第3話 出費はかさむよどこまでも

〜次の日の朝〜

「これの買取をお願いします」


ギルドの受付に先日討伐したゴブリンとハイゴブリンを出す。


「あれ?お嬢ちゃん、今日はあまりよくないな。少し手こずったか?」


よく、このギルドで買取をお願いしているので、受付の人も覚えている。


「いや、新人研修をやっててね。っで、そいつが手加減ができない人だったから、今回はこんなに傷が多いんです」

「そいつは災難だったな。う〜ん....こんな状態だと、大体金貨1枚くらいかな?」

「まぁ....そのくらいですよね」


本来、ピアくらいならハイゴブリンを含めなくても2枚は稼げるが、今回は状態が悪すぎたため、半額以下の買取になってしまった。


「収入は減るわ、出費はかさむわ.....災難ばっかりだよ....」


金貨1枚を受け取りながら、つい、ため息を漏らしてしまう。


「っで、その相方はどこにいるんだ?」

「相方じゃないですよ。そこら辺で待ってろってたしか....あれ?」


入り口の前で待っていろと言っていたはずだが、いない。


「もぉ、あいつどこに行ったんだよ」


冒険者ギルドの建物から出る。


「どこ行った?....あ、いた」


シュラルトは薬局の前でポーションを買っていた。


「どこで油売っているんだって思ったらここにいたんだな」

「おう、終わるまでかかりそうだったからな」

「そうか。それは、お前自身で使うやつか?」

「まぁ、そうかな?」

「そうかなって....ちなみにいくら使ったの?」

「金貨2枚くらい」

「収支マイナスじゃねえかよ!」

「そんなに怒らなくても....」

「怒るわ!」


シュラルトの無計画な買い物によって、ピアのお金が危うくなってゆく。


「ハハハ....まったく、教えることはまだまだ山ほどあるな」

「それで、今日はどこに行くんだ?」

「んぇ?あぁ、今日は武器の手入れについてやるぞ」

「手入れって、鍛冶屋にでも持って行くのか?」

「そんなことしたらあっという間に金が足りなくなる。とは言っても、やるのは研ぐことくらいなんだがな」


と言い、ピアが棹に入っている短剣を取り出す。


「ゴブリン以外にも、魔物と戦った時とかにどうしても血が飛び散ったり、刃こぼれがして武器の状態が悪くなっていくから、その手入れ。ほら、こんな感じ」


なまくらものになってしまった剣を見せる。


「確かに、切れなさそうだな」

「そうなんだよ。だから、こまめに手入れしなくちゃいけないんだよ。ちょっとシュラルトのその剣を見せて?」


シュラルトの剣を棹から取り出す。


「お、重いなぁ....こんなんをずっと持っていたってわけ?」


思っていた以上に重いせいで、取り出した瞬間、剣先が地面に落ちてしまった。


「どれどれ....?うわ、酷えなこれ」


目を細めなくてもわかるくらい刃が平らになってしまっていた。

それだけでなく、土や血など長い間手入れされてないのがわかる。


「だから毎回叩き潰した感じになっていたのか.....まぁ、丁度いい」


シュラルトの棹にに戻す。


「っで、その研ぎかたっていうのはどうすればいいんだ?」

「えっとな、ここじゃなんだしとりあえず場所を移動しよう」


2人はギルド前にある井戸の前に向かった。


「まずは、研ぐ前にこれで汚れを拭いてけ」


ピアは布をアイテムボックスから取り出した。


「これでか?」

「そう、汚れを落とさないとなかなか研ぎにくいからね。そんなに土とか血が付いてちゃ、もっと時間がかかる」


と、言いながらピアは井戸から水を汲む。


「さて、それじゃ始めるか」


と言い、布に水を染み込ませて剣を拭き始める。


「....よし、綺麗になった。そっちはどうだ?」

「いや、なかなか取れん....」


シュラルトが擦り当てているが、なかなか落ちない。


「まったく、なにやってんだよ。ちょっとかしてみろ」


シュラルトの剣を床に置く。


「うっわ、想像以上に酷えなぁ....」


布を押し当ててこすってはいるが、なかなか汚れが落ちない。

そのまま擦り続けて、日が上にきた頃にようやく汚れを取りきれた。


「ふぅ....こんなものか」


用意した布からは茶色い水が垂れ落ち、井戸の桶の水は濁りきってしまった。


「にしても、錆がなんか少ねえな。誰かにやってもらってんのか?」


不思議に思いながら砥石を用意する。


「ほい、こいつが砥石だ」


手持ちサイズの砥石を投げ渡す。


「こいつをどう使うんだ?」

「切れ味が悪くなったところにこうやって....擦っていくんだよ」


砥石を悪くなった片手剣に擦り当てて鋭くしていく。


「よし、綺麗になった。ほら、綺麗に研ぐとこんな感じになる」


鋭利になった片手剣を見せる。


「おぉ、じゃあこんな感じにやればいいのか」

「そうそう。そんな感じで研いでいって」


その後も特になく大剣を研いでいったが、長さと長い間手入れしてなかったのか、かなり時間がかかってしまっている。


「まだこの葉っぱすら切れないのか....」


そこら辺にあった薄い植物の葉で切れ味を試すが、どうも剣で切るといるよりは手で引きちぎっている感触だった。


「これもっと力入れてやったほうがいいんじゃねえか?」

「やめとけ、お前の力だったらこわれるぞ?」


しかし、シュラルトはそのまま強く研いだ。

大剣からはミシミシといかにも壊れそうな音を立てている。


「おいおい、持ち武器なんだからしっかりと....」

(バキッ)

「あ、やべ」


かなりの金属の重低音が聞こえた。


「おい....まさか.....」


ピアがシュラルトの大剣をみると、ヒビが入ってしまっていた」


「お前.....」

「悪い」

「悪いじゃねえよ!全くどうすんだよこれ....鍛冶屋にでも持っていかないといけなくなったじゃねえか」


シュラルトの大剣の中央あたりに亀裂がはいってしまっていた。


「まぁ....原型も残っているからそこまでかからんとは思うが....」


ピアがシュラルト大剣を持ち上げる。


「さらにひどくなったな....また出費がかさむよ....ん?」


耳を澄まして聞くと、まだミシミシと壊れていく音がする。

その音はどんどん大きくなっていき....


「なんだ?なにがおきてーーーー」


次の瞬間、大剣全体に亀裂が入り、中央より先が粉々に散ってしまった。


「......」

「......」


しばらくの沈黙が走る。


「はぁ.....鍛冶屋行って修理してもらうかぁ....」


この日だけでの、おおよその出費は金貨4枚ほどであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る