第7話

7話

 その日の夜、梅、八重、村長、リーヨの四人で夕食を食べている時、お村長とリーヨに梅の適正の魔法や試練に挑戦した事、そして、自分をこの村の住民と同じように扱ってほしいと言った。

 すると、二人はクスクス笑いだした。梅は二人の反応に困っていると、リーヨが口を開いた。


「ごめんね。八重と言っている事と一緒だったから、ちょっと懐かしくなって……」


「えっ、そうなの?八重?」


 梅はすぐ隣で夕食を食べている八重に聞くと、「そうだよ」と返ってきた。


「同じ扱いをするという事は、試練を突破しないと村から出る事が出来ない、という村の掟に従って貰う事になるがいいかね?」


「はい。あと、少し疑問に思った事があって……聞いてもいいですか?」


「いいよ、何でも聞いて」


「その……試練以外の村の掟ってあるんですか?」


 村長に顎に手を当て考える。そして少し唸った後、「そういえば、他に無いな……」と返ってきた。


「えっ、無いんですか?」


 予想していた回答と大きく違い、少し驚く梅。そして、リーヨが口を開いた。


「強いて言えば、村のために働く事よ。例えば畑の手伝いとか、ちょっとした力仕事とか……一日に一回は村のために頑張る事。これと、試練の事を守って貰えれば他は好きにしていいからね」


 リーヨが優しく説明すると、梅は元気よく「はい!」と返事をした。


「うん、元気が良いね。それじゃ明日から頑張って貰おうかな。あっ、八重は明日暇?良かったらお店手伝って貰いたいんだけど……」


 もうすでに夕食を食べ終わり、肘をつきながらも話を聞いていた八重が「わかった」と返事をした。


 リーヨが手を叩く。


「さっ、明日から忙しくなるから、今日ははやく寝なさい」


 二人は返事をし、食器を片付けた後、就寝の準備をした。


 準備が終わり、布団に潜り込んだ梅は、一人天井を見ながら明日の事を考えていた。だが、時期に眠くなり考えるのも止め、徐々に夢の世界へと入っていった。


 夢は好きだ、だって、もう二度と会えない人とも会える可能性があるから。


 梅は何処かに立っている。何処に立っているのか分からない、なので開けて確認する。


 そこは白がずっと続く世界。上も下も分からない世界。そんな世界にいくつかの色が現れ始めた。

 白の世界には主に黒く塗られ、少し離れた所には赤が揺らめき、赤のすぐ下には茶色があった。

 周りを見渡す、ここは何かに囲まれているようだ。ふとすぐ下を見ると……。


 誰かが倒れていた。


 体は自分よりも小さく見た目は女性ようだった。髪は綺麗な金色をしており、誰もが美人というような顔立ちだった。


 気がつくとその顔の一部には、その部分を拡大するような透明な何かがつき、それが徐々に増えていった。何故だか無性に肉が食べたくなった、何故だろうか。自分の指の先に赤がついた。嫌だ。仕方がない。徐々にその赤がその人の形をしたものに近づいていく。嫌だ。これは仕方がない。手が激しく震え、それと同時に赤も激しく揺れる。嫌だ。仕方がないんだよ。灰色が出てきた。


 …………


 嫌だった。


 梅は勢いよく起き上がる。梅の体には大量の汗が吹き出ており、服が張り付き少し気持ち悪く感じた。呼吸も激しい、息を整えようと深呼吸をすると、口の中に何かが入り、塩辛い味がする。もしやと思い、目を擦った。


「涙……」


 目から涙が出ており、梅はその涙を舐める。


「しょっぱい……」


 何だか無性に水が飲みたくなったので、梅は部屋を出た。


 梅は水を飲んだあと、外に出た。特に理由もなく何となくだ。外は少しだけ大砲やが出ており、少しだけ明るかった。どうせやることもないので、太陽が全てで終わるまで待つことにした。


 太陽を見ていると後ろから声をかけられる。さくらの声だ。


「おはようございます」


「うん、おはよう」


「……?どうなさいましたか?何か悲しいことでもありました?」


「どうして?」


「……いえ、ちょっと待って下さい。失礼しますね。」


「えっ、あ、うん」


 さくらが梅に近づき、梅の顔を舐めた。何だか懐かしい感触だった。そして、全てを察した。


「さくら、ありがとう」


「はい、喜んで頂けたなら良かったです。」


「本当に……ありがとう……」


 梅の顔から涙がまた溢れて来そうになったが、必死に我慢する。少し出ていたら恥ずかしいので、下を向く。


「どうしたんですか?」


「いや……ね……。ちょっと……ね……。さくら、ちょっと抱き締めさせて。」


「……?はい、いいですよ」


 梅はさくらを抱き締めようにも、大きくなりすぎて昔のようには出来なかったが、それでも抱き締めた。さくらの毛は柔らかく、気持ちよかった。


「ありがとう」


 そう言った後、離れ、何度か頭を撫でた後、家へと戻っていった。


 そして、一ヶ月が経った。その間梅は、村のために主に力仕事を手伝いながらも、試練をクリアするために魔法の練習をしていった。


 ある日、八重、ダイ、マユ、コウ、サクの五人と一緒に魔法の練習をしていると、ダイが何かを決心したように、八重に近づいた。


「あのさ、ねぇちゃん。俺試練に挑戦するよ」


 その言葉にマユ、コウ、サクの三人が驚く。


「……分かった。どうする?村の皆を呼んでくる?」


「うん、お願い」


 ダイは真剣な目であの森へと向かっていった。


「梅お兄さん!行きましょう!」


 急にマユが梅の手を取り引っ張る。


「えっ、ちょっと!?」


「ダイがやっと挑戦する気になったんです!!これは応援しなきゃいけないんです!!」


「ど、どいうこと……?」


 梅が手を引っ張られていると、すぐ横にコウとサクが走ってきた。


「急いでいるから簡単に説明すると、ダイはこれまで一回しか試練に挑戦してない、その一回がとても悲惨なものだったんだよ」


 コウがそう言うと、サクが続けて話す。


「ダ、ダイは自分をすごく嫌がってました……!何で俺は魔法が使えないんだろうって……!」


 大体の事を理解した梅は、二人に礼を言った後に森に向かって行った。


 森の近くに来ると、ダイを応援する声が聞こえきだした。そこは大勢の村の人達がダイを応援しており、その先には、ダイが一人、入り口で袋を持ち立っていた。マユ、コウ、サクの三人がダイに近づき、何かを言っている。ダイが何回か頷いた後、村の人達に笑顔で手を振った後、森の中に入っていった。


 ダイが森に入っていくと、村の人達は例の机の引き出しから地図のようなものを出し、それを囲んだ。大勢で囲んでいるので、満員電車のようにぎゅうぎゅうに詰めて見ていた。


 そこには森のある程度の道と、それを赤く丸い信号のような物が動いていた。おそらくこれがダイなのだろう。すると、突然、信号の光が弱くなり、あまり動かなくなった。すると、周りからは


「あー!駄目かー!」


「頑張れ!」


「まだまだ!」


 と、声が聞こえてきた。


 少しずつだが動いていた信号だが、いつしかその光りも弱くなり、完全に消滅した。すると、森への入り口には倒れているダイが突然現れた。


「ダイ!!」


 ダイの母親であろう人がダイに駆け寄る。それと同時に、梅、マユ、コウ、サクも駆け寄った。


 ダイが目を覚ます。それと同時にダイから力が抜けていった。


「あぁ……」


 ダイから声にならない声が出てきた。それと同時に涙が出てくる。そんなダイを、「ごめんね……ごめんね……」とダイの母親が抱き締める。


 それから、ダイは母親と一緒に家へと戻っていった。村の人達も、残念そうに帰っていった。呆然としている梅に八重が近づく。


「私達も……帰ろっか……?」


 そんな八重の言葉に梅は頷いた。

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