第10話
十話
広場で魔法の練習を終え、梅と八重は広場で他愛のない会話をしていると、広場の入り口の方から、すんすんとすすり泣く声が聞こえてきた。二人はその泣き声の方へと向かう。そこにはダイ、マユ、サクの三人がいた。
「どうしたの!?大丈夫!?」
八重がサクに近寄り頭を撫でる。サクはこくりと頷いた。
「八重さん、さっきダイの家に行きました。そこでちょっと言い合いになってしまって……それで……」
コウの話を八重はうんうんと頷きながらと聞いており、「それで?」と優しく聞き返す。
「ダイに秘密がバレました……」
その言葉を聞いた八重の表情は、さっきまでの優しい眼差しとは打って変わって、一瞬で真剣な眼差しでコウを見つめるようになった。
「何処まで知られた……?」
おそるおそる八重はコウに聞いた。コウは少し言うのを躊躇ったが、やがて口を開いた。
「僕達の……事です……」
八重は「そっか……」と答えると、ゆっくり立ち上がった。
「ど、どういう事?何があったの?」
梅は訳も分からず八重に聞いた。
「あぁごめん、この事は梅には説明して無かったね。コウ達は家に帰ってていいよ。後はお姉さんとお兄さんに任せなさい!」
コウ達はコクりと頷くと、八重は気持ち良さそうに大きく体を伸ばした。そして、「ちょっと着いてきて」と梅に言い、すたすたと広場の奥の方へと歩きだした。梅は八重の隣に移動する。
「何処に行くの?」
「ないしょ」
何処か悲しそうに八重はそういった。しばらくの間無言が続く。梅は辺りを見渡した。辺りには草が風によってゆらゆらと揺れている様子や、遠くの方に大きな山など、自然が豊かな光景が目に映った。
(綺麗だなー)
そのような事を思っていると、八重から「景色綺麗でしょ?」と聞こえたので、梅は「うん」と頷く。
「向こうに見える山を登りたいくらいだよ」
梅は遠くの方にある山を指を差しながらそういうと、八重はぴたりとその場で立ち止まる。
「どうしたの?」
梅は立ち止まった八重を見ながら歩いていくと、壁のような物にぶつかる。
「痛い!」
梅はその場で尻餅を付いた。八重は立ち止まったままだ。
「ちょっと八重ー、何かあるなら言ってよー!」
梅は笑いながら八重にそう言うと、前方を確認する。するとそこには壁なんて無く、梅が座っている地面と同じような光景が続いていた。もちろん、遠くの方には山がある。梅は先ほどぶつかったと思われる場所に向かって手を伸ばす。すると、手のひらにはガラスを触っているような感触が伝わり、叩くとガン!ガン!という、まるで壁を叩いているような感覚に襲われた。
「何これ……」
そのような言葉が、梅の口からこぼれた。すると八重が口を開く。
「これ以上は何をしたって向こう側に行けない
よ、だって壁があるんだもん」
「壁……?」
「そう、壁。正確に言うと、魔力で出来た結界の中に私達がいるんだよ」
「何で……?」
「だって外には『種』がいるから」
「『種』……?花を咲かせるやつ?」
梅は立ち上がりながら言うと、八重は少し悩む。そして口を開く。
「そうなんだけど、そうじゃない。少なくとも梅が知ってる『種』じゃない」
「その『種』ってどんなの?」
「私もよく分からないけど、黒くて丸くて、大きな口があって小さくて……取り敢えずは、黒いボールのような生き物って覚えておいて」
梅は頷いた後、「それから守る為にこの壁があるの?」と言うと、八重は頷き、「ソーンさんがそう言ってた」と返した。
「だったら大丈夫じゃん!これが無くならない限り、その『種』ってやつはここまで来れないんでしょ?」
「来れない……うん、確かに来れないね、この壁が無くならない限り……」
八重は下を向き言った。その反応をみるや否や梅の頭には不安が横切った。
「無くなるの?」
八重はそのままの状態で「うん」と頷く。
「何で?」
「さっきも言ったように、この壁は魔力で出来ていて、その魔力が尽きるんだよ……」
「魔力を補充するためには?」
八重は少し言うのを躊躇った。梅は八重が話すまで待つ。そして、決心したのか、梅の目を見て話す。
「生け贄!生け贄が必要なの!」
八重の発した言葉に梅は衝撃を受けた。
「生け……贄……?」
「うん、それにダイが選ばれた……それだけ……」
八重はまた悲しそうに言った。
「何で……だったら僕がっ!」
「やめて!!」
梅の言葉を八重が叫び、遮った。梅は驚き、少し体がピクリとさせる。
「それだけはやめて!!やっと会えたのに……」
梅は八重の顔を見ると八重は涙を流していた。
「ごめん、八重……」
八重はこくりと頷いた後、「それに梅の魔力の量じゃ無理……そもそも普通は一人じゃ無理なのよ……」と涙声になりながらも答えた。
「えっ……」
「ダイは特別魔力が多いの。それこそ普通の人の百人分の魔力を宿していてね……仕方がないのよ皆が生きる為には……」
「そうなんだ……コウくん達はそれを知ってるの……?」
八重はこくりと頷いた。どうやらさっき話していた秘密というのはこれだったらしい。八重がまた喋りだす。
「そして、生け贄の日には眠らせたままで……」
言葉を言い終わる前に八重は我慢出来なくなったのか、その場で倒れこむが、梅はそれを支えた。
「分かったから、それ以上言わなくていいよ!大丈夫!」
「うん……」
梅はその場に座り、八重に胸を貸す。八重には弟と妹が一人ずついた。とても可愛がっていたらしく、元の世界では二人時によく話してくれた。残念ながら二人とも八重の両親と共に車の衝突事故で死んでしまったらしい……。四人の事を弟や妹に重ねているのだろう……子供みたいに泣く八重の背中をトントンと優しく叩いた。
ダイは試練も突破できず、魔法も使えない、そして魔力だけは大量にある……生け贄には十分すぎる程の条件が揃っていた。それが生きて普通に生活しているという事以外は……
「八重はどうしたいの?」
梅は八重に聞いた。八重はすぐに「ダイを生け贄にしたくない!!」と叫ぶ。続けて梅は「それはいつ?」と質問した。
「分からない……ただ、もう時間は無いってソーンさんが言ってた……」
「そっか……それまで一生懸命考えよう!」
「えっ?」
「なんとしてでも、ダイくんが生け贄にならなくてもいいように、ギリギリまで考えようよ」
「でも……」
「うんん、絶対なにかあるはずだよ、その時までは絶対に諦めないないでおこうよ」
八重は「うん……」と頷いた。そんな八重に梅は微笑み、「頑張ろうね!」と言った。
「八重、とりあえず今日はこの事を村長に相談しよう、まずはそこからだ」
八重は笑顔で頷いた。すると、背後から何人かの足音が聞こえてくる。梅は振り替えると、そこにはコウ、マユ、サクの三人がいた。
「あの!!私達もダイが生け贄になるのなんて嫌です!!こんなの絶対に間違ってます!!」
マユが叫ぶ。コウもサクは真剣な眼差しで梅を見ていた。どうやら二人も同じ考えよようだった。
「僕もダイには生きて欲しい!僕達も出来る限りの事は手伝います!」
コウは頭を下げそういうと、サクは必死に頭を上下に揺らしている。そんなコウ達に「何かあったら任せるよ」と言い、にっこりと笑った。
その日の夜、既に帰ってきていたソーンとリーヨにダイの事について話した。ソーンは少しの時間考え込んだ後、「その話は晩御飯を食べた後にしようか」と言った。
四人は無言で晩御飯を食べ終わり、話し合いの空気になった。ソーンが最初に喋り出す。
「実はね、一つだけあるんだよ。ダイくんを生け贄にしないでいい方法……」
その言葉に梅と八重は勢い良く立ち上がり、二人は顔を合わせた。
「本当ですか!?」
梅が勢い良くその言葉を発した。
「取り合えず二人とも座りなさい」
ソーンが少し笑った後にそう言うと、二人は恥ずかしそうに大人しく椅子に座った。
「それで、その一つって何ですか……?」
梅がソーンに聞くと、一呼吸置いた後、話し始めた。
「それは、生け贄を出さない事だ」
その言葉に二人は驚き、ソーンは話を続けた。
「この生け贄をしない事が可能なのかと疑問に思っただろうが、可能だ。しかし、それには大きなリスクが伴う……簡単には出来ないことなんだよ……」
「大きなリスクって何ですか……?」
梅は恐る恐る聞く、何だか嫌な予感がしたからだ。「それはな……」とソーンが説明しようとした時、リーヨの呼吸が突然荒くなる。ソーンは「リーヨはもう寝てなさい。今日は客が多かったらしいじゃないか」ソーンはリーヨに優しく言うと、「そうさせて貰うわ……」とリーヨは水の飲んだあと、階段を上がり、自分の部屋へと移動した。三人はリーヨが扉を開ける音が聞こえ、三人は話し出した。
「すまない、『種』というのは黒くて丸い大きな口を持っている生き物で、分かっている事は人を襲うという事だけだ。取り合えず今は、『人を襲う生き物』、とだけ覚えてくれていればいい」
ソーンが話を続けようとすると、梅は「リーヨさん、どうしたんですか……?」とソーン聞いた。するとソーンは
「あぁ、きっと疲れていたんだろう。さっきもいった通り、今日は客が多かったらしいからね」
と微笑みながらいう。微笑む、と言っても目は笑っていない、悲しそうだった、きっとこれ以上はもう聞いてくるなという意味も含まれているのだろうか……梅はそう判断し、「そうですか……少しでも負担を減らせるように、早くお手伝いに行きたいです……」と悲しそうに言うと、「ありがとう、リーヨも喜ぶよ」と返ってきた。その時のソーンの声は少し震えていたような気がした。すると八重が「『種』が入っちゃうとどうなるの?」と質問する。ソーンは言うべきか悩んだ後、
「村が……終わる……」
とだけ答えた。
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