第11話

十一話

 村が終わる。

 その言葉はとてもシンプルだからこそ、事の重大さが良く分かった。


「どういう風に……?」


 気づいたら梅はそう言っていた。


「まず、壁が壊れ、大量の種が侵入してくる。その種に抵抗できる手段が無いものから種に食われ、そして死んでいく。全滅するのも時間の問題だろう……」


「ダイくんの魔力を別の場所に移す方法はあるんですか!?」


「ない」


「魔法草を使って魔力が無くなる前に補充すれば……!!」


「一瞬で全て持っていかれる、そんな時間なんて無い」


「持っていかれるって!」と梅は何かを悔しそうに言おうとすると、村長は「梅くん」と優しく呼び、遮る。


「少し、落ち着こうか」


 その時の村長の顔は、梅よりもずっと苦しそうに、悔しそうに、それでも笑っていた。


「ごめんなさい……」


 梅は謝るしかなかった。村長のその顔を見てしまったら、何も言えなかった。


「……確認ですが、ダイくんの事はこの村の人達全員知っているんですか?」


「……知らない。知っているのは、私、リーヨ、八重、コウくん、サクちゃん、マユちゃん、ダイくんの母親、そして梅くんだけだ」


「ダイくんのお母さんは了承したんですか?」


「村の為なら、と……」


「そんなの残酷過ぎますよ……」


 自分の心臓の鼓動が聞こえているくらい静かな時間が続く。

 そんな静寂の中、村長は口を開いた。


「今日はここらでお開きにしよう。また明日、話をしようか」


「最後に一つ、いいですか?」


「なんだい?」


「壁が壊れる前に、さくらの魔法陣を使って皆を逃がすことは、可能ですか?」


「……」


 村長は黙り込む、さっきまでは答えてくれていたのに、そうしないといけない秘密があるみたいだ。


「僕は絶対にダイくんを助けます。何としてでも」


「あぁ」


 その日の話し合いは終わった。梅達はそれぞれ自分の部屋に入っていく、梅は疲れていたのかすぐに寝付いてしまった。


 ある夢を見た、知らない金髪の少女と話す夢だ。知らない、だけど何処かで見たことがある。少女はこちらに微笑んでいる。何も言わずに、ただこちらを微笑んでいる。


『どうしたの?』


 と声をかける。すると少女は、梅の左胸に手を置く。そして、


『良かった』


 と、また梅に微笑んだ。その声には心当たりがあった、だけどはっきりとは思い出せない。


『君は……誰……?』


 その言葉にもまた微笑んだ。


『ねぇ、ウメ』


『……うん』


『私はウメの力になるから、だから、私を……』


 最後の方は聞き取れなかった、いや、聞けなかった、そこだけ切り取られているような感覚に陥った。少女は『バイバイ』と今にも泣きそうな顔で手を振る。手を振ると同時に少女の体は消えていく。


『待って!』


 消えかかる少女を掴もうとするが、遅かった、遅すぎたんだ。もう……。


 気がつけばウメは謝っていた、『ごめん』、『ごめん』と。


 そして梅は目が覚めた。


 何かもを忘れて。


 朝だ。何だか今日は調子が良い、頭もクリアだ。梅はちょっとした準備体操をしていると、ドアをノックする音がした。


「梅いる?」


 ドアの外から、八重の声が聞こえてきた。


「いるよ」


「入っていい?」


「うん」


 ドアが開く、やはりそこには八重がいた。八重は部屋の中に入り、ドアを閉め、ベットに座った。


「どうしたの?」


「ダイの事なんだけど、何か思い付いた……?」


「うーん……何というか、ちょっとした疑問なら思い付いてる」


「言ってみて」


「魔力の量ってどうやって分かるのかなって……」


「うーん……普通は、体力みたいにどれだけ長く魔法が使えるか、とかかな。後は、そういう能力を持っている人に見て貰うとかかな?」


「そういう能力もあるんだね」


「うん、目と目を合わせれば、大体分かるってソーンさんが言ってた。でも時々分からない時があるみたい、梅の時がそうだったよ」


「えっ、ほんと?」


 八重がこくりと頷くと、ベットに寝転んだ。


「二重に見えて良く分からなかったって」


 ベットの上で伸びをしながら言う八重に、梅は「へぇ~」と答えると、「そうなんだよ~」と返ってきた。


「何で魔力の量について聞いてきたの?情報交換ってやつで教えて~!」


「大したことじゃないんだけど、僕の魔力が少ないっていうのは使ったから分かるよ、だけど、ダイくんの魔力の量って、魔法を使って無いから多いかどうか分からないよな~って思ってね」


「おぉ~いい推理~!」


「よっ!名探偵梅!」と拍手する八重に、「真実はどうのこうの~てね!ははは」と照れてながらいう梅だった。


 リーヨさんは昨日の夜の事が嘘だったかのように、すっかり元気になっていた。

 梅はいつものように、リーヨさんの作ったご飯を食べ、いつものように力仕事をした。


 仕事も終わり、自由な時間になってから、梅はさくらの元へと向かう。八重は今リーヨさんの店の手伝いでいないからだ。


「さくら!」


 梅はさくらのいる家の扉を勢い良く開けた。


「うわっ!誰ですか!?」


 さくらはポカーンとした顔で梅を見る。そして、それが梅だと気づくとほっと息をついた。


「ご主人でしたか、どうしたんですか?何かあったんですか?」


「試練を受けたいからちょっと見ててくれない?」


 試練を受けるには大人か、さくらに見て貰う必要がある。クリアしたかを証明するためと、何か起こっていないか見るためだ。


「良いですけど、今日はクリアできるですか?」


「出来る気がする!」


 さくらは溜め息をついたあと、「無理はしないでくださいね」と言った。


「もちろん!」


 と、さくらの家を後にする梅、さくらはその後ろを着いていった。


 そして、いつものように試練を受けた。


「いっ……たくない!」


 梅のポケットから何かが割れる音がした。幸い、ここまで一つも攻撃を受けずにこれたので、今ので一個目だ。残り四つ。


 梅は今、素早く動くトラのような四足歩行の動物に噛まれた。だが、痛みはない、だが反射的に痛いと言いそうになる。


「ごめんね!」


 そう言いながら梅は四足歩行の動物に向かって鋭い火の魔法を二発撃つ、するとその動物はその場に倒れ、動かなくなった。


「ふぅ……何か今日は調子が良いね……」


 梅は今まで八発撃ってきた。いつもなら八発も撃つと頭痛がし始めるのだが、今日はそれがなった。


 慣れてきたのかと思う梅、ちなみに、今は分からないが、昨日までは最大は十六発だった。ここまで撃つとその場に倒れる。


「今日こそは……!!」


 梅は森の中を進み続ける。すると、次はクマのような体の大きな動物が現れた。


「君はあんまり得意じゃ無いんだよね……」


 体が大きいからか最低五発は撃たないと止まらない、急所を撃てば一発なんだが……それが難しい。


「うわっ!!」


 大きな爪で梅を攻撃する大きな動物、その破壊力は木を一撃で倒す程だ。


 あんなので攻撃されたらひとたまりもない。梅は何とか攻撃を避けながら、急所である頭を狙おうとするが……


「わっ!!」


 大きな動物の爪を避けきれず、当たってしまう。梅は吹き飛ばされ、木に当たってしまった。


 そして、ポケットの中から二回割れる音がした。


「やばいかも……」


 残り二つ、後一回でも受けたら今のように二つ割れてしまう。


 大きな動物はこちらに向かって四足で走ってくる。それを見て、梅は大きく深呼吸をした。


「ちょっと思い付いた新技……試させてね……」


 一か八かの賭け、梅は魔力を両手に集中させ、両手を合わせる。そして、その手で指鉄砲の形を作った。


 仮に、技名を着けるとしたら、通常の撃ち方が『ピストル』、そして、この撃ち方が……


「リボルバー!!」


『リボルバー』この撃ち方は、あらかじめ両手に魔力を集中させる必要がある。そのかわり、一発の威力は『ピストル』よりも大きく上回る。


 鋭く、やや太い火の魔法が大きな動物へと向かっていく。狙ったのは大きな動物の眉間……そして、その攻撃は当たったそして、梅の目の前で動きは止まった。梅は安堵し、その場に座り込む。


「いっ!!」


 無理をしたのか、両手が痛む。魔力を集中させるということは、撃つときもそれだけの魔力が一気に放出されるということ、さっきの梅のやった事は、風船の中に空気を目一杯入れ、ぱっと離したものと同じ行為だ。痛むのも当たり前だ。


「進まなきゃな……」


 何故か意識ちゃんと保ててる、ここまでやったのだからもう意識を失っても良いはずだ。梅は立ち上がり、痛さを我慢しながらも進む。


 先に進み、その光景を見た梅は思わず絶句した。そして、梅の残りの二つ水晶が同時に割れた。


 森の入り口に移動させられた梅に、さくらは近寄る。


「今回も駄目でしたね、次も頑張ってください」


 そう言って、器用に口を使って背中に乗せると、村へと歩いていく。


「ねぇ、さくら」


「何ですか?」


「これって全員が全員、同じ試練を受けているの?」


「殆ど同じですよ、毎回モンスターの数が違ったりする程度です」


「それって誰が決めているの?」


 普段よりも低い声で梅は聞く。それは本人も気づいていなかった。


「……分かりません。強いて言うなら、森……ですかね……」


「んじゃ、森が生け贄を決めているんだね」


 その言葉を聞き、さくらは立ち止まる。


「何故……それを……?いや、まさか!!」


「やっぱり……良かったよ、ダイくんが生け贄ならなくて」


「冗談ですよね?ご主人!!」


 さくらにとって、一番起こってほしくない事が起こってしまった。冗談だと信じたい、その口から冗談だという言葉を聞いて、そんな事を冗談でも言うんじゃないんですよ、と叱った後、許してあげたい。だが、現実はそうではなかった。


「冗談じゃないよ、本当に、この目で見てきたんだ、『おめでとう、君は生け贄に選ばれた』ってね。その後、水晶がいきなり割れたのはビックリしたよ」


 本当は、さくらも気づいていていたのかも知れない。今日、あの時梅を見た時、異常に魔力の量が多くなっていた事、ダイよりも多くなっていたことに……


 あいつの事だ。魔力量がを多い者を選ぶに決まっている……。


「ご主人」


「何?さくら」


「村長が帰ってきたら全てを話します」


「分かった」


 一人と一匹は日が暮れてきた空の下を、村に着くまで無言で歩き続けた。

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