テレビショッピング

          ☆    †    ♪    ∞


      [二〇××年 某月某日]

[午後五時一六分]

      [乙海いつみ家 マユナ自室]


「――それでは本日紹介する商品をお願いします!」

「うむ」


 ランセ、ユアナ、サリナが見ている前で、なぜかテレビショッピング的なやりとりを始めるマユナとアマネ。


「――コマリだ」


 マユナの部屋の引き戸を開けて、部屋の外で待機していたコマリの手を引いて皆の前に披露するアマネ。


「おーっと? これはいつもの、フツーのコマリンですねー。かわいい。でもアマネさん、このコマリンはなにができるんですか?」


 何の変哲もない、いつも通りのコマリを前に疑問をていするマユナ。

 アマネは「うむ」とうなずきながら――


「膝枕ができる」


 ぺそ、と正座させたコマリの膝に頭を乗せ、文字通り枕にした。


「なァーーーるほどォーーー! ほっ、他にはありますか!?」


 即座にスマートフォンでアマネとコマリを撮影するマユナとサリナ。やはり親子であった。

 アマネはおもむろに身を起こし、


「抱き枕にもなる」


 もにゅ、とコマリの胸に顔をうずめた。


「オアーーーーーーーーーーー!! これは素晴らしい! いやしかし! そんな機能盛りだくさんだとお高価たかいんじゃないですか!?」


 割と汚い奇声を上げながらさらにアマネとコマリを撮影するマユナ。サリナはどこからか自分の財布を用意していた。


 が、


「――お前は何を言っている? コマリは私の臣下ものだぞ。手放すどころか値を付けて売りに出すなどもってのほか。口を慎め」


 無邪気な小学生だったのが、いきなり支配者と化すアマネ。

 紅玉の瞳はたちまちに零度。凍てついた視線をマユナに突き刺す。


「えっ、あ、はい。すいませんでした」


 上がっていたテンションを地に叩きつけられたマユナは、しょんぼりとその場で正座する。サリナも自分の財布をしまっていた。


「……それならなんで遠見を商品扱いした」


 ランセの指摘はもっとものはずだが、アマネはそれをわざとらしく無視して再びコマリの膝枕に頭を乗せる。


「はー。いーなーコマリンの膝枕。癒やされそう……ん?」


 言いかけたところで、ユアナの控えめな視線に気付くマユナ。


 見れば、ユアナも正座していた。


 さも、「どうぞ」と言わんばかりに。


「……いやっ、あの……ユアナさんそんな気をつかわなくても大丈夫っすよ。ええホント」


 ユアナの意図を正確に読んだマユナは、顔を赤くして照れながらそれを遠慮する。


 しかしランセはまるで自室の床に身を横たえるがごとく、平然とユアナの膝の上に頭を乗せた。


「……お前は変な所で遠慮するよな」

「そーゆーランセちゃんはユアナに対しては結構遠慮しないよね!!」


 ごく自然に自分のことを棚に上げるランセに、さすがのマユナもちょっとご立腹だった。

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