第6話
六話
「それじゃ、魔法の練習をしようか!」
八重が空に拳を掲げ、一列に並んでいる梅と子供達に言うと、子供達から「おおー!!」と、歓喜の声があがった。子供達の中でも一番大きく声をあげていたのはダイだった。そんな子供達を見ていた梅はふと疑問を抱き、それを口に出す。
「ねぇ八重、村の子供達って他にはいないのかな?」
「いるよー!!皆は学校に行ってるー!!」と梅の質問に、八重ではなくダイが元気よく答えた。
「学校……皆は行かないの?」
「行かないっていうか行けない」
「行けない……?どうして?」
「うーん……」
梅の質問攻めに少し困るダイ。梅は「あっ、ごめんね。」と謝った。そして八重が口を開いた。
「代わりに答えると、この村には『試練』というものがあるのよ」
「『試練』……?」
「うん、この村で生まれた子供は、この『試練』をクリアしないとこの村から出ることが出来ないの。」
「そ、そうなんだ……ちなみに『試練』ってどんな事をするの……?」
梅は少し怯えながらも八重に聞いた。
「そんなに怯えなくてもいいよ。遊園地の体験型アトラクション見たいな感じだから。挑戦してみる?」
ダイ達四人は、八重の口から聞き慣れない言葉が出てきたので、少し戸惑っていると、梅は「やってみる」と答えた。
「分かった。ダイ達はどうする?ここで魔法の練習してる?それともついてくる?」
「行くよ!!なあ皆!!」
ダイの言葉に三人は首を縦に振った。
「よし!それじゃあ行くよー!」
八重の言葉にその場にいた全員が「おー!!」と答えた。
試練は、村と広場の間にある『森』で受けることが出来るらしい。梅達は現在、その『森』の入り口前まで来ている。入り口には木で作られた引き出し付きの机があり、その上には人間の右手の形をした絵と、そのすぐ隣には箱があり、その箱にはいくつもの小さな布の袋が入っていた。
森の外見はいたって普通の森で、元の世界にもありそうな森だった。
「それじゃ、説明していくよ」
八重の言葉に梅は頷く。
「それじゃ、机に描いてるこの絵の所に手を置いて」
八重は絵に指をさす。梅は言われた通りに手を置くと、身体に流れているものが、手のひらから木に吸われるような感覚に陥った。梅は素早く手を離し、手のひらを確認する。手のひらに異常はないが、何処か気味が悪い感触がまだ残っているので、ズボンで手のひらを擦る。「うわああああ!!!!」と叫びながら。
そんな梅を見て、八重達は吹き出し、笑いだした。
「何してるの?」と腹を抱えて笑いながらいう八重に、「何か吸い取られて気持ち悪かったから……」と答える梅。
「だよなー!!気持ち悪いよなー!!俺も最初はそんな反応だったぞ!!」
「最初は気持ち悪いですよね!でも慣れてくればなんとも無くなります!」
「そ、そうなんだね……」
何だか急に恥ずかしくなり、顔を赤に染めながら梅は言った。
「よし!いっぱい笑ったし、次の説明ね!」
八重はすぐ隣にある箱から小さな布の袋を取り出し、中身を確認する。そして、「一、二、三……。」と数え、五までいったところで止まった。そして、「全部あるね。」と呟き、その布の袋を梅に渡した。
「これは……?」
「それはうーん……自分のライフみたいものかな、ゲームでいうところのモンスターみたいなものが出てくるから、そいつらから攻撃を受けるとその石が壊れていく仕組み。それが無くなるとその場で『試練』は終了、クリア失敗よ。」
「モンスター!?えっ!?戦うの!?」
「戦わなくてもいいけど、戦ってもいい……みたいな?あっ、でも気をつけてね、その五つの石が全部無くなるとその場で倒れちゃうから。」
「分かった。いやーてっきり的が出てきてそれを撃っていくのかとと思ってたよ。」
「それはごめんね、説明不足だった。この『試練』はね、その石を守りながら、反対側の出口に辿り着けばクリア!何だけど、どうする?今なら辞めることができるけど……」
「いや、やる!男に二言はない!」
「おっ、カッコいいね。それなら自分のタイミングで森に入っていいよ」
森の入り口前に立つ梅にコウとサクが近づいてきた。サクはコウの後ろに隠れている。
「頑張って」
「……頑張って……」
「うん。頑張ってくるよ!」
梅は二人に笑顔で答え、布の袋をズボンのポケットに入れた後に、森の中へと入っていった。八重は応援している子供達を集め、引き出しから紙を取り、地面に広げた。
森に入っていった梅、森の中は暗くはなく、光が無くても辺りは見渡せる状況だった。しかし、モンスターがいつ出てくるのか分からないので、警戒しながら前に進んでいる。
肝試しをしているみたいだなとも思いながらも一歩、また一歩と歩いていく。すると、右手の方向にある木が激しく揺れた。
「何!?」
梅は揺れた木を見る、すると今度は背後にある木が揺れた。
梅はすぐさま振り返り、背後の状況を確認する。すると、また背後の木が揺れた。
「囲まれてる!!」
梅はすぐにその場から走りだした。そんな梅を追うようにして木も激しく動き出す。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう!!)
この状況を打破しようと頭を全力で回転させながら考えていると、ふと、八重の言葉……「倒してもいいし、倒さなくてもいい……みたいな?」が頭に思い浮かんだ。
「倒すってどうやってー!!!」
叫びながらも必死に逃げる梅、少しずつ近づいてくる音が怖くて怖くて仕方がなかった。
「はっ!!そうだ!!」
梅は木を避けながらも全力に走る。これでもかと全力で走ると、音は徐々に離れていった。しかし、それは一時的な物で、音との距離はさっきより縮まっていった。
「よし!!そして!!せーっの!!」
梅は掛け声と同時にその場にしゃがんだ。すると、音も梅と同時に止む。
「いや!!ダメじゃん!!」
梅は再び走り出そうとするが、足が動かず、酷く息切れもしていた。梅は近くの木に寄りかかり、息を整え、音の正体が出てくるのを待つ。
だが、諦めた訳ではない、梅は必死に頭を働かせていた。やがて、音の正体が現れた。大きな爪、大きな牙をもった四足歩行の動物のようなものが二匹。片方がその大きな爪で梅へと襲い掛かる。梅は目を瞑り、自分が終わるのを待った。
そして大きな爪は梅の頭に直撃した。
しかし、梅には傷はつかず、代わりにスボンのポケットから何かが割れる音がした。
(あぁ、そういえば言ってたな……)
間髪入れずにもう一匹の動物のようなものの大きな爪が、梅へと襲い掛かる。そして、また何かが割れる音がした。
(この世界には……)
今度は二匹同時に梅へと襲い掛かり、二つ割れた。
(魔法があるって……)
意識が徐々に失われていく中、梅は梅自身でも気づかない程自然に、四足歩行の動物のようなものの眉間に向かって手を指鉄砲の形にしながら、人差し指の先から鋭い火の魔法を素早く二発撃った。
次に、目の中に入ってきた光景は、八重と子供達四人が梅の顔を覗き込んでいる姿だった。
「お疲れ様」
八重が梅に行った。それに続くように子供達も梅に「お疲れ様」と言った。
梅は起き上がり、辺りを見渡す。すっかり日が落ちており、辺りは暗かった。そして、ここは森の入り口だった。
「クリア出来なかったのか……」
「うん、でも梅はクリアする必要はないよ」
「そうなんだけどさ、こういうのはちゃんとしたい。ちゃんとクリアして、この村の一員って事を胸を張って言いたい」
「……そっか……分かった。私も協力するよ」
「本当に?ありがとう!」
「うん。でも今日はもう終わり、日が暮れちゃってるしね、また明日……それじゃあ皆帰ろっか!!」
八重の言葉に子供達は元気よく返事をした。
帰り道、一列に並んで歩いていると、ダイが梅に近づき、「おんぶしてー!」と元気よく言った。梅は「いいよ」と返事をし、立ち止まり、ダイをおんぶした。
「あっ、僕も」
「わ、私は……私も……。」
「あっ!そしたら私も……いや!私は歩きます!」
マユは一人だけ列からはみ出して前を歩いた。そんなマユとは裏腹に、他の子供達は梅に抱っこやおんぶや肩車やらしてもらっていた。
「もー!!!!皆ちゃんと自分で歩きなさーい!!!!」
マユの声が辺りに響いた。
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