帰宅

目が覚めると何だか体がスッキリしていた。


俺は、洗面所に向かった。


タオル…。


千尋が拭いてくれたのか、顔洗ってうがいをする。


隣の千尋のベッドに座って、千尋を見つめる。


泣いていたんだな。


千尋の濡れてる頬を撫でる。


「うーーん」


起こしちゃいそうだった。


俺は、立ち上がって水を飲む。


千尋の苦しみが解らなくてもどかしかった。


俺じゃ無理だよな。


って、この気持ちは何なのだろうか?


千尋の優しさにれて、俺も優しくしてあげたいと思った。


シャワーでも浴びるかな。


シャワーの栓をひねる。


体をゆっくり流す、千尋に優しくさわられたのを思い出すと全身が熱を持っていくのを感じる。


「由紀斗さん、シャワー浴びながら何してるんですか?」


「千尋」


れようとしたのを千尋にバレてしまった。


「丁度よかった。俺もシャワー浴びたかったです。」


「それなら俺は、出るよ」


「駄目ですよ」


千尋にれられて、体がジンジンと痺れて、熱を持つ。


「千尋、駄目だ」


「ストックがないから、いれないよ。大丈夫だから」


そう言って、後ろから抱き締められながら、体を優しく撫でられる。


「んんっ、ァァー。千尋」


「由紀斗さん、俺。もうやめたい」


その言葉に、千尋の手を掴んだ。


「ごめん。やめよう、こんな事。気持ち悪いよな。ごめん。」


「ち…」


ザァーってシャワーの音がうるさくて、千尋の声は何も聞こえなかった。


俺は、スーツケースに荷物をしまっていく。


水を飲んでいると千尋が上がってきた。


「用意したら、帰ろう」


「由紀斗さん、さっきの」


「ごめん。その話は…」


聞きたくない。


千尋にもいらないなんて言われたくなかった。


千尋は、黙って帰り支度を始めた。


拒絶された事で、俺のは静まっていた。


梨寿りじゅに土産を買って帰りたいから、先に新幹線に乗って帰っても構わないよ。」


「いえ、一緒に帰りますよ」


「そうか」


じゃあ、先に帰ります。


そう言ってくれた方がよかった。


手続きをした。


「先輩、俺が払います。」


「嫌、カードで払うから」


俺は、カードで払った。


「市木、行こうか」


他人に、戻っただけだ。


俺は、駅について梨寿へのお土産を探す。


梨寿は、小豆が好きだからこれがいいかな?


お餅にするかな…。


市木も、お土産を見ていた。


俺は、お餅を持って行った。


さっき、市木に拒絶されたのが痛くて痛くて堪らなかった。


駅弁やお茶を買って、新幹線に乗った。


隣同士の席には、しなかった。


市木と新幹線では、離れたままだった。


離れているお陰で、駅弁を食べたり、お茶を飲むことが出来た。


駅についた、新幹線を降りる。


改札を抜けると市木は、俺にお辞儀をした。


「先輩、俺こっちなんで。」


「ああ、また明後日会社で」


1日休みだった事に感謝しかない。


「お疲れ様でした。」


「お疲れ様」


俺は、市木に手をあげた。


もう、見たくなくてスーツケースを転がしながら駅を通り抜けた。


三泊四日で、5回も抱かれた。


その相手に、やめたいと言われた。


胸が押し潰されそうだった。


俺は、梨寿を愛してる。


市木ではない。


あいつに抱かれたのは、ただの興味本位だ。


気持ちなんてない。


結婚してすぐに、梨寿と相談して建てた家だ。


「ただいま」


「おかえりなさい」


「これ、お土産」


「ありがとう」


梨寿が、玄関で出迎えてくれた。


「もうすぐ、来るのか?」


「はい」


そう言って、スーツケースの駒の部分を拭いている。


「洗濯機にいれてね」


梨寿の笑顔に抱き締めてしまった。


「ごめん」


「ううん」


「少しだけ、いいかな?」


「はい」


梨寿は、少しだけ抱き締めさせてくれた。


「ありがとう」


俺は、梨寿から離れてスーツケースを持っていく。


洗面所で、中の洗濯物を洗濯機に入れた。


スイッチを押した。


はあー。情けない。


スーツケースを、階段下の収納にしまった。


ピンポーン



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る