陽村アマネは糖分を摂りたい(大粒ラムネ編)
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後一時一六分]
[公立
マユナとアマネが、机を挟んで向かい合っていた。
互いに表情は真剣。
机の上には――ジェンガ。
その側には袋を大きく切り開かれた、いわゆるパーティー開けと呼ばれる形で置いてある――森永製菓『大粒ラムネ』
「………………」
無言で大粒ラムネを一粒つまみ、すぐにカリコリと噛み砕くマユナ。
瞬間、脳のギアが上がったかのごとく目の色が変わる。
高まる集中力。
全神経を人差し指一本に集中し、たった一突きでジェンガのブロックを押し出した。
その部分だけ銃弾が貫通したかのような威力。
ジェンガ全体は微動だにしない。
押し出されたブロックは対面のアマネが難なく受け止め、何事もなかったかのようにジェンガの最上段に積まれた。
対するアマネも無言で大粒ラムネを一粒食べて――目の色を変える。
びっ、と一瞬でブロックを抜き取るアマネ。一切の迷いがない早業に、その様子をなんとなく見物していたクラスメイトの何人かが感嘆の息を漏らした。
森永ラムネ――日本における錠菓の中でも長い歴史を持つ定番商品。
それを一粒当たりおよそ一.五倍にサイズアップしたのが大粒ラムネである。
ブドウ糖を九〇パーセント配合していることから安価かつ手軽に糖分が補給できるとして、近年においては会社員や受験生などをターゲットにした結果売上を伸ばしたという記録も存在する。
マユナとアマネのように一粒食べれば驚異的な集中力を発揮できる――というわけではないものの、集中力を持続させるための一助となっているのは間違いない。
お互いに大粒ラムネを食べながら、一つ、また一つと難なくジェンガのブロックを抜き取っていくマユナとアマネ。
しかし――ジェンガが完全攻略されるより先に、大粒ラムネが尽きた。
「…………………………???」
大粒ラムネが食べられなくなった途端、目の色が元に戻って困惑の表情を浮かべるマユナ。
ブロックを抜き取ることすら忘れ、自分が持っていた消しゴムをジェンガの最上段に積む。
「…………………………???」
アマネも完全に集中力を失い、最上段の消しゴムを下段の適当な位置に差し込んだ。
「……なんで集中力どころか知性まで失ってるんだ」
もはやジェンガのルールすらも忘れてしまった二人に対して、うんざりしながらツッコむランセだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます