第4話
四話
何処かの世界の何処かにある周りに緑が多い村、『イヌガミの村』に住むことになった梅。梅は日が出る前に目が覚め、風が優しく吹いている外で東であろう方向を向き、一人日の出を待っていた。
梅は大きな欠伸をしながら伸びをする。欠伸をしたせいか、瞳が少し潤う。
「太陽は東から西~。風は気持ちがいい~。」
等と、意味の無い言葉を呟いていると、近くにあった大きな家からさくらが出てきた。
「あぁご主人、おはようございます。」
「おはようさくら。」
「朝早いですね……あっ、私が起こしていたせいですかね?」
「そうかも。」
二人は小さく笑い合い、さくらは「隣、いいですか?」と聞いて来たので、梅は「いいよ。」と返した。しばらくの間、一人と一匹は何一つ音を発する事は無く、風の音しか聞こえ無い。すると、梅は「どうやってさくらは転生したの?」と聞いた。するとさくらは少し間を置き、「……色々あったんです。」とだけ答えた。
「そっか。」
「はい。」
梅はそれ以上は聞かなかった。無理に聞く必要が無いし、知る必要なんて無いからだ。今は八重とさくらと一緒に平和に暮らせればいい。ちょっとずつ……ちょっとずつ前に進んでいこう。梅はさくらに、「ありがとう。」とだけいい日の出を待った。しばらく無音が続く。
「こちらこそありがとうございます。」
さくらが急に喋り出したので、梅は少し驚く。
「『招待』に応じてくださって。」
「それね、うん当たり前だよ。」
何て返していいか分からず、何処か適当になってしまう梅、そしてさくらは喋り続ける。
「最後の賭けだったんです。貴方と会うための……最後の賭け……。」
梅は少しさくらに微笑む。そして、「お疲れ様。ありがとう。」と言ってさくらの頭を撫でた。
「はい……。」
さくらは何処か寂しそうに、それでも何処か嬉しそうな声をしながら返事をした。
「あっ、そろそろ日の出だね。」
梅は徐々に明るくなっていく空を指を差し、そう言った。そして、日の出も元の世界と変わらなかった。「綺麗……。」呟く梅。さくらも「えぇ、本当に……綺麗です……。」と少し昔を思い出しながら言った。
それからしばらくし、朝食の時間が来た。ソーンは資料を読んでおり、ソーンは料理をしていた。梅は「何か手伝う事はありますか?」と聞くと、リーヨは「良いよ良いよ、机で座ってなさい。」と言うので、梅は机で一人水を飲んで待っていた。隣はまだ空席で、八重はまだ起きて来ない。なので、久しぶりに起こそうと梅は八重の部屋へと向かった。
階段を登ると二階に着く。二階には奥と手前に左に二つ、左と同じように右に二つと、合計四つの扉があり、八重の部屋は左側の奥だ。ちなみに梅は左側に手前である。梅は八重の部屋の扉をコンコンと二回ならす。すると、寝ぼけた声で「はぁーいー……。」と返ってきた。
「八重起きて。朝だよ。」
「うーん……うん分かってる……。うん……。」
八重が返事をした後、部屋から大きな音がした。梅は「大丈夫!?」と慌てて扉を開けると、そこにはベットから落ち、毛布にくるまっていた八重がいた。
八重は「いたたた……。」と言いながら起き上がる。八重は衝撃のせいか完全に覚醒していた。梅は八重に近づき、手を伸ばす。
「ありがとう……。」
八重は梅の手を取り、立ち上がる。
「もう、気を付けないと駄目だよ、八重。」
「分かってる。……というか何で女の子の部屋に勝手に入ってるの!?」
八重は少し顔を赤くしながらも、梅を部屋の外へと押し出しす。梅は「えっ、ちょっ!?!?」と言いながら押し出されていった。
「えぇ……。」と梅は落胆しながら一階へと戻っていった。そんな梅とは裏腹に、八重は少し笑みを浮かべながら、机にある梅に似せて作った小さな毛糸の人形をそっと抱き抱えた。
梅が一階に戻る頃には朝食が出来ており、リーヨはお皿に盛り付けていた。「どうだった?」と梅に聞くリーヨ。「何か怒られました……。」と梅は言うと、リーヨは少し笑い、「そっか。」と机の上に料理を盛り付けたお皿を置いた。
梅は椅子に座ると、ソーンは「私も、若い頃はそういう風に怒られていたよ。」と、持っている資料で顔を隠しながら梅に言った。
「そ、そうなんですね……。」
と答える梅、それにソーンは何度も頷く。すると、八重が大きな欠伸をしながら二階から降りてきた。梅は八重に「おはよう。」と言うと、「おはよう。」と返って来たので少しほっとした。
それから何事も無く朝食であるハムエッグトーストを食べていると、リーヨがお皿にイチゴやブドウなどの果物を一杯に盛り付け、それを外に持っていく。梅は、(この世界にも果物あるんだな。さくらのかな?)と思いながら、ハムエッグトーストを食べ進めた。
全員朝食も食べ終わり少し談笑していると、部屋にある時計を見て、ソーンは「そろそろだな。」と立ち上がる。そんなソーンに梅は「どうしたんですか?」と質問する。
「お仕事だ。行ってくるよリーヨ、帰るときはお前の店に行くから。」
「わかったわ、行ってらしゃい。」
今自分の着ている服に被せるようにスーツを羽織る。そして、家を後にした。
「そういえば思ったんですけど、皆さん同じ服を着ていますよね。」
梅はふと疑問に思った事をリーヨに質問する。ちなみに八重もリーヨやソーンと同じ服を着ている。
「あぁ、あの服はこの村に住んでいる事を示す服だよ。貴族がドレスやスーツを着るように、この村ではこの服を着るんだ。」
リーヨは自分の服に指を差しながら説明すると、梅のすぐ横にいる八重が、「梅も着てみるといいよ!」と言った。
(ここに住まわせて貰っているんだから、ここのルールに従うのが普通だよね。)と梅は思い、八重の提案に乗った。
それから梅はリーヨに3サイズを測られた。そして、少し外に出た後、「明日には完成するからそれまでこれ着てて。」と、見た感じ少し大きめの服をリーヨから渡された。それを梅は自分の部屋で着てみるとやはり少し大きく、袖や裾を捲り手足を出した。
服も着替え、一階に戻るとそこにはリーヨの姿はなく、椅子に座って退屈そうにしている八重しか居なかった。
「あれ?リーヨさんは?」
「リーヨさんなら自分のお店に行ったよ~。」
「お店……そういえば朝食の時にソーンさんがそんなこと言ってたね。」
「うん。あっ、そうだ梅。」
八重が立ち上がり梅に詰め寄ってくる。「どうしたの……?」と梅が言うと八重はニヤリと笑い、
「魔法使ってみたくない?」
と言った。
「外で待ってて。」と言われた梅は、言われた通りに外で待っていると、古い本を片手に家から出てきた八重は、「これを持って開いて。」とだけ言って梅に本を渡した。
「分かった。」
と、梅は恐る恐る開いてみる。
一ページは何か書いてあるが文字が、酷く掠れて読めない。そして、進んでいくと白紙のページが出てきた。
「何も書いてないけど……。」
そう八重に言おうとした瞬間、白紙のページが光輝く。そして白紙だったページには、上半分は明るい赤色で下半分も同じような明るさの黄色、そしてその二つが丁度真ん中で分かれ、綺麗に塗られていた。
「おぉ、『二つ持ち』!」
八重の言葉に梅は「『二つ持ち』?と返す。」
「『魔法』が二つ使えるって事だよ。」
「それってすごいことなの?」
「うん、普通は一つなんだけど、たまに二つ使える人がいるんだって。ちなみに私も『二つ持ち』だよ。他にもあるから順番に説明してくね。」
そう言って八重はニシシと笑った。
「まずここ見て。」と、八重が明るく塗られた赤色を指差す。
「ここでは、どの『魔法』が使えるかや、『魔力』の質が良いか悪いかが分かるの。『赤色』って事は『火』が使えるって事、そして、下は『黄色』だから『治癒』が使えるって事ね。あと『明るさ』、ここが明るいと『魔力』の質が良いってことになるのよ。」
「『魔力』の質が良いとどうなるの?」
「『魔法』の威力が上がるんだけど、その分コントロールが難しくなる。でもすぐに慣れると思うよ。」
梅が頷くと八重は「次はここを見て。」と、今度は『赤』と『黄』が綺麗に分かれている境目を指差す。
「ここは『二つ持ち』専用の所ね。ここでは『魔法』を一つずつ発動出来るかどうかが分かるの。」
「えっ、どういう事?自分の意思で使える魔法をコントロール出来ないの?」
「そういう事ね。簡単に言えば、『二つ持ち』の『魔法』っていうのは、二つある電球を一つのスイッチだけでON、OFF切り替えるって事。ここで二つの色が混ざってたりすると、魔法を使う時に二つ同時に発動しちゃうんだよね。一応、本人の努力次第で直せるみたいだけど、すっごく大変らしいよ。」
「複雑なんだね……『二つ持ち』って。」
「そうね……。でもその代わり『魔法』を二つ使えるって考えたら割には合ってるし、かっこよく言えば『力を持つ者の性』って感じ?」
八重はキリッとしたような顔でそう言うと、梅は突然の出来事に、どういう反応をすればいいか分からず黙ってしまう。梅のその反応に八重は顔を赤くし、「もう知らない!」とそっぽ向いた。
「あっ、かっこいいよ!『力を持つ者』!うんかっこいい!めっちゃ興奮してきた!」
梅は慌てふためきながらも、フォローになってないフォローをする。当然八重はそっぽを向いたままで、その周辺では「『力を持つ者』最高!!」という声が響いた。
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