VAR判定

          ☆    †    ♪    ∞


                    [二〇××年 某月某日]

                   [午前一二時三一分]

                 [公立春日峰かすがみね高校 家庭科室]


「チビスケ。お前今つまみ食いしただろ」

「……してない」

「しただろ」

「……してない」


 家庭科の授業中、アマネがパンケーキの生地をつまみ食い――しかも自分の班ではなく別の班が作ったもの――をしたとして、アマネを追及するランセ。


 当のアマネは、かたくなに容疑を否認する。


「あくまでも陽村選手は(人としての理性の)ラインは割ってないと主張していますが、陽村選手について最近詳しくなってきた解説の雉本きじもとさん、いかがでしょうか」


 ランセとアマネをすこし離れた場所から眺めながら、実況さながらに解説を求めるジュリ。


「えー、陽村選手はスイーツに関しては結構食い意地を張ってしまうタイプなんですね。パンケーキの生地なんてお店で提供するものでもないですし、こういう機会でもないと食べられないワケです。陽村選手がそこを見逃すとは思えませんね」


 ジュリに応じてか、どことなくそれっぽい雰囲気を出しながらハトネは解説した。


「なるほどー。おっと、ここでVAR判定が出たようです」


 ランセにマユナが近づき、携帯電話の画面を見せる。


 そこには、結構俊敏な動きでがっつりつまみ食いを決めるアマネの姿が動画として保存されていた。


「あー! これは決定的でしょうか!」

「なんでそこを動画に撮っていたのかというツッコミはまぁ置いといてですね、そもそもきざみ主審以外の何人かも目撃してますし、えー、なにより陽村選手の口元にちょっとだけ付いちゃってるんですよね。生地が。わざわざ動画を見るまでもないですね」


 ハトネの解説通り、アマネの口元にはほんのわずかにパンケーキの生地が残っている。


 致命的な証拠が二つも揃い、もはや容疑は『はっきりとした明白な間違い』となった。


「なにか言い残すことはあるか」


 絞首台のボタンをためらいなく押せる刑務官のような、冷徹な視線をアマネに向けるランセ。


「……………………コマリにも一口だけ食べさせてやってくれ」


 アマネの嘆願は受け入れられ、コマリもパンケーキの生地を一口食べることができた。


 ちなみにパンケーキの生地は小麦粉が糊化こかしていないため消化が非常に悪い。食べ過ぎは厳禁である。

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