第3話

三話

 梅と八重はさくらに乗り、草原を散々走り回った後、梅達は梅が『転移』してきた複雑な模様がある小屋の前で、さくらは伏せで、梅と八重はさくらに寄りかかり休んでいた。「楽しかったね!」と、八重は魂が抜けたような状態になっている梅に言うと、梅は「ウン、ソウダネ。」と片言で答える。


「ごめんなさい。もう少し、ゆっくり走れば良かったですね……。」


 さくらが申し訳なさそうにそう言うと、梅は我に帰り、「大丈夫!」と笑顔でさくらに返す。そして話題を変えるために、立ち上がり、小屋の扉を開く。そして、あの複雑な模様について聞こうとするが、無くなっている。


「あれ……?」


「どうしました?」


「いや、床に書いてあった二重丸見たいな……変な模様が無くなってる……。」


 さくらは少し考え、そして、「『魔法陣』の事ですか?」と梅に答えた。


「『魔法陣』……?ゲームとか良く聞くやつ?ほら、よく『魔法』とか出すときに出るやつ!」


 梅は自分の記憶の中にあるそれっぽい物で例え、「出よ!炎!」と、以前プレイしていたゲームの中の登場人物の真似をする。


「んー、ちょっと違いますね。」


 さくらは梅に微笑み、説明を続けた。


「『魔法陣』の説明の前に、まずは『魔法』とまた別の魔法、『能力』の説明ですね。」


「『魔法』と『能力』……何かワクワクしてきたよ。」


 さくらの言葉に梅は少年心がくすぐられ、目をキラキラ輝かせる。


「では、二つとも見て貰った方が早いので……八重、『魔力』は大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ!」


 八重はウィンクして答え、立ち上がる。梅は『魔力』という言葉にまたさらに目を輝かせる。


「梅、見ててね。これが『魔法』よ!」


 八重は右手を手のひらを空に向かって出し、少し力を込める。すると、八重の手のひらの上には、この周辺に吹いている風とは違う方向に風が吹いているように感じた。


「ふふん!どうよ!すごいでしょ!」


 自信満々に言う八重に、「見ないから良く分からない。」と梅は言うので、「もう、仕方ないな~。」と、八重は自分の長い黒髪を左手で一本抜こうとする。


「ちょっ!!何してんの!?」


 梅はその八重の行動に驚愕し、八重を止める。


「どうしたの?」


「女の子何だから髪は大切にしないと!!ほら、『髪は女の命』って言うぐらいだしさ!!」


「一本くらい良いよ。」


 と、再び髪を抜こうとする八重、梅は八重を必死に止め、「僕が抜くから!」と、梅は自分の髪の毛を一本抜く。


「ほら、これで何したいの?」


 抜いた髪の毛を八重に渡す。八重は「えっ、あぁ、うん、ありがとう。」と戸惑いながらもそれを受けとる。


「八重の髪は綺麗なんだから大事にしないと!」


 梅のその言葉に頬赤く染めながらも、「ありがとう……。」と聞こえるか聞こえないかの声で言った。


「ん?何て言ったの?ごめん聞き取れなかった。」


「何でもない!さ、この髪を右手に落とすと!」


 梅の疑問何かお構い無しに、八重は髪を右手の少し上の方から落とすと、髪は手のひらを右回りに回転し始める。


「おぉ!回ってる!」


 梅はまた目をキラキラさせながら、回転している自分の髪を見ている。八重は少しすると、「はいおしまい。」と手を閉じた。


「すごいね!!」と興奮が収まらない梅、八重は「そうかな……。」と少し照れているようすだった。


「さっき八重が発動したのは『風』と呼ばれている『魔法』ですね、他にも『火』、『水』、『治癒』、『身体強化』があり、『魔法』は全ての生き物が使えます。」


「ほほぉ……。」


「そして、全ての生き物が使える『魔法』に対し、その個体しか使えない『魔法』が『能力』と言われる物です。『魔法陣』はその『能力』を発動している時に出る物ですよ。」


「こういうのです。」と言うとさくらは、梅と八重の前に一つ『魔法陣』を作った。その『魔法陣』を見て、「あっ!床にあったやつ!」と梅は叫んだ。


「床に書いてあったのと比べると、性能はかなり劣りますが……『魔法陣』に入ってみてください。」


 さくらがそう言うので、梅はその『魔法陣』に入ってみる。すると、次『魔法陣』を出た時には、何故か二人は遠くの方に見える。

 梅は後ろを見ると、梅と八重の前にあった『魔法陣』が梅の後ろにもある。梅はもう一回魔法陣に入ってみると、八重とさくらの所へと戻ってきた。


「瞬間移動……?」と呟く梅に、さくらは「すごいですか?すごいですよね!」と尻尾を大きく振りながら聞く。


「すっごいよ!さくら!」


 少し溜めて言う梅に、さくらは頭を梅に差し出す。


「撫でてください!!」


「もうこいつ~!!」と、わしゃわしゃとさくらの頭を撫でる梅を横目に、八重は誉めて貰った髪を触りながら、小さく笑みを浮かべていた。


 散々撫で回されたさくらは、幸せそうな顔をしながらその場で尻尾を振り続けていた。そんなさくらに、「そういえばさくらって魔法も使えるの?」と梅は聞いた。さくらはさっきの幸せそうな顔とは打って変わって、今度は途轍もなく悲しそうな顔をした。


「いいえ……。実は『能力』を一度でも発現させると、『魔法』を使うために必要な『魔力』に、『癖』のような物がついてしまって、『魔法』が使えなくなってしまうんです……。」


「そ、そうなんだ……ごめんねさくら……。」


 よしよしと、小さな子をなだめるように梅はさくらを撫でる。


「いいえ大丈夫です……それに、『能力』の発現条件はそれぞれで、殆どの場合、『能力』は強力な物なんですが、稀に、これどうやって使うの?っていうような『能力』を発現させてしまう個体も……。」


「なるほど……ギャンブルみたいだね……。」


 梅はさくらを撫で続け、やがてさくらは元気を取り戻した。


「そうだ、無いと思うけど梅、今日の夜何処か寝るところとかある?」という八重の質問に、梅は小屋を指差す。


「小屋で寝泊まりするつもりだったの?良ければ私の住まわせて貰ってる『村』に来ない?」


「『村』……?近くにあるの?」


 梅は辺りを見渡す、周辺には村らしきものは無いことを確認できた。


「さくらの『能力』を使うのよ、さっ、行きましょ!はい、さくら『魔法陣』出して!」


 さくらは「待ってました!」と言わんばかり、八重達の前に魔法陣を出した。八重は梅の手を引っ張りながら魔法陣へと入っていった。それに続いてさくらも入っていく。


 二人と一匹は魔法陣から出ると、目の前には大きな門があり、門には『イヌガミの村』と書かれていた。門の向こう側には家や畑があり、道はある程度整備されていた。


「ここがさっき言っていた『村』、『イヌガミの村』だよ。」


「そうなんだね、というか僕が勝手に入っていいのかな?」


「大丈夫です。実は事前に言ってあります。」


 不安そうに言う梅に優しく答え、梅はほっと安心した。


「さ、行こっか!」


 さくらと梅は八重の言葉にうなずき、二人は足並み話揃え、それにさくらはついていく形で門を潜った。

 門を潜り抜け、畑近くの整備された道を歩いていると、畑の遠くの方にいるおじさんが、「八重ちゃーん!!横にいるのは彼氏かー?」と大きな声で聞いてくる。


「ちょっと『ルー』さん!からかわないで下さい!」


 八重は頬赤く染めながらそう言う。すると、「がはは!!」と愉快に笑う声が返ってきた。


 梅達は奥に進んでいくと、やがて村長の家らしき所に着く。近くには畑や家はなく、他の家より一回り大きい家が二つだけあった。

 八重が梅にここで待っておくように言い、その家へと入っていった。さくらもそれについていく。梅は後ろに見える広い畑を、振り返って見て、(すごいな。)と思いながら、八重とさくらが戻ってくるのを待っていた。しばらくすると、さくらは隣の家へ、八重は梅の元へと戻り、八重は「ついてきて。」とだけ言った。梅は八重に頷き、家の中へと入っていく八重についていく。

 家に入る前に梅は、「お邪魔します。」と一言言って入る。家の中は正面には階段があり、右側にはテーブルやキッチン、左側にはくつろげるスペースがあった。


 緊張している梅を、髭を生やしたおじさんと、バンダナを着けたおばさんが笑顔で向かえてくれた。梅は頭を下げ、「こ、こんにちは、梅って言います。よろしくお願いします。」とたどたどしく自己紹介した。するとおじさん、おばさんの二人を目を合わせ、微笑み、二人も自己紹介を始めた。


「私の名前は『ソーン』だ、よろしく。」


 ソーンと名乗ったおじさんが梅へと手を出し、梅をその手をとって握手をする。


「私はリーヨ、梅くん、よろくね。」


 リーヨと名乗ったおばさんとも握手し。そしてソーンが梅からみて右手を出し、「立って喋るのも何だし、水でも飲みながら話さないか?」と言った、梅はそれに「はい!」と返事をし、ソーン、リーヨ、梅、八重の四人は机を挟んで、ソーンと梅、リーヨと八重が向かい合うようにそれぞれ椅子に座った。机の上にはそれぞれ水の入った木のコップが置かれており、梅は何だか緊張して喉が乾いたので、水を「いただきます。」と言って飲む。そして驚く。


「うまっ!」


 水の美味しさに思わずそんな声を、あげてしまう。すると八重が「美味しいでしょ!?」と嬉しそうに梅に詰め寄ってくる。


「うん、美味しいよ。なんというか甘さというか優しさというか……すごく美味しい!!」


 梅はコップに入っていた水を一気に飲み干す。あまりの美味しさに「ぷはー!」と飲み終わった後に、言ってしまう程だ。


「あっ、ごめんなさい。」


 梅は自分がやっている事に気づき、すぐにソーンとリーヨに謝った。するとリーヨは「別にいいのよ。おかわりいる?」と優しく言ってくれた。梅は「はい!お願いします!」と言い、コップを渡した。


「実はねその水私が汲んできたんだ!」


「そうなんだね、近くに井戸とかあるの?」


「あるよ!今度一緒に行こっか!」


「うん!」


 そんな梅と八重のやり取りを見て、ソーンは心の底から安心した。


「あれだけはしゃいでいるの始めてね。」


「あぁ……良かった。」


 リーヨとソーンがそれぞれそう言うと、リーヨが「おかわりよ。」と梅にコップを渡した。


 そして、梅はソーンの家の二階にある部屋を貸して貰い、そこで寝泊まりすることになった。部屋には既に、ベットやクローゼット、椅子と机があり、普通に過ごすには十分すぎる程だった。


 夜、一人ベットに横になっている梅は、天井を見ていた。そして、(これだけして貰っているんだから、村のために頑張らないと!)と思い、夢の世界に入った。

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