陽村アマネは糖分を取りたい(まるでシリーズ編)
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後四時四三分]
[津雲市
「……あづい……」
時期的にはようやく夏に差し掛かるところだが、気温気候はもはや夏。コマリに日傘を差されながらも、アマネは溶けかけていた。
「アマネちゃん、ホント暑いの苦手なんだね」
「うむ……気温が高いと、それだけで体力が
やや心配そうにアマネを見やるマユナ。
アマネはもはや息も絶え絶えだったが、その眼はまだ死んでいない。
「しかし――この暑い時こそ氷菓の味が最も活きる時……! 今日はお前の
「モチロンでごぜーますよ。イイの紹介しますぜゲヒヒ」
ギラリと眼を光らせるアマネに、小悪党のような卑屈な笑みで揉み手するマユナ。
扱うのは麻薬などではなく、単純に
「うむ……! いざ行かん! まだ見ぬ
がっ、と拳を握り力強い足取りで歩き出すアマネだったが――
「……あづい……」
「ヘロヘロやないかい」
――三歩進んだところで力尽きた。
虫の息だった。
そんなアマネをなんとか励ましたりなだめすかしながらマユナが立ち寄ったのはコンビニエンスストア・セブンイレブン。
そこで三人が手に入れた物が――『まるでシリーズ』
正式名称は『果肉をそのまま食べているようなアイス まるでシリーズ』であり、セブン&アイグループのプライベートブランド『セブンプレミアム』に連なる商品である。
アマネとコマリは『果実の味わいと食感 まるで完熟マンゴー』
マユナは『ねっとり濃厚な味わい まるで完熟バナナ』をそれぞれ購入した。
セブンイレブンを出て、店先で早速商品の封を開けるアマネ。
鮮やかなオレンジ一色のアイスバー。チョコチップなどといった混ぜものの類は一切見られない。
「ふむ。見た目は簡素だが……いざ」
はむ、とアイスバーを一口食べたアマネに――衝撃が走った。
――食感である。
従来のアイスバーと一線を画す、ねっとりとした柔らかさ。
それこそアイスクリーム――否、マンゴーの果肉そのものかと錯覚するほど。
そして次に、脳髄を直撃する濃厚な果実の甘み。
朝、起き抜けにこれを食べれば一撃で眠気が吹き飛ぶといっても過言ではない。
『果実の味わいと食感』『まるで完熟』という商品名に偽りなし。
確かな説得力を持った味に、アマネは目を閉じた。
「美味……っ!」
炎天の地獄から一転、甘味の楽園へ導かれた魂。
その幸福に感謝しながらの、アマネ渾身の太鼓判であった。
コマリは相変わらず無表情でもちもちとアイスバーを食べていたが、アマネはもう脳波を計るまでもないだろうと思っていた。
「うむ……!
満足気にマユナに向き直ったアマネだが、そこで異変に気付く。
――マユナがゴリラになっていた。
ゴリラ顔で、もっちゃもっちゃとアイスバーを
「……マユナ?」
「
言語も完全にゴリラ。
アマネも初めて目にする、かつてないほどのゴリラっぷり。
「まさか……あまりにも本物のバナナに近いほどの完成度ゆえにそうなったのか……!? それほどか……まるでシリーズ……!」
「
戦慄するアマネに、うなずくゴリラ。
アイスバーを完食しても、マユナはしばらくゴリラのままだった。
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