リトマス試験紙
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後四時五七分]
[公立
「っしゃこれでアガリじゃおらーーー!」
「ウホーーーーーーーーーーーーーっ!!」
放課後、教室にゴリラ――もといマユナの悲鳴が響き渡った。
マユナ、ジュリ、ジュンの三人でスマートフォンのババ抜きアプリで対戦していたところ、五回戦を終えてトータルでマユナが最下位となった。
敗因は、完全に運が悪かった、としか言いようがなかった。
直感に任せた結果、ピンポイントでババを引くマユナ。
そしてマユナは顔に出やすいので、ババの所持があっさりバレる。
なぜだかジュリとジュンはマユナが所持しているババを華麗に回避していく。
それが五回繰り返されただけの、あまりに無慈悲な内容だった。
――もしババ抜きのルールが『最後までババを守りきったプレイヤーの勝ち』であればマユナの圧倒的勝利だったが、それはただの仮定でしかない。現実は非情である。
マユナの敗北は、動かなかった。
「
「ばつー」
やんややんやと盛り上がるジュリとジュン。
対してマユナはゴリラ顔のまま沈痛な面持ちをしていた。
「明日からなにを食べて生きていけばいいんだろう」といった、深刻な問題を抱えたようなゴリラ顔である。
「よーし。じゃーエロいポーズとエロいセリフの刑だな!」
「なァっ!? ひっ、人の心とかないんか!?」
「うっせー!
言いながらスマートフォンの画面をマユナに見せるジュリ。
みるみるうちに、マユナが赤面していく。
「――ムリですゆるしてください!!」
見事なジャンピング土下座を決めたマユナだったが、ジュリの態度は変わらない。
「最初にドベだったヤツは罰ゲームなーっつって、その上で乗ってきたのはオメーの方だろが! ババ抜きなめんな!」
「なめんなー」
「ふぐぅうぅうぅぅぅぅ……!」
潔くない、とばかりにマユナを責め立てるジュリとジュン。しかし顔には『面白そうだから早くやれ』とはっきり書いてあるかのようだった。
観念して、ぎぎぎと関節が錆びつきかけたロボットのようなぎこちない動きでポーズを取るマユナ。
前かがみになり、両腕で胸をはさむ。
ぎゅむ、と制服の上からでも解るほど豊満なマユナの胸がより強調される。
「…………………………ぉ、お姉ちゃんで………………シ、シコシコして…………………………」
最後の方はもはや蚊の羽音のような消え入りそうな声で、屈辱の果てに命を乞うかのごとくその言葉を口にするマユナ。
本当に火が出てもおかしくないほど、顔を真っ赤にしていた。
「ちょーっと表情カタくないッスかァー!? もうちょい目線こっちにもらえますゥー!?」
「すけべー」
勝者の余裕か、それとも特権か。ジュリとジュンははしゃぎながらマユナの姿を撮影する。
様々な感情が限界を迎えたのか、マユナはその場に倒れ込んで両手で顔を隠しながらさめざめと泣いた。
照れ屋のマユナにとってはかなりの責め苦であった。
「はー笑った笑った。まーアレよ。こういう日もあるさ!」
「どんまいー」
「……鬼じゃ……おまんらは人の皮をかぶった鬼じゃ…………あっ」
ジュリとジュンの紙一重ほどの薄っぺらい慰めに対して恨み言を返すマユナだったが、そこで何かに気付いたのかスマートフォンを取り出す。
「……パパだ」
「「………………パパ?」」
マユナの短い一言に、口を揃えるジュリとジュン。
「……あー、なるほど。こりゃこうしちゃいられない! ちょっとお姉ちゃんユアナのトコに行かなきゃ……ってどしたの二人とも」
父親からのLINEを見て立ち上がるマユナだったが、そこでなぜか顔を赤くしているジュリとジュンに気づく。
「……いや、あれ、わかっちゃいるんだけどなんかその………………すまねぇマユコ! ウチらのココロは汚れてる!」
「す、すまねー……」
二人ともしどろもどろになりながら、マユナから逃げ出すように教室から出ていくジュリとジュン。
「………………………………いや、本物のパパだし」
やや遅れながらも二人の心情を察したマユナは、独り静かにツッコまざるを得なかった。
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