催眠術
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後一三時二一分]
[公立
「催眠術を習得した」
「……催眠術の前に習得するものがあるだろ。遠慮とか配慮とか」
昼休み。昼食を摂り終えたアマネは唐突にいつものドヤ顔でランセに話しかけるものの、ランセもいつも通り冷淡だった。
「で、その催眠術で何をするつもりだ。お前」
「うむ。習得した技術は試したい性分でな。しかし今のお前やコマリにその類の術はまず効かないのだ」
「……それで?」
「マユナで試す」
「遠慮も配慮もないな」
自由すぎるアマネに呆れるランセだったが、実験台がマユナであるなら別にいいか……とアマネを止めることもしない。
二人とも、マユナに対する遠慮も配慮もなかった。
「マユナ」
「ん? なに?」
コマリといっしょに紙相撲に興じていたマユナに声をかけるアマネ。
すぐさま制服のポケットからタコ糸がくくりつけられた五円硬貨を取り出し、マユナの目の前でひゅんひゅんと振り回す。
「いいなりになーれ」
「バカにしてるのか」
それは催眠術というにはあまりにも雑だった。
雑で、
古臭く、
ありきたりで、
そして大雑把すぎた。
それはまさに侮辱ですらあった。ランセもそう言いたくなるほどに。
しかし、
ふっ、とマユナの両眼から光が消えた。
そばに居るコマリと全く同質の、月も星も見えない夜空の眼。
口元もすこし開いたままで、まさに茫然自失というほかない様相。
マユナは、催眠状態に
「「…………………………」」
珍しく、すごく気の毒そうな顔で互いを見合うアマネとランセ。
「……両手を挙げろ」
「……うん……」
アマネの命令に対し、
「……上着を脱げ」
「……うん……」
アマネの命令に対し、する、とブレザーを脱ぐマユナ。
「……………………完全に術が効いているな」
スマートフォン、のような端末でマユナの脳波形を計測しながらポツリと漏らすアマネに、ランセは無言で頭を抱えた。
「……もとにもどーれ」
再び、マユナの目の前で五円硬貨を雑に振り回すアマネ。
すぐさま、マユナの両眼に光が灯る。
「――アマネちゃんどしたの? ……あれ? なんでお姉ちゃんブレザー脱いでるんだろ……」
アマネに術をかけられた瞬間から意識や記憶が飛んでいたのか、なぜ上着を脱いでいるのか不思議に思うマユナ。
「……お前、解ってるよな」
「……うむ。誰にも漏らすつもりはない」
マユナから背を向けて、短い言葉をかわすランセとアマネ。
――なんてことはないただの昼下がり。
そこで、なんてことでは済まされないまぁまぁ危険な秘密を抱えてしまった二人だった。
当のマユナはなんのことかと一瞬疑問を抱いたものの、よくわからなかったので大して気にも留めず、再びコマリと紙相撲を始めた。
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