第4話

 

「さぁさぁ、それじゃ、第1回朝陽と仁2人のための作戦会議はじめるよー!」

 

 おお! となんとなく乗ってみたけど、間島先生が楽しそうにしてるのがなー……。

 複雑すぎる。完全に遊ばれてるよなこれ。

 ため息をついて間島先生を見てると、ビシッと僕に向かって指をさしてきた。

 

「はい! そこのやる気のない朝陽くん! 今回の作戦会議は辻褄を合わせることが大事だってわかってる?」

 

「はい! わかってます! たぶん」

 

「たぶんじゃだめだめ、ええ、まずは2人の馴れ初めから決めていこうか。色々と聞かれた時に答えれないと困るからねー」

 

「はい、先生! 僕達の馴れ初めって嘘をつくってことですか?」

 

「ときには嘘をつくのも大事でしょ? そう思うだろ、至も」

 

「私にふらないでくれないか、まぁ、今回は想定外のことが起きて妊娠してしまったわけだし、君達2人が付き合ってた……とするのが1番だろう」

 

 壁際に寄りかかって僕達のやり取りを眺めていた七海先生に突然話題を振ったのに、ちゃんと答えてくれるところは優しい。

 七海先生の言葉に満足気に頷いた間島先生が口を開く。

 

「そこでだ、こんなのはどうかな? 2人の出会いは高校入学、桜が舞う中、1人桜を見上げていた朝陽、その姿を一目見て心惹かれた仁が朝陽と同じクラスで寮は隣になったから、これは運命だ! と猛アピールの末、2年になってから交際に発展してまだ手を繋ぐことすらできない甘酸っぱい青春をしてたその時! 朝陽が予想外のヒートを起こしてしまった。朝陽のフェロモンを浴びてしまった仁は誘惑に抗えず熱い一夜を……いってぇ!」

 

 間島先生が最後まで言い終わる前に七海先生がスパーンと頭に平手打ちをして、葵先生と柚月先生が「最低だな/ですね」とハモってた。

 途中までは、それっぽかったのに、うん、オチが最低すぎる。それはどうかと僕も思ったし、なんなら1発殴りたくなったから、ちょっとスカッとしたのは、ここだけの秘密だ。

 

 拗ねたように唇を尖らせる間島先生が可愛いと思えてしまうのは、見た目のよさなのか、正直成人した大人がする表情じゃないよなと見てると目が合って突然抱きつかれた。

 

「朝陽ぃ、みんなひどくない? 僕だってこれでも一生懸命考えたんだよ? 2人が上手くいくようにってさ」

 

「先生、本当のところは?」

 

「そのほうが面白いかなって」

 

 てへぺろって舌を出して、あざとい仕草をする先生に呆れて開いた口が塞がらないとは、こういうことを言うんだろうな。

 先生の本音に目眩がしそうだ。完全に面白がってるだけ、他人事だからって。

 

 僕に抱きつく間島先生を御堂が首根っこを掴まえて引き剥がす、その表情は怒っていた。静かに怒るから怖い。

 

「いい加減にしてください、朝陽に気安く触らないでもらえますか?」

 

「うわぁ、独占欲つよっ! 僕は朝陽のパパなんだからね! これくらい許されるはずだよ」

 

「…………」

 

 そういえば、先生の言葉で自分と先生の立場を思い出した。

 僕は先生の養子になるから、パパなのか、この人が……。

 あ、やばい、泣きそう。僕が間島先生のパパに反応して落ち込んだのを見たらしい七海先生は背を向けて肩を震わせて笑うのをたえてるし、柚月先生はケラケラ笑って目尻に涙をためてる。

 葵先生は僕の表情を見てなかったのか、2人の様子に首を傾げてた。

 

 で、間島先生はと言うと見ていたらしい。ひどい! こんなに朝陽のことを好きなのに! とか、僕だけが朝陽をすきだったの? とか、めちゃめちゃ騒ぎ出されて大変だった。

 おかげでフォローするのに、そんなことないよ、僕だって間島先生のこと好きだよ? って言った瞬間、御堂が間島先生を睨みつけるし、地獄絵図というか、なんというか。

 それに慌ててるのに先生達は全然動じないし、僕だけが疲れきった気がする。

 

 最終的に決まったのは、僕と御堂は付き合ってた。抑制剤も服用しててヒートを起こすをわけがなかったのに、ヒートを起こしてしまい、避妊薬だって飲んだのに妊娠したと。

 それで先生のアドバイスで遺伝子検査したところ、僕と御堂は運命の番だったってことにするらしい。

 検査結果がどうであれ、僕達は運命の番設定でいく! と先生からの決定事項だ。

 挨拶しに行く順番は御堂の父が1番最初、御堂の父はフリーの何でも屋みたいな仕事しててボディーガードもしてるから、僕のボディーガードを頼むらしい。

 

 ボディーガード頼むほど僕身分偉くないけど? と素朴な疑問を口にしたら、御堂家に挨拶しに行ったら必要だろうということなんだ。

 ボディーガードが必要な挨拶に不安を抱えるも、なんとか設定? は無事に決まってよかった。

 

 寮に帰る途中、御堂が父親のことを話してくれた。

 本当は会いたくないほど嫌いだし、あんな奴に挨拶しに行く必要はない! と本音はそう思ってるが、それでも挨拶しに行くことを決めたのは、御堂家に挨拶行く前に味方につけておくためらしい。

 どんなに最低な父親でも戦闘のプロだから、なにがあっても僕を守るのに必要な存在だと。

 それを聞いた僕としては、余計に不安しかないよ。

 戦闘のプロを味方にしなければいけないって、御堂家でなにが起きるんだろうか。

 一抹の不安を抱えながら、今日は御堂とはわかれて自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 1週間後、会う約束をした御堂のお義父さんに会いに行くために、2人で出かけることになった。

 お義父さんは事務所を持つわけでもなく、どこか所属するわけでもなく、あくまでも一匹狼スタイル? っていう感じらしいのと、あとは御堂のお義父さん、女性にだらしなくて女性のところを転々としてるらしい。

 それを聞いた時、御堂がなぜ結婚や番に拘るのか、なんとなくわかった気がした。

 

 電車を乗り継いで御堂のお義父さんに会いに来たわけだけど、電車の中で御堂の距離が近かったから、顔が熱くてたまらない。

 絶対今、僕は真っ赤になってる。だって、御堂の香りをいっぱいに吸い込んだら、あの日のことを思い出すし、本当ダメだ。

 火照る顔を誤魔化そうとして、から回ったのはつらかった。御堂が困ってたし。

 

 

 

 僕が一方的に気まずい思いしながらも待ち合わせ場所の駅前につくと、お義父さんのことは一目見てわかった。

 女性達が熱い視線を送ってるし、凄い目立ってる。それに圧倒的なαだと本能でわかる。

 Ωはたまったもんじゃない、あんなにαのフェロモンダダ漏れにされたら、まだ少し距離が離れてるのにフェロモンを感じて、肌がザワつく。

 僕の異変に気づいた御堂が心配げに僕を見てくる。

 

「大丈夫だよ、ちょっとザワつくけど……」

 

 御堂が舌打ちをして忌々しそうにお義父さんを見るから、僕は首を傾げた。

 

 なんで、そんな目で見てるんだろう?

 

 なんとなく僕は聞くに聞けなくて、黙り込んでるとお義父さんが僕達に気づいたらしく近づいてきた。

 そして、遠目だからわからなかったけど、傍で見たら御堂に顔が似てる!? 御堂の未来を見てるようなその容姿に僕が、ぼーっと見つめてると背後から腕が伸びてきて、御堂に抱きしめられる。

 

 それを見たお義父さんが意地悪そうな笑顔を浮かべて、僕に近寄ってきて、顎を掴まれ視線を合わせる。

 

「ふっ、可愛いな、仁なんてやめて、俺の嫁にならねぇか?」

 

 なんて口説いてくるから、御堂がお義父さんの手をたたき落として声を荒らげる。

 

「ふざけんな! 汚い手で触んな!」

 

 御堂の反応を楽しんでるようで僕の頬をすりっと撫でてきて「なんて呼ばれたい?」って流し目で聞いてくるから、心臓に悪い。これがタラシか……と1人納得してると、御堂が僕の肩を掴んで御堂の腕の中に、すっぽりおさめられて密着する。

 

 近い近い! 無理無理! なにこれ、どんな状況!?

 

 心の中で絶叫するも、僕と御堂の様子にニヤニヤとお義父さんは笑うだけだ。

 

「おうおう、ガキがいっちょ前に威嚇かぁ?」

 

「うるせぇ! 朝陽に触るなって言ってるだろ!」

 

 一触即発の状態に僕が慌てて、2人をなだめようと口開く。

 

「あんまり、からかわないでください。御堂をいじめないで」といえば面白くなさそうに僕を見てくる。

 

「ちっ、つまんねぇな、んなこと言うなよ、俺と朝陽ちゃんの仲だろ?」

 

 いやいや、どんな仲だよ、僕とお義父さん初対面だろ! とはさすがに言えなかった。

 一応御堂のお義父さんだし、今後お世話になるみたいだし、機嫌を損ねるのは得策じゃない。

 困ったように笑うだけで返すと御堂が不機嫌をあらわにして僕の肩を抱く腕に力がこもる。

 

 うーん、なんというか、朝からずっとこの調子というか、御堂との距離が近くて心臓押しつぶされそう。

 さっきから僕の心臓過剰な程に働いてるよ? 大丈夫これ?

 

 走ったあとのように鼓動がドッドッドッと騒がしくなって頬が火照り、熱を帯びて恥ずかしさと嬉しさと色んな感情がごちゃまぜになって俯くことしか出来なかった。

 自分の頭上からはまた親子喧嘩がはじまってるのだけれど、止める気力もない。

 

「おいおい、孕ませたくらいなんだからやることやってんだろ? なにを今更嫉妬する必要があんだよ、余裕がない男は嫌われるぜ?」

 

「アンタが気に入らないだけだ」

 

 あけすけなもの言いをするお義父さんの言葉に開いた口が塞がらないとかいうのはこういう状況かもしれない。

 正直言ってデリカシーがない。まさか間島先生と同じくらい、下手したらそれ以上にデリカシーがない人がいるなんて。

 御堂から聞いてて、わかってたことだけど、さらととんでもない事を言われるといたたまれない。頬を掻いてぽつりと言葉を紡ぐ。

 

「あー……、僕達別にその……初めてのヒートで妊娠したので、その時だけです……」

 

 言い訳がましいなと我ながら思うがそれでも誤解はしてほしくなかった。

 御堂も僕も真面目にやってきたつもりだったし、まさかこんなことになるなんて予想だってしてなかったのだから。

 お義父さんがなにか言いたそうに口を開きかけて閉じて、僕の頭をポンポンと撫でる。

 

「まっ、そういう事にしておいてやるよ」

 

「本当だからね? 嘘言ってないよ、僕!」

 

「はいはい、わかったわかった、まっ、結婚も番も好きにすりゃいい」

 

 とくに反対されることなくあっさりと認められたけど、そのあと御堂にお義父さんがなにか耳打ちして、なんて言ったのか御堂がすごい嫌そうに顔を顰めてたから気になったのは気になったけど僕はなにも聞けなかった。

 本当の恋人でもなんでもないのだから、僕達二人の関係は責任という形で作られるものだ。御堂のプライベートに踏み込むわけにはいかない。

 

 お義父さんへの挨拶がすんで、そのあとは2人でまた寮に戻るだけ。途中どこか寄るとか、そういうのはなかった。

 これが恋人だったら……とか、考えてしまうのは僕が欲深いからかな。

 

 

 

 

 お義父さんへの報告が終わってから2週間が経過した頃に間島先生から御堂家に挨拶に行くよと放課後の教室で言われた。

 養子縁組だとかの必要な準備は整ったから、これで僕の後ろ盾は間島家になるとのことだ。

 

 

 

 

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