4-「聞きこみ捜査・呪井鴨四蓮」

4 聞きこみ捜査・呪井鴨四蓮


 カフェスペースを後にして、三人は駅の付近にあるファストフード店へ出向いた。有子の通う高校の最寄り駅だ。

 店内は帰宅途中の学生が多く集っていて、有子は肩身狭く、新作のシェイクだけを頼んで適当な席へ向かう。


 不意にカウンターに視線をやると、後に続く縄分が、ゴキブリでも見るような視線を、さらに奥へ向けていた。四蓮がカウンターに肘をついて、店員の表情を覗きこんでいる。


「ダブルチーズハンバーガーのセットでシェイク。あと、スマイルひとつ。ください」

 そう言ってお釣りが出るほど満面の笑みを見せる美形の男に、対応していた女性の店員は思わず、仕事の顔が剥がれてはにかんだ。

 その様子を横目に見て、有子は作画がいいなあ、とチャラいなあ、と二つ感想を思い浮かべていた。自分には到底できない——まずやろうとは思わない行動を、この探偵は突飛なくやっている。なんというか、エンタメ精神に溢れていて、見た目も相まって目立つ。探偵とはもっとこう、目立たないようにするものではないのだろうか。あるいはトレンチコートとか。純白のピーコートは着ているけれど。


 注文商品を乗せたトレーを持ち、腰を下ろす四蓮に、先に有子と席を取っていた縄分はじろりと、やや呆れたように睨めあげる。


「毎回それ言うのやめろ」

「なんで? タダで笑顔を売るなんて面白いじゃん」

「そういう売り文句なんだよ。いい加減飽きろど田舎モン」

「ど、ど田舎もん?」


 有子は思わず四蓮の顔を見る。笑みを見せる目の前の儚く美しい男は、デビューしたてのモデルなんかよりも垢抜けている印象がある。

「どことも知れん未開の地から来たオノボリなんですよ、こいつは。つい最近までファストフードもファミレスも知らなかった」

「え、う、嘘だあ……」


 縄分の言葉を飲みこめず、乾いた笑いを出すしかなかった。冗談としか思えない。何より現代において、普及している全国チェーン店ですらない、という地域の存在があることが、生まれも育ちも都会付近の有子にとってはカルチャーショックだった。

「縄分さんが地理弱なだけでしょうが」

 否定しないところを見ると、四蓮は本当に「ど田舎モン」らしい。それにしたって——ファッションに詳しくはない有子でも、四蓮の服装はおおよそ「未開」と縄分に言わせるイメージとは程遠い。それとなく尋ねると、

「この服は、都会のおじさんがくれたセットアップ。どう、いいでしょ」

 自慢したがりな大きな子供の態度で、見せるように身体を捻る。


「それよりもなんでファストフード店に来たんだ」

「そりゃー情報集めに決まってんのよね。縄分さん、前はどうしてたわけ」

「……」

 縄分は真顔のまま、プラスチックのマドラーをペキンと親指で手折った。

「よくないよ、そういうところ!」

「それで」

 四蓮の言葉を無視し、縄分の視線は有子に投げられた。有子は先ほどから、周りにそわそわと視線を巡らせ、身を縮めていた。

「どうしたのさ、有子ちゃん」

「え、あ、あの……クラスメイトがいるかもって思って」

 有子はこの店に入ることが乗り気ではなかった。友達がいない、といっても、クラスが同じなのだから顔見知りではある。特に話すことがあるわけではないのに、教室の外で、顔をあわせるのは気まずい。

「そりゃあそうだよね。君の学校の駅近なわけだし。クラスメイトいたら教えて」

「え?」

 目を瞬かせる。

「君は話しかけなくていいからさ」

 四蓮は椅子の背もたれに肘をつき、有子と同じブレザーの制服を着た複数の男女に目を止めていた。


 視線を追ううちに、有子はそのグループの一人と目があった。

「願井さん?」

 男子生徒に問いかけと同時に、一緒にいた他の男女も有子を見る。有子は狼狽し、浅くうなずいた。

 声をかけたのはクラスの中心的グループ——男子生徒はその一人の、須藤御幸すとうみゆきだった。


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