第3話 最強賢者にはドレスがない

 王との謁見の後、明後日のパーティーに出る事を約束して、私はこの国で生活する為の家に帰った。あまり広い家は必要ない為、部屋数は2部屋。それにリビングと風呂と台所、トイレつき。いわゆる2LDK。各部屋に案内し、ファニーに部屋を当てがい、最後に私の部屋を案内した所でパーティーの話しなった。


「アストリッド様、まさかその格好でパーティーに出るつもりですか?」

 ファニーの呆れた顔に頷く事で返事をする。この最恐ドラゴンは妙に人間の常識に詳しくて面倒くさくなる。


「今回のパーティーは俺の討伐記念で、アストリッド様を賞賛する為のパーティーですよね⁉︎しかも恋人募集中なんて大風呂敷まで広げちゃってるんですよね⁉︎なのに神官服にマントって、色気もへったくれもないですよ!それじゃあ恋人募集中なんて言えないですよ‼︎」


 自分の討伐記念に自分が出るとは面白い話だが、このドラゴンは気にしないらしい。

 洋服ごときで人を選ぶ様な男など、こちらから願い下げだがファニーの怒りようを見ていると、そうはいかないらしい。


 私も一応貴族の端くれだ。女性がドレス着用がマナーなのは知っている。だが今回は冒険者のアストリッドとして招かれているのだ。そう言った意味ではこの服でも問題ない様に思える。と、ファニーに言うべきか悩んでいたら、ファニーが私のクローゼットを開けて物色を始めた。中々大胆なドラゴンだ。


「なんですか⁉︎このクローゼットは!同じ服が2着しか入ってない!空間の無駄遣い!」


 クローゼットから叫ぶファニーの声が聞こえる。そうは言うが、この服は防御力と状態異常を防ぐ最高級品だ。もちろん、私は常時防護膜を体に張っているから、いらないと言えばいらないが。


「金を下さい!既製品になるけど仕方ない!ドレス買って来ます」

「しかし、ファニー。今回の私は冒険者のアストリッドで出るんだ。この服で問題ないだろう?」

「そうですね。冒険者のアストリッド様だったら、俺も何も言いません。ですが今回は恋愛に興味あるって言うオマケがついていますよね?だったら女性らしくするべきではないですか?」


 ファニーの言い分は最もだと思い、財布を渡す。ファニーは勢い良く受け取り外に走っていった。

 思ったより良い拾い物をした様だ。まさかドラゴンにコーディネートされるとは思っていなかったが、私はそう言った事に興味がないからちょうどいい。



◇◇◇




 ファニーの気配で目が覚める、リビングのソファで居眠りをしていた様だ。さすが最恐ドラゴン。気配が強い。


 リビングの扉が開き大量に積み上がった箱が現れた。ではなく、積み上がった箱を持ったファニーが入ってきた。器用なドラゴンだ。しかも買い物慣れもしているようだ。


「アストリッド様に似合いそうなドレスとアクセサリーを買って来ました。ついでに靴も。アストリッド様はコルセットを付けた事は?」

 そう言いつつ財布を返して来た。中身を見るときっちり領収書が入ってる。思ったよりも律儀なドラゴンだ。最恐ドラゴンの名が泣くぞ?


「一応これでも貴族の端くれだ。コルセットもドレスもダンスも問題ない。ただドレスもコルセットも1人では無理だ。化粧もできない」

「そうだと思ってました。だから当日に着付けと化粧ができる人の手配をしておきました。ここに呼びますが良いですよね?迎えの馬車は王が手配してくれるんですよね?」


 私はこくこくと頷く。本当に良いドラゴンを得た。中々気遣い上手だ。


 気遣い上手のドラゴンは、箱からドレスを取り出しハンガーにかける。宵闇の様な深い蒼色のドレス。私に似合いそうだ。どうやら趣味も良い様だ。


「ファニーは何をしているんだ?」

「このままだと地味だから、ドレスに宝石を付けるんですよ。あ!大丈夫ですよ。ちゃんと宝石商から買った本物ですから」


 バランスを見ながら付けていくファニーを尻目に、宝石と靴も見る。悪くない。

 しかしなんとも奇妙なドラゴンだ。本当に最恐ドラゴンなのかと疑いたくなるが、今まで私が倒して来たドラゴンは一瞬で死んでいたから、そう言った意味では私と闘えたこいつは、間違いなく最恐ドラゴンなのだろう。裁縫道具を持つ姿は間抜けだが・・・。


「ファニーを選んだ私の目に間違いはなかった様だ」

 私が漏らした一言にファニーは顔を真っ赤にした。

 中々かわいいドラゴンだ。全てが終わったら殺そうと思っていたがやめてやろう。今後も使い道がありそうだ。

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