔は眩しかった。その笑顔を受けてアストリッド様は気絶しそうになっていた。持ち堪えられたのは、奇跡だと思った。ゼリーの味は普通だった。
そして今日も平和だった。
8日目。
今日のアストリッド様の衣装は、スリットの入ったスレンダーな民族衣装にしてみた。これはアリだと思った。髪もハーフアップにしてみた。更にアリだ!
レオン様にも、似合いますね!と褒められている。俺はちょっと鼻が高くなる。
そしていつもの野菜炒め。もう嫌だ。飽きた。でもこの食堂は野菜炒め以外は美味しくなかった。率直に言うと不味かった。
憂鬱な気分で食べていると、またレオン様が絡まれている。エンカウント率高くない?ここまでくるとわざとかと思えてきた。
レオン様に絡んでる男3人の脳に軽く刺激を送り、気絶させる。一応最恐ドラゴンだ。この位は簡単にできる。周囲がざわめいている中、レオン様と目があった。アストリッド様がやったと思ったんだろう。こちらを見てる。
倒すついでに男達の思考を読んだが、レオン様への憎しみと恐れの感情が見えた。純粋にレオン様を見るとムカつくらしい。人間の思考は良く分からない。あんなに人畜無害そうなのに。
そして翌日、男3人は橋の欄干に吊るされていた。そろそろ捕まるだろうから止めて欲しいと思った。
9日目。
今日のアストリッド様の衣装は、大変だった。昨日の服を着ると駄々をこねるアストリッド様を説き伏せ、ノースリーブのスリムなワンピースを着せた。髪はハーフアップにした。頑張った。俺の努力をレオン様に褒めて欲しいと思った。
だけど、レオン様はいなかった。あまりにも客に絡まれるので退職させられたそうだ。実は俺達が目撃していたのは、ごく一部らしい。なぜだろう。あんなに良い人なのに。
しかし、それを聞いたアストリッド様の怒りはすさまじく、俺は恐怖から一目散に空に逃げた。
上空から見えたのは、アストリッド様を中心とした半円状の冷気。半径1キロほどを凍らせたアストリッド様は、泣きながら家に帰った。レオン様の気持ちを
俺は頑張って後始末をした。アストリッド様は幸い凍らせただけだったので、人も建物も解凍できたので被害はなかった。被害を受けた人達はびっくりしていたが、謝ったら許してくれた。大らかな人達で良かった。
ここまで頑張ったらもう良いのかなぁとも思う。でもこのラブストーリーを見届けたいとも思う。
悩んだけど、帰る事にした。アストリッド様の待つ家に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます