始まり
第1話 2羽追う者村壊す
〜そして現在〜
ピアは集合場所にしていた宿に向かい、今に至る。
「いいか?金使いが荒いから言っておくが、金は無限にあるわけじゃない」
「悪い悪い」
「....本当に理解しているのか?」
「あぁ、もちろん」
「不安しかないんだが....とりあえず、今日は研修みたいな感じで、クエストをこなすよ。この村でルース・ラビットが田畑を荒らしているからできるだけ倒してくれだってさ」
ルース・ラビットとは、眉間あたりからツノが生えているウサギのようなもの。
田舎の森の中などの、のどかな場所によく生息しており、魔物の中では弱い方で、新米冒険者の訓練用としてよく親しまれている。
「っで、今回は現地調達の方法ってこともあるからなるべく傷つけずに捕獲するのと、捌き方を教える」
森の茂み中に入り、身を潜める。
「ほら、いたぞ」
指の先には1匹のルース・ラビットがいた。
「あいつらを捕獲する、まずは...」
「分かった任せておけ」
最後まで話を聞かずに飛びつき、持っていた大剣を振り下ろした。
シュラルトの大剣を振るった場所はへこみ、周囲の木々は衝撃でしなだれていた。
「どんな衝撃だよ....っ!」
収まった頃に、獲物の様子を見にいったが、グロくも叩き潰してしまった。
「捕獲しろって言って、誰がウサギジュースにしろと言った?」
「血の味のジュースはちょっと飲む気はおきんな....」
「例えだよ。まったく....冒険の基礎を教えるために捕獲しようって言ったのに、なんで叩き潰しちゃうかなぁ....」
剣の先端辺りには、そこに居たであろうルース・ラビットの皮と血が滴っていた。
「さっきの衝撃で、この辺りのこいつらは遠い場所に行ったんじゃないかな....」
「なら、また探せばいいんじゃないか?」
「さっきの奴らを探し出すのに何時間かかったと思ってんだよ」
その後も探し回ったがなかなか見つからず、気づけば少し離れた林の奥にまで進んでいた。
「いた、今度は2匹いる」
少し急な坂に2匹が固まっていた。
「2匹だな」
「まてまて、あいつらがいるのは坂だから捕まえにくい。2匹追ったらどっちとも逃すかもしれん。1匹に絞るぞ」
「でも坂なんだろ?強い揺れでも起こせば転げ落ちてくるんじゃないか?」
「どうやってだ。そんな大胆な魔法でも使えるのか?私は無理だぞ」
すると、シュラルトは股を開き片足を上げ、
「こうすれば....」
シュラルトは足を勢いよく落とすと、周囲は凄まじい揺れが発生し、坂にいたルース・ラビットが2匹とも転げ落ちてくる。
「うわわわわ」
ピアは揺れに耐えれず、近くにあった木にしがみついている。
「よし!」
シュラルトは転げ落ちたルース・ラビットを両方とも捕まえてしまった。
しかし、さっきおこした地震のせいであたりの木々は倒れたりへし折れたりしてしまった。
「....これはやばい惨状だなぁ」
「どうだ?2匹とも捕まえたぞ」
と、脇につまみながら寄ってきた。
「代償があってねえよ、ドラゴンとでも戦ったみたいな惨状になってんじゃねえか」
「捕まえられたから、別にいいんじゃないか?」
「よくない。まぁ、いい。とりあえず、そいつを縛って町に戻るぞ」
ルース・ラビットを縄で縛って、町に持ち帰った。
ピアが思っていた以上に少し奥に行っていたようで、ついた頃には日の入り直前だった。しかし、着いた時の町の光景が一変していた。
屋根瓦は崩れ落ち、窓ガラスは割れ、舗装されていた道はヒビが入っている。
「なにか、ありましたか?」
付近にいた村人に話しかける。
「さっき地震が起こらなかったか?それでな、町の建物も道もほとんど壊れてしまってな。しまいには、付近の街に行く道も木が倒れてしまって、近くの街に行き来ができなくなっちまってな」
なんと、ルースラビットを捕獲する時に起こした揺れが村にまで被害を起こしてしまったようだ。
「そうですか....大変ですね」
「今、ギルドに救援依頼を出したところだから。まぁ、被害もそこまでないし1週間程度で復旧できる。しかし、この辺りはあまり地震はなかったんだがな。誰かが相当な悪さをしたのが溜まっていたのか....」
「そうかもしれませんね」
口が裂けてもシュラルトのせいなんて言えるわけがない。
「こんなん、私じゃあ手に負えないな....」
〜後日〜
「エレーザさん?ちょっといいですか」
ピアがギルドマスターの部屋に来た。
「依頼を解約したいです」
「またか?2週間くらい前にも同じこと言っていたけど」
「違約金はいくらですか?」
エレーザの話を待たずに話を続ける。
「ちょいちょい、分かったって。お前が辞めたい理由も十分わかった。けど、もう少し耐えてくれんか?」
「ルース・ラビット2匹を捕まえるのに村を壊すんですよ?やっていられません」
「まぁまぁ、落ち着け。お前しか頼めないんだ」
「だから、何回も言ってますけど私より上のCの奴らにでも任せたらいいんじゃないですかね?」
「頼むよ....」
その後もギルマスの必死に懇願された。
「....分かりました。引き続きやりますが、条件があります」
「なんだ?」
「依頼がこなせたら、私をSランクにしてください」
冒険者ランクにはいろいろ階級があり、E〜Sまであるランクによって分類される。依頼達成数、技量、知識の各分野によって分類される。
その中のSとなると、万を侑に越える依頼をこなしたり、都市や町を壊滅させるような魔物を討伐できたり、薬草の知識や魔法の扱いに長けた物の集いであり、その数はほんの一握りしかいない。
Sランクにはもちろん特権があり、それのために奮闘する冒険者もいる。
その中に、まだ比較的かけ出したばかりのピア入れろと言うのだから、ほかから見れば無茶な要求なのだが。
「いいよ別に」
すんなりとギルマスは答えてしまった。
「そうですか....って、そこは無理だって言うところでしょうよ。権利濫用で、叩き落とされますよ?」
「いいのいいの」
「はぁ....分かりました、依頼が達成できたら“本当に”お願いしますね」
「そうこなくっちゃ」
右腕を振り、ガッツポーズをする。
「それと、これ」
ギルドマスターに手渡ししたものは請求書の束だった。
「今回の復旧にこれくらいかかるそうです」
書かれているのは、前回の賠償の2倍ほどの額だった。
「えぇ〜こんなに?」
「言っておきますけど、災害....っていうより人災?の後始末ですし、そのくらいかかりますよ」
「まったく、しょうがないね....久しぶりに崩すかぁ」
さすがに今回は額が額なのか、前回よりはるかに困り顔で頭を抱えてながら渋々ハンコを押した。
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