第1話
一話
酷い頭痛がし、梅は目覚める。辺りを見渡すと、そこは上下左右ずっと白が続く世界で、眩しいとまで感じる空間だった。梅は自分の体がとてつもなく軽い事に気づき、何だか気持ち悪く感じたので、自分の体を見てみる、すると全身が透けており、心臓があった部分には丸い玉があった。その丸い玉は輝いており、これを壊されると死ぬとまで感じた。取り敢えず梅は前に進もうとするが、体が動かない。
「丸い玉に『動け』と念じてみてください。」
何処からか声が聞こえ、その声の通りに心に『動け』と念じてみる。すると体が急に前へと加速し、やがて壁らしきものにぶつかった。だが痛くはない、これはどういう状況だと声の主に聞こうとするが、口は開くが声が出ない。
「喋る時も丸い玉に使ってください、そうしないとここでは意志疎通できません。」
『こ、こうですか……?』と梅は丸い玉に言葉を思い浮かべる。
「そう、そんな感じです……そんな感じで喋ってください。」
『いまどうなっているんですか……?』
恐る恐る梅は聞く、女神は一呼吸置いた後に、「はい、順を追って説明します。まず、貴方は貴方の元いた世界……あの町で車に轢かれ死んでしまいました、これは覚えていますね?」と言った。
『……はい。』と、梅は言うと、歯を食いしばり、悔しさで胸を一杯にした。
「まず最初に、貴方は200年ほど寝ていました。」
『200年!?』
梅は驚き、心の中で叫んでしまう、うるさかっただろうかと心配になってしまう程に。
「はい、なので、貴方の知っている人は全員死んでいます。」
『死ん……で……うぐっ……!!』
梅は『死』という言葉に反応し、呼吸が激しくなった。すると、梅の丸い玉が急速に点滅し始める。それと同時に梅は息が出来なくなり、苦しみ始める。
「待っていてください、今戻しますので。」
女神はそういうと、淡々と何かを操作する。すると、梅の丸い玉は元の状態に戻り、呼吸が出来ようになり、息も自然と整っていき、気持ちも大分楽になった。これなら普通に話せそうだ。
「取り敢えず、落ち着きましたか?」
『はい……ごめんなさい……。』
「……続けます。それで死んでしまった貴方は、別の世界……仮に『異世界』としましょうか、その『異世界』生きている間に招待されており、今の貴方は天国に行くか、異世界に行くか、どちらか選べるようになったわけですね。」
『……分かりました、それで、別の世界というのは具体的に……。』
『異世界』というからにはきっと、恐ろしい世界に違いない。怖い話で聞いたことがある。そこには悪魔や幽霊等がばかりが住んでおり、とって食われてしまうのではないかと、梅は内心怯えていた。梅は幽霊が苦手だ。
「『異世界』というのは、貴方が住んでいた世界とは違い、『魔法』や『能力』という概念がある世界……何て言うんでしょうか……超能力が使える世界と言った方が分かりやすいですかね?それで、貴方のような、『人』も居ますし、『動物』も居ます、貴方の住んでいた世界とあまり違いは無いですよ。ちなみにこちらの世界でも200年経っていますので、ちょっと頭に入れておくと役に立つかもしれません。」
『そ、それは良かったです……。つまり、超能力が使えるようになった世界と思えばいいんですね。』
人が住んでいるというからには、安全な場所があるという事だ、もし魔物や幽霊が居てもそこは避ければいいだろう。梅はその言葉を聞き、心の底から安心する。「ほっ。」と、息が出る程に……。
「そんな感じですね。それでですね、詳しくは行ってからのお楽しみなんですが、招待した方達は、貴方の知っている人達です。」
知っている人となれば人は限られてくる、もしかしたらと思い、梅は『それって……。』と聞き返す。
「元の世界は貴方を知っている人は誰一人いません。ですが、この世界なら、貴方を知っている者が少なからず二人……いや一人と一匹がいますよ。」
疑問が確信に変わった。梅は少し八重かはどうか分からないけど、さくらは絶対にいるということが分かった。もしかしたら違うのかも知れないが、今は希望を持ちたい。
女神は少し間を置き、梅に質問する。
「……最後に質問です、別の世界で生きますか?それとも天国で過ごしますか?別の世界で生きていく場合は目の前に出てくる扉を押して開けてください。天国に行く場合は、その光の玉を『二回』手で壊してください。」
梅の前に巨大な扉が出現する。梅は扉を開ける前に一言『ありがとうございます。女神様。』とお礼を言った。もう答えは決まっている。
「礼を言うのは私ではないですよ、私はただ送るだけです。貴方に祝福が舞い降りますように……。」
梅は扉を力一杯に押す。すると、扉は徐々に開いていき、扉の向こうには光が見える。梅はその光に取り込まれ、消えてしまった。
誰も居なくなった空間で、女神は一人喋る。
「本当に、何回ここに来ればいいんですかね、あの人は……。もしかしたら『先生』が言っていたあの……ううん、違いますよね、きっと……。」
女神は気を取り直し、次の『条件が揃った者』を、さっきまで梅が居た空間に出す。そして、「あぁ……出来れば外れてほしかった予感です……。」と女神は一人、残念そうに呟いた。
光に包まれた梅は、何処かへと転送されたようで、明るいものが目に当たる。眩しいと感じながらも目を覚まし状況を確認する、どうやら梅は、立ったままの状態で寝ていたようだった。辺りを見渡すと、そこはどうやら古い小屋の中らしく、埃っぽく、窓から光が差し込み、外はまだ明るいことが分かった。
「ここ何処……って、服が……。」
梅が着ているのはいかにもRPGゲームでいう所の『村人』といった感じの服装で、服やズボンは、動物の皮のようなもので出来ていた。ズボンにあったポケットを調べてると、紙が入っており、そこには『その服装はおまけです。女神』と書かれていた。梅は女神に感謝した後、手紙をポケットにしまう。ポケットに紙をしまう時に、梅は床に何か書かれている事に気づく。床には、梅の周りに小さな円、そして、その外側には複雑な模様が幾つも書かれており、それはもう一つの半径2メートル程の大きな円の所まで、びっしりと書かれていた。梅は「何だこれ。」と思い、その模様に触ろうとすると、手にバチッと、電気のような物が走り、思わず「痛っ!!」と叫んでしまった。
「取り敢えずここから出よ……。」
梅は忍び足で、模様の隙間を一つまた一つと歩いていく。そして、小屋のドアを開け、ようやく小屋の外に出れた。
梅は小屋から出ると、外はどこまでも続きそうな広い草原で、風で草がなびいており、気持ち良かった。太陽がまだ高く出ていたので、時間は大体正午すぎといった所だった。梅は草原を何歩か歩き、仰向けで空を見る。
「本当に異世界に来たんだな……。」
あまり異世界に来たという実感がわかない、何故なら元の世界とあまり変わらないからだ。太陽もあり、風も吹いており、草もある。そして、あの小屋から察するに、きっと家もあるだろう。この風景も、元の世界を隅から隅まで探せば見つかるかもしれない。それ程この世界は元の世界と似ているのだ。ただ一つ今の状況で変わっているとすれば、空気が美味しいということだ、ほんのり甘さを感じる。
梅は大きく欠伸をした。そして、「八重とさくらと一緒にここでゴロゴロ出来たらな……。」とぼそっと呟く。
きっと何処かで八重とさくらと出会うだろう、今は疲れていて眠たい、八重とさくらを探すのは寝て起きてからでいいだろう。梅の年齢は17、まだ時間は山ほどあるのだから。今は、休んでいたい。色々ありすぎた。八重とさくらに出会ったら何て言おうか、『お久しぶり。』?『こんにちは。』?いや、まずは謝ろう、『ごめんなさい。』と。そんなことを思いながら、梅は夢の世界へと入っていった。
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